The collection of MARIBAR 

マリバール 文集・ギャラリー

3 出会い

2005-05-26 15:07:47 | 小説 フィフティーン
 駅の近くのデパートで玲子は、服を買った。他には何も買うものはない。幸子と玲子は、化粧品売り場のサンプルをいじくりながら、これからどうするか話し合っていた。幸子が真っ赤なマニキュアを小指に塗りながら言った。
「由理子さんちでも行こうか。あそこならたまり場みたいなもんだしさ」
「由理子さんいるかな」
「いるよ。絶対」
「でもあたし、1回も行ったことないし」
「そんなの大丈夫だよ。あの人いい人だしさ」

 由理子は、幸子や玲子より1つ年上で高校は6月に中退して今は無職。古い小さなアパートに住んでいる。幸子は由理子と、割と前から友人で由理子の家にも何回か行ったことがあるらしい。由理子は、幸子と玲子を喜んで部屋に入れてくれた。
「よかった。3人でつまんないから誰か電話かけて呼ぼう、とか言ってたんだ」

 部屋にはリーゼントの男が2人いた。
「由理子さん、この娘玲子っていうんですよ」
と幸子は言った。玲子はペコッとおじぎをした。
「ああ、知ってるよ。結構目立ってたからね。紹介するね。これが修二、こっちが仁志。2人とも今はフラフラしてんの、私とイッショ。」
「よろしく」
と、2人は煙草の煙の中から玲子と幸子を見た。
「オレ、そっちの娘は知ってるよ。顔だけね。前に何回か会ったことあるだろ」
と、仁志という男が幸子を見て言った。仁志という男はやさしそうな目をしていて幸子が
「うん、前何回かこの家に寄ったとき」
と答えると、ニコっとして
「そーだろ」
と言った。由理子は
「立ってないでこっち来なよ」
と言って自分は立って、2人にグラスに氷とコーラを入れて持ってきてくれた。由理子は座ってマイルドセブンの箱をとって
「吸う?」
と幸子と玲子に聞いた。
「はい。すみません」

 クーラーが入っているので、部屋は締め切ってある。煙が部屋中立ちこめている。
「幸子、あんたたち中3でしょ。高校行くんでしょ。勉強しなくていいの?」
「私は行かないつもりです。玲子は行くらしいけど」
幸子は、由理子が突然そんなことを言い出したので少し驚いていた。
「ほんとお。どこ行くの?」
「まだ全然決めてないけど」
「南高だけはやめときなよ。あそこはほんと、先公も行ってるやつらも汚ねえんだから。ダチもいたけど、いいやつはみんな先公につぶされちまったよ」
「俺もさ行ったんだぜ。2ヶ月ぐらい。修二は最初から行かなかったんだけどな。今は夏休みだから行ってるも行ってねえも、どうってことねえって感じだよ」
「俺はいつまでもフラフラしちゃあいねえよ。トビの仕事やろうかと思ってよ」
と修二という男が言った。修二は目がきつくて上がり気味で、冷たそうな印象を受ける。仁志に比べてずっと無口だ。
「おめえ本気かよ。そんなこと今まで一度も言わなかったじゃねえか」
「トビの仕事ってハンパじゃなく大変なんでしょう」

 由理子も驚いていた。
「俺はやるんだ。決めたから。これで最後だからアンパンやるぜ」
由理子はビニール袋5枚とシンナーを持って来た。
「あんたたちもやるでしょう」
「あたし、いいです」
玲子はこれまでにもシンナー遊びはやったことはなかった。以前、幸子がやっているの知って、やめさせた程である。幸子は由理子から袋を受け取ったが、玲子を見て、無言で「どうしよう」と玲子に聞いていた。玲子は
「やりたいの」
と聞いた。幸子は答えなかった。
「やれば」
幸子は少し考えた。
「やっぱりよすわ」

 そうしている間に修二と仁志と由理子はもうビニール袋を萎ませたり膨らませたりしていた。シンナーの臭いで玲子は頭痛がした。
「俺まだ正気だぜ」
仁志はそう言っているが目がもうトロンとしておかしくなっている。幸子も由理子がやっていたシンナー袋を回してもらってやっていた。玲子は由理子の前で、幸子にどうしてもやめさせるということはできないので黙っていた。

 仁志と由理子と幸子はおかしくなりながら3人でヘラヘラ笑っていた。
 修二は黙っていた。やっぱり目はもう完全に悦に入っている。鋭さがまったくなくなっている。
「玲子ちゃんだっけ?やる?」
と言って袋を玲子の目の前に突き出した。玲子はその強烈な臭いに顔を背けた。
「いらない。修二さんもそのへんにしといたら」
「オレ?オレは大丈夫さ」

 玲子は修二の手から袋を取り上げて、自分の後ろに隠した。
「あ、俺のアンパン、アンパン返して」
「返してほしい?」

 修二は頭をガクッと下げた。玲子は袋をその場において立ち上がった。修二はシンナーの袋を取って
「どしたの?」
と玲子を見上げた。
「由理子さん、私そろそろ帰ります」
「そーお」
「え。玲子帰っちゃうの」
「幸子はまだいいよ。私、母親そろそろ帰ってくるしさ」
「じゃ、ばーいばーい」

 幸子も由理子もほとんど、玲子の言ったことをわかっていないようだったが、玲子はかまわず外へ出た。夕方ではあったが、ムッとするような暑さだった。でもシンナーの臭いから逃れて、玲子は気持ちよかった。

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