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映画『リトル・マーメイド』(実写版)

2023年06月13日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

アニメ版「リトル・マーメイド」(1989)は、
旅行中のロンドンで観た。
しばらくディズニーから遠ざかっていたので、
何時の間に、こんなに進化していたのか、と驚愕した。
日本では公開前だったので、
アメリカにいる友人に頼んでビデオを送ってもらったら、
小学生の娘がはまってしまい、
学校から帰ると毎日観ていた。
それが、「美女と野獣」(1991)「アラジン」(1992)「ライオンキング」(1994)へと続く、
ディズニの第2次黄金期の始まり
「ディズニールネッサンス」の最初の作品となったことは、
後になっての位置づけである。

ディズニーは、今、
アニメの過去作品の財産を次々と実写化している。
CG技術の進化によって、
アニメでしか表現できなかったものが
実写化で可能、ということか。
しかし、CGでやるのなら、
それはアニメと同じではないか、
とも思うが、
実写化で成功した作品、失敗した作品があり、
その評価は様々だ。

で、この「リトル・マーメイド」の実写化作品。
主役のアリエルを黒人が演ずるのが、物議をかもしている。
「原作アニメへのリスペクトが足りない」、
「これは、私のアリエルじゃない」ということらしい。
結果は、アメリカでは大ヒット。
しかし、中国や韓国では不入りらしい。
なんでだろうね。

アメリカでは、
週末3日間で、実写版「アラジン」のオープニング記録(9150万ドル)を超える
9550万ドルをあげ、
今年の公開作品で4番目となる大ヒットスタート。
3週を経過した段階で、2億2000万ドルとなっている。

日本では、6月9日~11日の国内映画ランキングで、
初日から3日間で動員46万1000人、
興収7億1200万円を記録し、
初登場1位となった。
日本では受け入れられたようだ。

内容は、説明する必要もないが、
人間界に憧れる人魚姫のアリエルは、
嵐で難破したエリック王子を救い、恋に落ちる。
そこに付けこんだ、魔女アースラ(タコの怪物)によって、
美しい声と引き換えに人間の体を与えられ、
宮殿でエリックと一緒に暮らすようになる。
エリックの方は、自分を助けてくれた女性を探しているが、
アリエルが口をきけないために、
それがアリエルだとは気づかない。
3日の期限のうちに王子にキスしてもらわないと
魂を奪われてしまうので、
アリエルの父親の海の王の執事でカニのセバスチャンらは、
やきもきしてしまう。
二人が恋仲になるのを察知したアースラは、
美しい女性に変身してエリックに接触し、
魔術で命の恩人の女性だと思い込まされたエリックは、
婚約の宴を開催する。
そして、期限の3日目の落日が迫って来る・・・

アフリカ系アメリカ人歌手のハリー・ベイリーがアリエル、
ジョナ・ハウアー=キングがエリックを演じるほか、
アリエルの父であるトリトン王にハビエル・バルデム
魔女アースラにメリッサ・マッカーシーら。
監督は「シカゴ」のロブ・マーシャル
ハワード・アシュマン作詞、アラン・メンケン作曲の
「アンダー・ザ・シー」や「キス・ザ・ガール」などが使われる他、
新たな歌曲は、亡くなったアシュマンに代わり、
「イン・ザ・ハイツ」のリン=マニュエル・ミランダが作詞している。

で、仕上がりだが、
私は感心した。


まず、アリエルのハリー・ベイリーだが、
歌唱力で選ばれただけあって、
歌が最高。
人間世界への憧れを歌う「パートオブ・ユア・ワールド」では、
泣きそうになったほど。
のみならず、別の世界に住む男性を好きになってしまった
憧れと恐れと不安を抱いた演技が素晴らしい。
黒人だということは、邪魔にならなかった
白雪姫を黒人がしたら、
それはおかしいだろうが、
トリトンには7人の娘がいるのだ、
一人くらい黒人がいてもいいだろう。

アニメの実写化の場合、
役柄がどうしても通り一遍になりがちだが、
一人一人の感情がよく描かれている。
要するに役柄に肉付けされ、
血の通った存在になっているのだ。
「シカゴ」をものにしたロブ・マーシャル、
オスカー作品賞監督、だてではない。
アニメ(1時間27分)より48分長い(2時間15分)のも、
ていねいに描いた証拠だろう。

そして、海の中の造形が素晴らしい
美しく、多彩で、ダイナミック。
どうやって作り、どのように合成したのか、不思議なほど。

アニメとの改変部分は、
セバスチャンとコックのやり取りがなくなっていた。
やや残酷でこっけい、ブラックな部分で、
面白いのだが、
実写では生々しくなるし、
人間の世界と海の住人との融和というテーマからも
不適当と思われたのだろう。

エリックの母親(女王?)というのが登場し、
黒人で、エリックとは血のつながりがない、という謎の設定。
アリエルの母親が人間に殺された、
という詳しい説明のない設定もある。

セバスチャンはカニそのもので、
アニメのようなディフォルメされた姿ではない。
スカットルという鳥は活躍するが、
フランダーという幼い魚は影が薄い。

アリエルと民衆の交流というシーンが追加されており、
婚約の宴は、船ではなく、城で、
アースラにとどめを刺すのが
エリックからアリエルに変更されている。

総合的に見て、
ディズニーのアニメの実写化の中では、
成功した、と言えるのではないか。

5段階評価の「4. 5」

拡大上映中。

ここからおまけ。

「リトル・マーメイド」の原作はアンデルセンの童話であるが、
実は、ハッピーエンドではない
おそらく、ディズニーのアニメが
今後の標準になるので、
「人魚姫」はハッピーエンドの物語、となってしまうと思うが、
本当は、深い絶望に満ちた作品なのだ。

まず、足だが、
アニメではそう描かれていないが、
歩く度にナイフで抉られるような痛みを感じる。

やがて隣国の姫君との縁談が持ち上がる。
アリエルがエリックを救って、
岸辺において離れて様子を見ていたところ、
近くの修道院から出てきた女性が王子に気が付き連れて行った、その女性だった。
「船が沈んでしまった時、ひとりの修道女が僕を助けてくれた。
僕は彼女が好きだ。
でも彼女は修道院に入っているから、僕とは結婚できないだろう。
君は彼女によく似ているから、君のことも好きだよ」
――違う、あなたを助けたのは私です。
人魚姫は本当のことを伝えようとするが、
声を失っているためどうすることもできない。

エリックはその想い人が縁談の相手の姫君だと知る。
その姫君は、教養をつけるために修道院に入っていたのだ。
エリックは喜んで姫君をお妃に迎える。
その婚姻の宴で、アリエルは二人のために祝いの踊りを踊るが、
その足は激しく痛むのだった。

このままでは、海の魔女の言った、
「王子に愛されなければ、あなたは海の泡となり死んでしまう」
との警告通りになってしまうため、
人魚姫を救おうと、姉たちが現れ、
自分たちの髪と引き換えに海の魔女に貰ったナイフを差し出し、
王子の流した返り血を浴びることで人魚の姿に戻れるという
魔女の伝言を伝える。
人魚姫は眠っている王子にナイフを向けるが、果たせず、
ナイフを遠くの波間へ投げ捨てると、海はみるみる真っ赤に染まった。
人魚姫は愛する王子を殺すこと、彼の幸福を壊すことができずに死を選び、
海に身を投げて、魔女の予言とおり、泡に姿を変えられてしまう

しかし、人魚姫は、風の精(空気の精霊)に生まれ変わり、
そうとは知らずに海の泡を悲しそうに見ている王子と花嫁を見つけ、
王子のお妃となった姫君の額にそっと接吻し、
王子に微笑みかけたあと
精霊の仲間たちとともに薔薇色の雲の中を飛んでいく。
「あと300年で天国に行けるようになるのかな」とつぶやくと
先輩の精霊が説明する。
魂を得られるまでの期間は厳密には固定ではなく、
子供のいる家で親を喜ばせて愛しみを受ける子供を見つけて私たちも微笑むと
試練は1年単位で短くなり、
逆に悪い子を見て悲しみの涙を流すと1日ずつ長くなるのだという。
太陽にむけて両手を差し伸べたとき、
人魚姫の頬に最初の涙がこぼれ落ちる・・・

という、悲しみに満ちた物語が原作のラストだ。

賢人・曽野綾子さんは、
アンデルセンの作品を
「絶望の文学」と呼んだ。
「アンデルセンの物語は、絶望の文学である。
透明で乾いた声にならない、
永遠の悲しみの叫びがその中に聞こえてくる」
「アンデルセンの作品は子どもには無残すぎる。
おとなの私たちが受け止めてさえ、
その悲しさ、厳しさの前には、
しばらくは、たじろぐほどなのだから」
                                            ハッピーエンドの「リトル・マーメイド」だが、
原作との落差を知るのも一興だろう。



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