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ドキュメンタリー『警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件』

2024年01月13日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

2000年に起こった
若いイギリス人女性が失踪し、
7か月後に、
神奈川県三浦海岸でバラバラ死体となって発見された事件での、
警視庁捜査一課の刑事たちの捜査を追うドキュメンタリー

この事件を取り扱った
リチャード・ロイド・パリーの著作
「黒い迷宮」
本ブログの「1」で取り扱ったことがあるので、
興味深く観た。

2000年7月1日、
元英国航空乗務員で、
ホステスとして六本木で働いていたルーシー・ブラックマン、21歳が
行方不明になった。


英国からルーシーの父親と妹が来日して
記者会見を開き、日英両方で報道された。
(父母はルーシーが幼い頃離婚している) 
丁度日本で主要8カ国首脳会議が開催されており、
当時のブレア首相から森首相に直接捜査の依頼がなされるなど、
政治的問題にも発展した。

ルーシーの父親との確執がある中、
捜査員たちの地道な捜査を
当時の捜査員たちのインタビューで辿る。
ルーシーの父親を始め、
担当刑事・ジャーナリスト・六本木のホステス
などに直接インタビューして、
当時の状況が明らかにされる。
捜査員たちは、
勤続40年以上で退官した元刑事たち。
その面構えが凛々しい。

六本木のルーシーのクラブの客を総ざらいし、
跡を辿るが犯人らしき人物が浮かばない。
後から参加した班が、
最初に担当した班の日報を密かに再検証したりする姿が描かれる。
その中から、外国人ホステスが
湘南のリゾートマンションに連れ込まれ、
薬で眠らされ凌辱されたという報告に目をつける。
刑事の直感が「臭い」と感じさせる。
同じ目に遭った外国人女性の日記を取り寄せ、
ある携帯電話番号に着目する。
その電話番号の送信記録を提出させてみると、
ルーシーとの交信の事実があった。


発信の位置確認をし、
その交差点、霞が関近辺から発信されていることが多いので、
現場近くのマンションを探ると、
外車を沢山保有する部屋がみつかった。
そして、別な外人女性の協力のもと、
逗子のリゾートマンションが特定され、
その居住者の中に一人の人物の名前を発見する。
男の名前は、織原城二(おばら・じょうじ)。
霞が関マンションの会社保有の一室、
プラント・オリハラと一致する。
会社名での保有、偽名の携帯電話を越え、
初めて容疑者の氏名が判明した瞬間である。
織原は、48歳
父親から莫大な遺産を相続した資産家で、
複数のマンションを所有し、
外車を乗り回し、
外人のクラブにも出入りしていた。

過去の事件を辿ってみると、
オーストラリア女性を自室で死なせた事件に関与しており、
ワイセツ事件でも逮捕の経歴があり、
他にも性的暴行の事実が判明したため、
10月、捜査当局はこの男を逮捕
家宅捜索をすると、
女性を自室に連れ込み、
薬物で眠らせて強姦する様を記録したビデオが大量に出てきた。
(このビデオを観る作業に駆り出された刑事の中には、
 精神に変調をきたす者が出たという。) 
ただ、ルーシーの写っているビデオだけがない。

不思議なことに、
この男、レシートなどを大量に保存しており、
高速料金所やレストランのレシートの解析で、
7月1日、
ルーシーと共に車で移動、
葉山のマンション近くで食事したという足どりが取られた。

しかも、その3日後、
チェーンソーやコンクリートを購入しており、
死体処理をしたと思われる。
その夜、油壷のマンションの隣室から
男の部屋の騒音に対する苦情がもたらされていた。

他の暴行事件も持ち出して拘留期間を延長し、
自白を取ろうとしたが、
織原は断固として罪状を認めようとしなかった。
弁護士の入れ知恵があったらしい。
警察では、自分の顔を撮影する時は、
顔を伏せるどして、
決して撮らせなかった。

死体が発見されないと、
殺人罪での立件は出来ないので、
死体の捜索が開始された。
自供なしの遺体捜索は難しい。
翌年2月、男の油壷のマンションから近い海岸にある洞窟内で、
バラバラに切断されたルーシーの死体が発見された。

                
バスタブが捨てられており、
それをどけると、
虫が沢山現れ、
その虫が肉食であることで、勘が働き、
掘り返してみて、
麻袋の中に、バラバラにされたルーシーの遺体を発見。
その時、死臭が立ち上ったのか、
上空にトンビが集まり、
ぐるぐる回ったというリアルな回顧も証言される。

強姦の被害者はビデオの記録で200人以上に上ったが、
多くは「忘れたい」と証言を拒否、
ようやく10人だけが協力し、
日本人4人と外国人6人に、準強姦、
その内2人の女性(ルーシーとオーストラリア人女性)を
薬をかがせて死亡させたとして立件された。

裁判でも、ルーシー殺害に関してだけは
決して犯行を認めず、
様々な嘘と捏造を主張した。

一審では、女性9人に対する準強姦罪などを認定して
被告人に無期懲役を言い渡した。
しかしルーシー・ブラックマンの件に関しては、
「合理的疑いが残る」として無罪を言い渡した。

控訴審の高裁判決では、
一審判決を棄却。
ルーシーについて、準強姦致死罪は認めなかったが、
わいせつ目的誘拐罪と準強姦未遂罪と
死体損壊罪死体遺棄罪を認め、
無期懲役を言い渡した。

そして、上告審の2010年12月の最高裁判決では、
弁護側の上告を棄却。
ルーシー・ブラックマンに対する
死体損壊罪と死体遺棄罪などで被告の有罪が確定した。
しかし、ルーシーへの準強姦致死罪を認めなかった。                                                        死体損壊と遺棄は認めながら、
致死は証拠不十分という、
不思議な判決だった。

本作では、織原に殺人罪を適用できなかった刑事たちの
無念の気持ちが語られる。
自分が取り扱った事件について話すのは、
異例だと思うが、
殺人罪に追い込めなかったという
くやしさが口を開かせたのだと思われる。

「黒い迷宮」に書かれている
犯人の出自、
父親の特異な性格、
には、触れず、
捜査だけに絞った内容だ。

織原城二は、現在、千葉刑務所に服役中
無期懲役はあくまで「無期」なので、
30年を過ぎた頃に保釈される可能性がある。
性犯罪は再犯の確率が高いので、
死ぬまで塀の中に閉じ込めてもらいたい。

日本を訪れて命を奪われた
外国人女性への哀悼の念をこめ、
実際の刑事たちへのインタビューと、
再現映像を使って、
まるで推理小説を読むかのような
捜査の点と線をつないで、
犯人はを見つけ出す、
見ごたえのあるドキュメンタリーだった。

Netflixで配信。



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