空飛ぶ自由人・2

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小説『三鬼』

2024年06月01日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

江戸は神田にある袋物屋の三島屋の黒白の間で、
主人の姪のおちかが
語り手たちから
怪異談を聞くという、
「三島屋変調百物語」シリーズの4冊目。
2015年6月1日から翌年6月30日まで
日本経済新聞朝刊に連載されたものを単行本化、その後、文庫化。
第19話から第22話までが収録されている。

「迷いの旅籠」

中原街道の先の小森村から来た、13歳のおつぎによって語られる、
村の「行灯祭り」に関わる話。
江戸にいるお殿様の赤子が亡くなったために、
行灯祭りが禁止されてしまった。
その代わりに旅の絵師によって、妙案が出される。
名主の隠居が住んでいた離れ家を行灯にしつらえて、
小森神社に住む「あかり様」を起こそうというのだ。
順調に進むが、そこには、絵師の企みがあり、
離れ家は、死者の世界への入口が開け、
ご隠居やおつぎの兄の愛したおなつや様々な亡者がやってきて、
この「死者の旅籠」に泊まっていくようになった・・・

「食客ひだる神」

仕出し料理を出す「だるま屋」の主人によって語られる怪異談。
だるま屋は稼ぎ時のひと夏、商売を休んでしまう。
そのわけを主人は語る。
実家の葬儀の帰り道、
主人は「ひだる神」を拾ってしまう。
ひだり神は「餓鬼」とも言い、
山道や野道で行き倒れて死んだ者の霊。
主人は江戸までひだる神を連れ帰ってしまい、
その結果、商売は繁盛するのだが、
やがて、家に怪異が起こり・・・

「三鬼」

とりつぶしにあった藩の江戸家老だった人物によって語られる怪異談。
家老の若い頃、不祥事があり、
そのみせしめのために、山奥の村を管理する山番士にさせられ、
洞ケ森村へと赴任する。
相棒も不祥事の経験者で、
二人の年季は三年。
その間耐えれば、元の役職に戻れるという。
しかし、前任者の
一人は行方不明となり、
一人は気が狂った。
そして、言った
「洞ケ森村には、鬼がいる」と。
やがて、二人もその謎の存在に気づくようになる・・・

「おくらさま」

黒白の間を訪れて過去を語ったのは、
心は十四歳のままの老婆。
その口から語られたのは、
実家の香具屋・美仙屋の蔵に住む、
「おくらさま」という、守り神のことだった。
しかし、ある時、大火から逃れた代償に、
三人娘の中の娘・菊が、
おくらさまの身代わりとなって、姿を消してしまう。
やがて、美仙屋だけが火事となって、焼けてしまうが・・・
語った老婆は、忽然と消えてしまい、
本当に来たのか判然としない。
おちかは、従兄の寅次郎と貸本屋の若旦那・勘一の力を借りて、
美仙屋の存在を突き止めて・・・

新たな登場人物、寅次郎勘一が加わり、
おちかが密かに思慕する青野利一郎は仕官先を得て、
江戸を去る。
おちかにも、三島屋の奥に潜んでいることから抜け出す示唆が与えられる。
「おくらさまになってはいけない。その時が来たら歩みだすんだ」
百物語の流れが大きく変貌することが予感される第4作である。

読んで感心するのは、
宮部みゆきの豊富な物語世界。
どうやって、こんな話を次々生み出し、枯渇しないのか。
誰かスタッフでもいるのではないか、
と考えてしまうほど、
どの物語も精緻で豊かで、面白い。
人間の心理に根ざす恐ろしい話なのに、
全篇を貫く、暖かさ
これが宮部みゆきの持つ世界だ。