あなたがたが信仰によって働き、
愛のために労苦し、
また、わたしたちの
主イエス・キリストに対する、
希望を持って忍耐していることを、
わたしたちは絶えず父である
神の御前で
心に留めているのです。
「テサロニケの信徒への手紙一」/ 01章 03節
新約聖書 新共同訳
人生は一つの機会、有効に使いましょう。
人生は美しいもの、崇めましょう。
人生は無上の喜び、味わいましょう。
人生は一つの夢、実現させましょう。
人生は挑戦、ぶつかっていきましょう。
人生は義務、完全に果たしましょう。
人生はゲーム、楽しみましょう。
人生は高価なもの、大切にしましょう。
人生は富、守りましょう。
人生は愛、満喫しましょう。
人生は神秘、理解しましょう。
人生は約束、果たしましょう。
人生は悲しみ、乗り越えましょう。
人生は歌、歌いましょう。
人生は戦い、受けとめましょう。
人生は悲劇、立ち向かいましょう。
人生は冒険、恐れずに挑みましょう。
人生は命、救いましょう。
人生は運、しっかり決めましょう。
人生は尊すぎるもの、壊さないように。
マザーテレサ
(出典『マザーテレサ』キャサリン・スピン著、新島典子訳)
★一度は諦めたバチカンとの折衝
NTTデータの大逆転
想像絶する1年半の交渉、その舞台裏(下)
ニュースの深層
■日本経済新聞 2014年6月25日 7:00
バチカン図書館に納められた約8万冊の文献と4000万ページに及ぶ手書きの文献をデジタル化せよ――。このプロジェクトに名のりを上げたNTTデータだったが、交渉は難航を極めた。1年半が経過しても話はまとまらず、同社は交渉の打ち切りを決断。ところが、「駄目なら駄目で、お礼だけでも」とアポなしで訪問したことがきっかけとなり、交渉の扉が再び開いた。
プレゼンテーションの感触は悪くなかった。そこでNTTデータは、予備調査の実施を提案した。プロジェクトの難易度や費用、適用技術を見極めると共に、バチカン図書館のメンバーと信頼関係を構築するのが狙いである。
2013年4月に開始した調査は、3カ月間にわたった。国立国会図書館のプロジェクトを手掛けてきたNTTデータの技術者3人が現地に常駐し、技術担当を命じられた第三公共システム事業部 第二システム統括部の杉野博史部長も、月の半分は滞在していたという。
▲バチカン図書館のスキャナー装置
(C) Biblioteca Apostolica Vaticana
長期保存プロジェクトでバチカン側がほぼ完成させていたスキャナー装置の検証や、NTTデータのアーカイブサービス「AMLAD」の適用可否の検討、デジタルアーカイブ化する際の手法の提案などが主な内容だ。バチカン図書館長のチェーザレ・パッシーニ氏向けに、AMLADのデモも何度か実施したという。
NTTデータは検証結果を日本に持ち帰り、1~2カ月間かけて技術的な実現性の検討に取り組んだ。その一方で、バチカンに受け入れられそうな事業モデルの構想を練った。
事業面、技術面で“可能”と判断した2013年9月、バチカンと契約面での本格交渉に入った。しかし「ここからが長かった」と、中城章史公共システム事業本部第三公共システム事業部営業担当部長は振り返る。
■一歩も引けなかった事業モデルの導入
交渉は難航した。原因は明白だった。事業モデルの導入である。中城部長は、「ここは一歩も引けなかった」と述懐する。サービスを提供するからには、企業として対価を得ることは譲れないラインだった。
しかし、バチカン側の常識は違う。費用を支払って契約を結ぶという選択肢は、今まであまりなかった。「契約書と言えば、ほとんど納品書のことを指す」と中城部長は述べる。つまり、契約金額などの概念はなく、物を納めたという確認書だけがある状態である。
両者の常識の違いには、大きな開きがある。そこでNTTデータは、バチカン側の資金調達の手法まで含めて提案した。デジタル化のための基金を創設して資金を集め、そこから費用を捻出してはどうかといった要請をするなど、工夫を凝らした。
「お国柄もあってか、ノーの場合は即断でノーと言われてしまう」(中城部長)。事業モデルの内容について拒否されると、技術的な内容に話題転換して話をつなぐなどして、交渉を続けたという。
■交渉決裂からの逆転劇
事態が好転したのは、図らずも、NTTデータが交渉を諦めたときである。
2013年10月、中城部長らはイタリアに赴いていた。しかしそれは、打ち合わせのためではなかった。実はその少し前に交渉が決裂していた。両者共に折れなかったからだ。「これ以上は無理だと思っていた。ただ、ダメならダメでお礼だけでも言いにいこうと、アポを取らずにイタリアを訪問した」と、中城部長は回想する。
▲右から、NTTデータ公共システム事業本部
第三公共システム事業部の
片山修司課長代理、杉野博史部長、
中城章史部長、森本雄主任
現地で3日間粘り、バチカン図書館の技術責任者にようやく会えた。その場の会話のなかで、技術責任者が「本当はあなたたちとやりたいんだ」と漏らしたという。その言葉に、まだチャンスはあると感じた。「プロジェクトの大切さは共通認識のはず。ならば、何としてでも問題をクリアしてやりましょうと再度持ちかけた」(中城部長)。それが契機となり、両者は交渉のテーブルに舞い戻った。最初の打診から、既に1年が経過していた。
条件面での細かい交渉は、さらに数カ月にわたって続いた。交渉は総力戦となっていた。NTTデータは予備調査期間の終盤に、法務や財務、広報やグローバル部門のメンバーを集めた全社プロジェクトを発足。契約締結までバックアップを続けた。
2014年が明けるころ、ようやく出口が見えた。バチカン図書館の内示を取り付けることに成功したのだ。その後、ローマ教皇庁の決裁を仰ぎ、2014年2月に契約がまとまった。
手書き文献のデジタル化作業は、2014年4月から着手している。現在はNTTデータとNTTデータイタリアのメンバー10~20人が現地業務に当たっている。6月中にも、代表的な手書き文献がWebで見られるようになるという。実は最初のプレゼンテーションにおいて、中城部長がポイントとした「デジタルアーカイブの意義」がここにあるという。
中城部長は、「過去の遺産を単に保存するだけでは十分ではない。それを公開して、人々が見ることで、遺産を継承しようという文化を醸成できる。現在も生まれ続けている遺産を未来につなげることにも貢献するはずだ」と力を込める。最初から、この目標をバチカンと共有できていたことが、交渉を続けられた大きな要因だと分析する。
初期契約は4年間で3000冊だが、基金が継続する限り自動的に延長していく予定だ。「現在の計画では、15年間で全てのデジタル化が完了する」(中城部長)という。
■天正遣欧少年使節から400年
バチカンとNTTデータとの交渉は、極めて困難なものだったとも言える。グローバルビジネスにおいて、日本の常識が通じないことは珍しくないが、企業が商品やサービスを提供するのに、費用が発生するというところから交渉が必要な相手は、世界を見渡しても稀だろう。
▲バチカン図書館が所蔵する文献の例
(C) Biblioteca Apostolica Vaticana
しかも、交渉の中心となった第三公共システム事業部の4人は元々、グローバルビジネスとは無縁に近い。主に国内の図書館向けのシステムを提供してきたため、むしろ日本の常識しか持ち合わせていない。にもかかわらず、この“難問”を解き明かした。
このことから筆者は、二つの“日本流”がバチカンにも通じたと見ている。
一つは、日本流の交渉術だ。慣習と言ってもよいかもしれない。中城部長は訪問のたびにイタリア語を覚え、パッシーニ館長との会話に織り交ぜた。杉野部長は、予備調査の期間、「技術者同士、お互いにカタコトの英語で会話をし、食事も共にした。そこで信頼関係を築けたと思っている」と話す。
交渉打ち切りという状況を打開したのは、アポなしでのお礼訪問だ。中城部長や杉野部長によれば、いずれも日本国内の案件でもやっていることだという。
もう一つは、日本流デジタルアーカイブの技術と実績である。NTTデータが構築した国立国会図書館のデジタルアーカイブシステムで扱うコンテンツ数は約200万。検索対象となる書誌データは7300万件に上るという。NTTデータのAMLADを使う秋田県立図書館では、杉田玄白の「解体新書」といった貴重な文献のデジタル化も経験済みだ。
バチカン図書館が所蔵する手書き文献の数々は、同館の存在意義を支える一つ。デジタルアーカイブ事業は、同館ひいてはバチカン市国にとって重大なプロジェクトである。技術的な信頼を得ることができたからこそ、交渉が打ち切りになった際も、バチカン図書館の技術責任者は交渉継続を望んだのだろう。
「400年前、天正遣欧少年使節がローマに派遣され、欧州の活版印刷技術を日本に持ち帰った。今度は我々がデジタルアーカイブ技術を持っていき、バチカンに貢献する」(中城部長)。日本のデジタルアーカイブ技術が、バチカンの貴重な文献を未来につなぐために生かされる。
(日経コンピュータ 岡部一詩)
【ITpro 2014年6月11日付の記事を基に再構成】
▲調印式の様子(写真提供:NTTデータ)
◆バチカン動かしたNTTデータの粘り腰
想像絶する1年半の交渉、その舞台裏
(上)
★日本経済新聞2014年6月20日 7:00
キリスト教・カトリック教会の総本山と称されるバチカン市国。バチカン図書館には2世紀から20世紀にかけて執筆された約8万冊、4000万ページに及ぶ手書きの文献が眠る。これらの文献のうち3000冊をデジタル化し、長期保存するプロジェクトについて、NTTデータとバチカン市国が契約を結んだ。バチカン市国が民間企業と大型の有償契約を締結するのは、世界的にも珍しい。交渉は1年半に及び、一度はNTTデータも諦めたというほど困難を極めた。その「逆転劇」の軌跡を2回に分けて紹介する。
▲「サラ・スタンパ」での記者会見の様子
(写真提供:NTTデータ)。
右から、チェーザレ・パッシーニバチカン図書館長、
フェデリコ・ロンバルディバチカン市国公式プレスルーム担当、
ジャン=ルイ・ブルーゲス
バチカンローマカトリック教会記録・図書担当大司教、
NTTデータの岩本敏男代表取締役社長、
NTT DATA EMEAのパトリツィオ・マペリCEO(最高経営責任者)、
NTTデータの岩井利夫常務執行役員公共システム事業本部長
2014年3月20日、バチカン市国の公式プレスルーム「サラ・スタンパ」で記者会見が開かれ、同国がある契約に調印したことが発表された。
契約書の署名者は、ジャン=ルイ・ブルーゲス バチカンローマカトリック教会記録・図書担当大司教とNTTデータの岩本敏男代表取締役社長だ。会見には、バチカン図書館のチェーザレ・パッシーニ館長、NTTデータの岩井利夫常務執行役員公共システム事業本部長などが列席した。
これにより、バチカン図書館が所蔵する手書き文献を、NTTデータがデジタル化し、アーカイブシステムで管理できるようにするプロジェクトが正式に前に進みだした。まずは初期契約で、3000冊の手書き文献を4年間でデジタル化する。費用は約23億円だ。
バチカン図書館は、2世紀から20世紀に残された約8万2000冊に及ぶ1点ものの手書き文献を所蔵する。ところが、羊皮紙やパピルスなどに書かれた文献は劣化がどんどん進む。同図書館は、「Long Term Preservation(長期保存)」と呼ぶデジタル化プロジェクトを4、5年前から進めていた。「文献のデジタルアーカイブ化は、彼らにとっても一番の重点施策だった」と、NTTデータの中城章史公共システム事業本部第三公共システム事業部営業担当部長は説明する。
ただし、バチカンが民間企業と費用の発生する契約を結ぶのは異例のこと。既存の長期保存プロジェクトは、財団などの寄付のもと、ボランティアで進めていた。そうした世界にNTTデータは、有償を前提とした「ビジネス」を持ち込もうとした。我々にとっては当たり前の話だが、相手がバチカンともなれば、一筋縄にはいかないのだ。
「あなたたちの努力がバチカン市国を動かした」――。2014年の2月、ローマ教皇庁での決裁が通った際、パッシーニ館長が中城部長らを呼び出し、こう声をかけた。この言葉を受け取るまでに、バチカンとNTTデータは1年半に及ぶ交渉を続けてきた。
▲バチカン図書館の外観
(C) Biblioteca Apostolica Vaticana
本稿では、日本のビジネスシーンではほとんど考えられない、バチカンとNTTデータとの想像を絶する交渉の舞台裏に迫ろう。グローバルビジネスに臨むうえで、欠かせないエッセンスが含まれているからだ。そのためには、時計の針を2012年秋まで巻き戻す必要がある。
■交渉は「ハリー・ポッターの世界」
「デジタルアーカイブの取り組みについて話を聞きたい」――。
長い交渉の始まりは2012年秋、ある財団からNTTデータにもたらされた一つの打診だった。ボランティアベースで進めていた長期保存プロジェクトは、確実に進められてはいたものの、スピードには欠けていた。例えば音楽系の財団であれば、楽譜の文献のみを手掛けるといった具合に、縦割りの体制で作業が進められていたからだ。その間にも、文献の劣化は進む。バチカン図書館は緊喫の課題として、パートナーとなる事業者を探していた。
「文献のデジタル化について、相当な知見と技術的な探究心を持っている」(中城部長)バチカン図書館は、世界中の本のデジタル化に関する取り組みを調査し、その中には日本も含まれていた。そこで、まずリストアップされたのが国立国会図書館だった。同図書館は、NTTデータが構築したデジタルアーカイブシステムを活用している。
公共システム事業本部のトップである岩井常務が即座に、打診内容のヒアリングのためバチカンに飛んだ。その後、中城部長をはじめとした実働部隊の4人が同国に入り、プレゼンテーションに臨んだ。
▲バチカン図書館内の様子
(C) Biblioteca Apostolica Vaticana
国立国会図書館での実績やデジタルアーカイブシステムの説明に加え、「継続的に取り組むために、『ビジネスとしてやりましょう』と提案したことと、デジタルアーカイブの意義に対する当社の考えを伝えたことがポイントだった」。中城部長はこのように振り返る。
以降のバチカンとNTTデータとの打ち合わせは、主にバチカン図書館内で開かれた。「まるでハリー・ポッターの世界」とNTTデータの中城部長が形容するように、交渉の舞台となったのはフレスコ画に囲まれた貴賓室だった。
バチカン側はパッシーニ館長をはじめ、副館長、技術責任者、弁護士がほぼ毎回出席する。一方のNTTデータ側は主に、営業部隊として、中城部長と片山修司課長代理、森本雄主任の3人。技術担当として、同じ第三公共システム事業部 第二システム統括部の杉野博史部長が臨んだ(続く)。
(日経コンピュータ 岡部一詩)
【ITpro 2014年6月11日付の記事を基に再構成】
(2014/6/20 7:00)
★世界的にも異例、
バチカン図書館がNTTデータと23億円の大型契約
◆日本経済新聞2014年3月20日
岡部 一詩=日経コンピュータ
NTTデータは2014年3月20日、バチカン市国のバチカン図書館が所蔵する文献のデジタル化プロジェクトを受注したと発表した。受注額は約23億円。3000冊の文献を、NTTデータが提供するデジタルアーカイブシステムで管理できるようにする。バチカン市国が民間企業と大型の有償契約を締結するのは、世界的にも珍しいという。
バチカン図書館は、2世紀から20世紀にかけて執筆された約8万冊、4000万ページに及ぶ手書きの文献を所蔵する。同館はこれら全てをデジタル化し、長期保存する計画を立てている。バチカン図書館とNTTデータは約23億円で初期契約を結び、まずは4年間で約3000冊をデジタルアーカイブ化。順調に進めば、残りの文献についても取り組む予定だ。
文献のデジタル化から、デジタルアーカイブシステムの構築、メタデータの付与・管理、検索アルゴリズムの開発までを、トータルでNTTデータが手掛ける。バチカン図書館はデジタル化した文献をWebサイト上で公開し、学術、美術、教育分野における活用を促す。
日本の国立国会図書館向けに、デジタルアーカイブシステムを提供した実績が評価されたという。NTTデータは、国立国会図書館向けのプロジェクトを手掛けた第三公共システム事業部を主体に、NTTデータイタリアなどと連携して、プロジェクトに取り組む。
(2014/03/20)