(Image source: cine21)
昨年、韓国内で200万人以上を動員した『私たちの幸せな時間(우리들의 행복한 시간)』(2006年9月公開 監督:ソン・ヘソン)。
出演:カン・ドンウォン、イ・ナヨン、ユン・ヨジョン、カン・シニル、キム・ジヨン、チョン・ヨンスク、チャン・ヒョンソン
美術講師ユジョン(イ・ナヨン)は、3度目の自殺に失敗し、精神治療を受けなければならないが、治療はうっとうしい。叔母でシスターのモニカが、治療を受ける代わりに、1ヶ月間刑務所で死刑囚と面会する奉仕活動を提案。母親には反抗するが叔母には心を許しているユジョンは、その提案を引き受け、3人を殺害した死刑囚ユンスと出逢う。ユジョンとユンスは互いに心を開き始め、1週間に1度の面会を心待ちにするようになる。
以前拙宅でもご紹介した「サイの角のようにひとりで行け」の著者コン・ジヨン(孔枝泳)の同名小説を原作とした作品。
ソン・へソン監督は、これが4作目。1作目はレビューもできないシロモノだったが、2作目の『パイラン』、3作目『力道山』はよかったので、これもかなり期待できそうな気がしていた。
場内、号泣している人が続出だったが、私はなぜだか泣けなかった。泣き所は沢山あるけれど、それは同情でしかないような気がして、涙の映画にしたくないと思った。
同情という点で、ちょっと引いたのは、幼い子供2人が地下道で野宿していても、誰もケアをしないという設定。いくら貧しいといえども戦時下でもないのに、実際にあのような状況があるとしたら、韓国社会の人道的常識を疑う。あくまでも表現上の誇張だとしか思えなかった。
原作を読んでいないけれども、たぶん「サイの角~」を読んだ方なら少しお分かりいただけるのではないかと思うような、コン・ジヨンの内省的というか、どんどん自分を追い込んでいく絶望感と、その絶望感からの脱却がこの作品にも溢れている。
死刑囚の男と自殺願望の女・・・この一見救いようのない人生を歩んでいるように見える2人は、当初、人生に対してなげやりで、反抗的な態度であるけれど、だからといって社会を恨むこと、同情を求めること、人を憎むことを真に欲しているわけでもない。
2人は互いを見つめることにより、自分と向き合い、自分の存在が誰かのためにあることに気づく過程の心の内側がしっかり丁寧に描かれている。
現代社会が抱える非常に微妙で繊細な死刑の問題も、それ自体の是非を問うものではないがさりげなく盛り込みつつ、「赦し」や「理解」という人間社会の永遠のテーマがキラリと転がっている。
娘をユンス(カン・ドンウォン)に殺された母親(キム・ジヨン)が直接ユンスと面会して、「赦す」場面が感動的 で、この場面がこの作品の原動力みたいな感じがする。
ユジョンとの木曜日の面会の時間を心待ちにするようになるユンスが切ない。
カン・ドンウォンとイ・ナヨン、良かった。脇を支える刑務官役のカン・シニル、シスター役のユン・ヨジョン、死刑囚に「赦し」を与える被害者の母親のキム・ジヨン、囚人仲間のオ・グァンノクら役者が揃っていて、それぞれとても印象深い。
ラストシーンはちょっとくどかったが、後味は悪くない。と言ったら語弊があるかもしれないけれど、ただどーんと重たいだけではなくて、また一歩前進しようと思える光みたいなものが見えていて良かったような気がする。
原作読んでみようかな~