報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

耐震強度偽装とメディアの空騒ぎ

2005年11月26日 19時46分35秒 | ■メディア・リテラシー
「耐震強度偽装事件」で、ヒューザーとかいう建築会社の社長がマスメディアの槍玉に上がっている。

いつも繰り返しているが、メディアが大騒ぎする場合、それは決してことの本質を表してはいない。メディアは、彼ひとりに国民の憎悪を誘導することによって、ことの本質を隠している。彼程度の人物は、日本の建築業界にはひしめいているはずだ。

そもそも、日本に建っている賃貸マンション、分譲マンションで、まともなものの方が少ない。といっても、統計があるわけではない。あくまで僕の「体感」でしかない。どういう体感かというと、かつて僕は、旅の資金をこうした建築現場の労働者として作っていたのだ。

関東、関西の多くのマンションの建築現場で働いた。もちろん、耐震強度などこちらには分かるわけはない。しかし、そこで作業に従事していれば、施工主の良し悪しは簡単に分かる。完成度を重視するのか、それとも完成度よりも工期を優先するのか。材料をケチってはいないか。労働者を大切にしているか、などなど。労働者の側から見て、この会社の物件なら大丈夫と思えることはまれだった。

バブル以降、巨額の負債を抱えた日本の建築業界が、コスト削減や手抜きをしないと見る方がおかしい。工期を短縮して、無理な作業を強いられれば、労働者はどうしても本来の仕事ができなくなる。つまり、手抜きも生じれば、作業が杜撰にもなる。それが、建物の構造全体に及んでいる場合もある。ただし、働いているこちらには建物の強度にどれくらい影響しているかは皆目わからないが、ひどい躯体(くたい:構造体)だな、と思ってしまったりする。

しかし、強度に問題がなくとも、完成後、10年、20年と経つうちに、手抜きや杜撰さが表面化するに違いないと思わせるマンションは多い。つまり資産価値は急落することになる。

作業をしながら、それを購入する人が気の毒に思えるような現場もある。そうしたところは、実際、入居直後からクレームが殺到する。補修費用が嵩み、対応しきれなくなると補修は打ち切られる。5000万近く出して買った物件が、入居直後からクズ物件と知った人の心境はいかばかりか。買ったら負けなのだ。

しかし、たいていは完成したときはたいへん豪華に見える。完成してしまえば、すべての手抜きや欠陥は隠れてしまう。10年後、20年後にどうなるかは、外から見ても分からないのだ。多くの現場で労働者として働いた経験から言えば、まともなところの方が少ない。

なぜ、そうなるかと言えば、前回説明したように、日本の不動産事業というのは、官民あげての詐欺のようなものだからだ。できるだけ短期間に、コストをかけずに造ったものを、官製相場でできるだけ高く売って儲ける、そういう業界なのだ。そんな環境の中から、まともな物件が生まれるはずがない。何といっても官民一体なのだから、何でもできる。建築土木業界と言えば、日本最大の利権業界であることは、いまさら説明するまでもない。

この利権構造が成り立つのも、日本の経済基盤がいまだに「土地本位制」だからだ。それを維持するために、メディアを使って国民全体を欺き、水準の倍以上の高値でどんどん不動産を買わせ続けているのだ。日本国民全体が、被害者なのだ。この構造こそが、本当の問題点だ。メディアもまたこの構造の一部を構成している。したがって、絶対に報道されることはない。

ヒューザーや姉歯設計、木村建設を問題にしても、ほとんど意味のないことが分かっていただけると思う。意味がないからこそ、メディアがバカ騒ぎするのだ。正義の代弁者づらして、視聴率を稼いでいるにすぎない。そういう眼で、この事件の報道を見ると、いままで僕がメディアについて述べてきたことが、実感していただけるのではないだろうか。