報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

なぜ国際社会はパキスタン被災者に冷たいのか

2005年11月09日 19時29分19秒 | ●パキスタン地震
パキスタン北部地震での公式死者数は7万3276人(11月2日時点、パキスタン政府発表)。
また、世界銀行などの調査では8万7350人。
負傷者は10万人。
被災者は300万人。

ただ、パキスタン北部地震は、こうした数字で見る以上に深刻な被害をもたらしている。被害は標高3000メートルを越える高地に集中している。道路は寸断され、まともに通行できない。ヘリコプターでしかアプローチできないため、救助や救援は困難を極めている。治療を受けらないまま耐えている負傷者も多い。食料や物資の輸送もいまだ十分とは言えない。そして、これから厳しい冬をむかえなければならない。日々、二次災害が進行していると言える。

インドネシア沖地震による津波では、道路は影響を受けなかった。また、津波の物理的な被害は、最大でも海岸線から300メートルほどだった。道路も残り、被害の面積も小さかった。被災後の救助・救援は非常に円滑かつ迅速に進んだ。

被害の状態を考えれば、パキスタン北部地震は、より多くの援助が必要だと国連機関は訴えているが、実際は、国際社会はインドネシア沖地震のときよりもはるかに消極的だ。

未曾有の災害に際して、国際社会がとる救援や支援・援助というのは、その被害の規模で決まるのではないことが、よくわかった。結局、国際社会における地位によってすべては決まるということだ。他国にとって重要な国は、手厚い援助を受けられ、そうでない国は、見捨てられる。そういうことだ。

インドネシアは、アメリカをはじめ日本、オーストラリアと30年以上にわたって良好な関係にある。インドネシアな広大な国土を有し、豊富な天然資源も存在する。地政学的な重要度は特に高い。マラッカ海峡は海運ルートの要衝だ。タンカーや貨物船だけでなく、米軍の艦船や潜水艦も航行する。イラク戦争で米軍艦船の支援にむかった自衛隊の艦船も当然マラッカ海峡を通行した。

マラッカ海峡は、経済的にも軍事的にも非常に重要な海の通路である。もし、インドネシアがマラッカ海峡を封鎖すれば、多くの国が影響を受けることになる。アメリカや日本、オーストラリアが腐敗した独裁者スハルトを支援し続けたのは、このためだ。もちろん、スハルト後も、インドネシアの重要度は変わらない。

では、パキスタンはと言えば、核開発に象徴されるように、国際的な協調よりも、独自路線を堅持してきた。反米的な姿勢も強かった。また、インドとは長年カシミールをめぐる争いを展開している。地政学的にも、先進国にとって重要とは言えない。アフガニスタン戦争・イラク戦争に際して、ついにアメリカに協調する姿勢をとるようにはなったが、国民の反米感情は以前にも増して強くなっている。

歴史的、地政学的にみて、インドネシアとパキスタンは、国際社会での位置や重要度が歴然と違っている。災害に際しての、国際社会のとる援助・支援の差は、ここに由来していると言っていいだろう。未曾有の災害に際して、国家間の援助に頼っている以上、常にこのような現象がおこる。本来、国連のような機関が資金をプールしておくなどの備えが必要なのではないだろうか。それが国際機関としての役目ではないのか。

特定の地域や国だけが、天災に際して冷遇されるなどあっていいわけがない。
天災を利用した制裁のように思えてしまう。