SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Raymond Wacks, Philosophy of Law: A Very Short Introduction, 2nd Edition (Oxford University Press)

2014年04月19日 | 
アサインメントや試験勉強の必要に迫られているときに限って関係ない本を読みたくなるもの。
まったく関係ないとまでは言えないけれど、Raymond Wacks, Philosophy of Law: A Very Short Introduction, Second Edition (Oxford University Press, 2014)を読みました。



この本、第1版が2006年に出ていて、これは邦訳もされているようです(中山竜一=橋本祐子=松島裕一(訳)、中山竜一(解説)『法哲学(<1冊でわかる>シリーズ)』(岩波書店、2011年))が、さすがにこの第2版の翻訳はまだない、はず。

僕は第1版を読んでいないので今回の改訂によってどう変わったのか分からないのですが、出版社によると,
・法実証主義(legal positivism)、リアリズム法学(legal realism)、人権(human rights)の近年の理論的発展
・Dworkinの最後の仕事(=Justice for Hedgehogsのことですね)の考察
が付け加わっているということです。

本書の特徴は、著者が自分の主張を提示することを控えて、様々な学説の紹介に徹していることだと思います。
良い点としてはいろんな学説を知ることができること、悪い点としてはいろんな学説が紹介されているばっかりで体系的ではないということになるでしょうか。

「第1章 自然法」ではキケロ―やアリストテレスから最近のフラーやフィニスまで、自然法論の学説の変遷と発展が紹介されたあとで中絶や安楽死といった難しい問題(モラル・ディレンマ)に自然法の立場がどのように応答しうるか(また、困難を抱えるか)が論じられます。
僕にとっては、この章が一番クリアーに整理されていたように思いました。

「第2章 法実証主義」はベンサムやオースティンからH. L. A. ハート、ケルゼン、ラズ、シャピロの学説が紹介されます。
中心的に扱われているのはハート。ただ、法実証主義が複雑だからでしょうか、それぞれの論者がどういう点で違うのか理解するのが、僕には難しかったです。

第3章はドゥオーキンについて。
正義論の文脈だと羨望テストとか仮設的保険市場とか福祉の平等(equality of welfare)、つまりSovereign Virtueがクローズアップされる印象があるのですが、やっぱり法哲学の本なのでLaw's Empireの議論を中心に純一性としての法(law as integrity)やruleとprincipleの区別、法解釈の行われ方などが論じられています。
ドゥオーキンさんの生前最後の著作、Justice for Hedgehogsについては、法と価値という節で取り扱われ、彼の価値をめぐる議論が簡単に触れられています。

第4章は権利と正義について。
権利や正義についての考察抜きに法哲学について論じることは不可能だ、とされた上で、様々な論者の理論が紹介されていきます。
権利については、ホーフェルトによる権利概念の解明の試み、ドゥオーキンの切り札としての権利論、人権の発展史(第1世代から第3世代まで)が論じられ、
正義については、功利主義、法の経済分析(ポズナーの議論)、ロールズの議論が取り上げられています。

「第5章 法と社会」では、これまでの章が法の規範的側面に着目するアプローチの紹介であったのと違って、法がどのような文脈で機能しているかという社会学的なアプローチが取り上げられています。
取り上げられている論者は、デュルケム、ウェーバー、マルクス、ハーバーマス、フーコー。
それぞれの理論の解説がごく簡単にされているのみだったために、相互の関係(そもそも彼らは相互に理論的関係はあるのか?)や現代における意義があまりよく理解できなかったものの、このアプローチの議論を僕はこれまであまり読んでこなかったので、大変新鮮に感じました。

「第6章 批判法学」になると、体系性はもはやほとんどなくなります。
取り上げられているのは、リアリズム法学(アメリカ学派とスカンジナビア学派がある中で、主にアメリカ学派を紹介)、批判法学(Critical Legal Studies)、ポストモダニズム法学(ラカン、デリダ)、フェミニスト法学(リベラル・フェミニズム、ラディカル・フェミニズム、ポストモダン・フェミニズム、差異派フェミニズム)、Critical Race Theory(どう訳せばいいのか分からない。。)。
第5章以上に、ここでくくられた理論の意義や相互の関係がよく分かりませんでした。
そして、おそらく新しく発展してきた研究分野だと思われるのだけど、僕はあんまり魅力を感じませんでした。

第7章はすごく短い結論になっています。

これだけの多岐にわたる内容が小さい本のたったの130ページで紹介できてしまうことは本当にすごいことだと思います。
紹介されている論者の本や論文が読みたくなります。
しかし、やはり個々の解説がとても薄くなってしまっていて「これこれという理論がある」「だれだれはなになにということを主張した」くらいの理解しか得られない項目も少なくありませんでした。(特にポストモダニズム思想に疎い僕は、第6章でほとんど何が言われているか分かりませんでした。)
また、本書のところどころで、誰かからの引用や著者執筆の「コラム」が挿入されているのですが、それが本文とどう関係するのかどこにも解説されていませんでした。(そもそもコラムをなぜ入れたのか、趣旨が分からない。)

ということで、ちょっとこの本は評価するのが難しいです。
法哲学という分野を分かっている人が読むと、いろんな学説を短時間で整理しなおせて有益なのではないかなと思います。
でも、本当の初心者が最初に読むべき本なのかどうかはよく分かりません。
邦訳だとここらへんの難点は中山さんの解説でカバーされているのかもしれません。
第1章、3章、5章がすごく面白くて勉強になっただけに、残念でした。


(投稿者:Ren)

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