“羽生城”へ行きませんか？（61）―豊臣秀吉の小田原城攻め―

天正２年（1574）の自落以来、
羽生城は特に目立った動きはない。
上杉謙信の属城時代のように、
敵に囲まれてひたすら上杉の救援を待つことはなく、
敵の侵攻を受けることもなかった。

羽生城史は領民から見た記録がない。
忍城のように、領民一丸となって戦っていたのかもしれないが、
城主に不満を持つ者もいたに違いない。
広田・木戸氏時代に、領民たちは城主をどう思っていたのだろう。
それを具体的に知ることはできないが、
成田氏の支配に安堵する領民もいただろう。

一方、上野の膳城と山上城へ移った“木戸元斎”と“菅原為繁”は、
好機を待って羽生城回復を望んでいた。
しかし、上杉謙信は没し、
武田勝頼も織田家によって滅亡する。
彼らの願いは、押し寄せる時代の波に断ち切られるように、
叶うことはなかった。

元斎は間もなく越後へ移り、
和歌を通して“直江兼続”と昵懇の仲となった。
為繁は武蔵に戻ったらしい。
岩付の“浄国寺”に仏眼舎利を寄進した動きがある。
為繁はかつて人質として越後にいた時代があったが、
元斎は生まれも育ちも羽生である。
羽生城回復の願いは強かったと思う。

天正18年（1590）、豊臣秀吉の小田原城攻めのとき、
元斎は豊臣方として上杉景勝隊の中にいた。
上杉隊の部将として、武州松山城や鉢形城攻めに参加している。
そのとき彼の目に、武蔵の風景はどう映っただろう。
羽生城時代の日々が、脳裡に浮かんでは消えていったのかもしれない。

一方、羽生城代“向用斎”は城を棄てて忍城に入っていた。
城兵も同様である。
羽生城は忍城の支城であり、
本城に籠もって戦う覚悟だったのだろう。
つまり、忍城は後世に残る戦いを繰り広げたが、
羽生城は合戦の舞台にはならなかった。
忍城は石田三成らの攻撃を受け、水攻めにもあったが、
最後まで落城しなかったことはよく知られている。

しかし、小田原城が陥落し後北条氏は滅亡。
豊臣秀吉は天下を統一し、新しい時代が幕を開ける。
もちろん関東も無関係ではない。
長く忍領を支配していた成田氏も領地を没収され、
蒲生氏郷のもとへ身を預けるのであった。
（続く）


石田三成が布陣した丸墓山古墳から忍城（埼玉県行田市）を望む。