「バイバーイ」
図書館へ本を返そうと「橋の公園」の中を通っていると野猿のところで3~4歳くらいの男の子が一人でロープを揺すっていました。
野猿は川を渡るロープウェイのようなものです。
野猿は子供たちに人気があり、いつもはにぎわっているのですが、その日は平日とあってその子がひとりだけでした。
両岸の真ん中に停まっている駕籠は小さな子供一人の力ではびくともしません。母親らしき女性は少し離れたところで背中の子をあやしています。
男の子が少し寂しそうに見えたので声を掛けました。
「これを引っ張ると駕籠がこっちに来るんだよ」
ロープを引っ張ると男の子も引っ張りました。駕籠が到着。
「乗ってみる?」 男の子はこっくりとうなずきました。
「じゃあ乗って向こうまで行ってみるか」 男の子を乗せた駕籠は最初は勢いよく滑り出し、あとはロープを引っ張って向岸へ到着。
「さあ、とうちゃく~」と大きく声をかけたのですが、降りる様子がありません。気に入ったようです。
「じゃあもう一回帰るか」 男の子がうなずきました。
またロープを引っ張り駕籠が帰ってきました。
「おもしろかったろう」 男の子は頭をこっくり。満足したようです。
「じゃあな、バイバイ」と言ってその場を後にしました。
しばらくして後ろから「バイバ~イ」と声がしました。
振り返ると男の子が手を振っています。少し離れた場所で見ていた母親も手を振っていました。
「バイバ~イ」と手を振ると、また「バイバ~イ」、大きな声で両手をあげて振っています。
はじめて男の子の声を聞きました。