story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

閨の戯言

2017年11月30日 23時03分52秒 | 小説

わたし、ヤクザのスケやったんよ

「なに?」

わからない?

「わからないこともない・・」

んま、想像されているとおりやけどね

「それっていつ頃の話なん?」

うん、まだ中学生だった

「今なら犯罪」

当時でも犯罪かもね・・でも、わたしが転がり込んだの

「転がり込んだ?」

家出してね・・寒くて寒くて・・通りがかったかっこいい人に

ね、今夜泊めて・・って言ったの

「大胆やなぁ」

必死やったよ、とにかくどこか暖かいところへ行かないと・・って

「でもそれだけで拾ってもらったの?」

うん、お前一人かって・・行くところがないならついて来いって

「泊めてもらえたの」

そのかわり、来るということがどういうことかわかってるなって・・

「つまらないことを訊くけど・・」

なにが訊きたいか・・あててあげましょうか

「うん・・」

そのとき、君はバージンだったか?って・・

「うん、それを聞こうとしてた」

わたし、早かったからね・・もう十分、経験済みだったって・・嘘よ

「じゃぁ・・」

うん、その人が初めて、でもね・・すごく優しかった

「ヤクザなら女に慣れていたんじゃないの、その人」

全くそんなことはなくてね・・周りの人が怖がるような人なのにすごくかわいい・・

「かわいい・・?」

男性として、そういう時はまるで弟みたいな

「よくわからんなぁ」

分かれっていうほうが無理だとは思うよ

「でももう一つ、訊きたいことあるけど」

なにか、危ないことをさせられなかったか?でしょ・・

「よくわかるね・・」

その世界にもいろんな人がいるけど、その人は絶対にヤクとか、そういうものを誰にもさせなかった・・

「信じられない」

人はいろいろ、どの世界にもまっとうな人はいるわ

「なるほど」

すごくまともな人だった・・

「その人とはどうして離れたの?」

もう、帰りなさいって・・半年ほどいたかなぁ…ここはお前のいる場所ではないよって

優しく言われたの・・

「じゃ、それからどうやって生きてきたの?」

その人が少しお金をくれてね・・親のところへ帰るんだよって

「ふうん・・それで・・」

素直に帰ったわ・・

「親御さんはそのときどうだった?」

べつに・・帰ったの・・だけ

「半年ぶりに帰ったのに?」

彼からは連絡はしてあったみたいよ・・捜索願も出されてなかったし

「普通なら、ヤクザに娘が拉致されたとか言い出しそう」

わたし、親の手に負えなかったからね・・もう、何もかも反抗してぶっ壊して

「今の君からは信じられない」

でしょう・・今はとってもお上品でしょう・・

「お上品かどうかはよく知らんが・・」

知らんって・・・ひどいわねぇ

「可愛いけど」

けどぉ??

「ちょっと怖いところがあるのはそういうことかと」

怖い?わたしが?優しいつもりだけどね・・・

「意志を貫くというか、自分を持っているというか」

そんな風に見てくれるの・・ありがとうね

 

あなたは、枕もとのバックから細身の煙草を取り出し、オイルライターで火とつける

僅かなオレンジの明かりだけの部屋の中を、細い煙のスジがゆっくり上っていく

 

あなたは旨そうに煙草を一本、吸い終わり、また掛布団にもぐりこんだ

僕は無様にもその布団に頭から潜り込んであなたの口を吸う

柔らかな煙草の薫りが僕の口の中に広がる

僕は今、あなたを愛している

僕は今、あなたとともに息をしている

 

 

 


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