story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

詩小説・ボックスシートとソフトフィルター

2012年04月24日 20時43分59秒 | 詩・散文

晴れているが光にソフトフィルターがかかったかのような黄砂の漂う春の午後だ

僕は舞子駅から快速電車に乗り二人がけの座席に空席を探したが生憎見つからず

車両の端の向かい合わせのボックスシートに居場所を決めた

特に用事と言うほどのことはなく

ただ春ののどけさ

愛飲しているカップ焼酎を幾本か持ち込んで

車窓と電車の揺れ、それに規則正しいレールジョイントの音を楽しむ

僕の用事といえばそれだけのことだ

晴れているが光にソフトフィルターがかかったかのような

黄砂の故か遠くまでは見渡せない

快速電車は須磨あたりの海の傍を眠気を振り払うかのようにせっせと走る

特に用事というほどのことはなく

ただ夜勤明けの頭の芯に残る疲れを癒したくて

安上がりの酔いと電車の揺れや規則正しいレールジョイントの音で

身体も心も癒したかったそれだけのことだ

電車は海沿いを離れ神戸の街中へ進んでいく

住宅地から都心へ地平から高架へ

黄砂の霞で輪郭がにじむ六甲連山の端の山々を眺め

神戸の春を実感しながら

回り始めた焼酎の酔いに身を任せ電車は進んでいく

僕のボックスシートに他の誰かが座る気配はない

電車は三ノ宮のビル街を過ぎ神戸の東側へ入る

ビル街から工場街へ高架から地平へまた高架へ

六甲道の高架橋を駆け上がると六甲連山の中枢

摩耶六甲が黄砂の霞に煙るのを

さらに進む焼酎の酔いに身を任せ電車は進んでいく

六甲道駅に停車しても僕のボックスシートに他の誰かが座る気配もない

このあたりの高架を走る電車に乗るとき

僕はいつも決まってある建物を見つめる癖がある

六甲の中腹よりやや下のほう

競りあがるかのような住宅街のその先に屹立する古めかしく大きな建物

ああ・・

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