story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

泣いた誘拐犯

2004年07月20日 12時18分30秒 | 小説
第一幕・・大阪、島之内、東郷社会調査相談所
グランドホテルと言う名のホテルのすぐ横に3階建ての雑居ビルがあった。
休憩2時間激安と言う大きな違法立て看板が歩道にはみ出していた。
そのビルの二階に、東郷社会調査相談所がある。
じめじめとした梅雨の雨が降りしきる中、冷房の壊れた事務所は湿気が多く、暑苦しい。
先ほどからクッションのいかれたソファで、上品な紳士がここの所長と思しき男とひそやかな会話をしていた。
「要は、セトウチデンキの社長の娘を誘拐して、身代金を要求すればよろしいのでっか」
「し・・声が大きい!誰かに聞かれたら、どないするねん」
客らしい紳士は所長の男の話を遮った。
「誰も他におりまへんがな・・」
「いやあ、分からんぞ、窓の外で誰か聞いとるかも知れんしなぁ」
「そやけど・・身代金なんか要求するくらい、カネに困ってはりますのか?」
「カネやないわ・・セトウチデンキに兵庫急行電鉄の工事への参加を止めさせたらええのや・・」
「他にやり方がおまっしゃろ・・」
そのとき、すらりとした長い脚の事務員らしき女性がお茶を持ってきた。
客の紳士は驚いたような顔をして所長の男の顔を見つめた。
「誰や・・このオンナは・・わしらの話を聞いとったがな・・」
「わてらの優秀なスタッフの一人だすねん・・気にせんといておくれやっしゃ・・」
紳士はほっとしたような顔をして、改めてオンナのほうを見た。
惚れ惚れするようなええオンナや・・そう思った。
「他のやり方はもう、全部考えたわ・・どれもあいつらには効かへんのや・・」
「真っ当なやり方ではアカンのでっか・・」
「そや、わしとこのヨドガワデンキの力では、技術力も営業力も、コネもないさかいなあ」
所長はしばらく考えてから、
「そやけど、技術力がおまへんのやったら、無理はせん方がよろしいんとちゃいまっか?」
紳士はお茶を口に運んだ。
「あっつうーー!」いきなり飲み込んだからたまらない。立ち上がり、狭い事務所の中をうごめきまわってもがき苦しんだ。
「あほか・・せっかくのチャンスなんや、ヨドガワデンキがメジャーになれるか、っちゅう所やねんぞ」
ようやく落ち着いてから紳士はそう言った。喉がひりひりする。
少しはなれたデスクで美しい女が黙ってみていた。
・・ええオンナやな・・紳士はごくりと生唾を飲み込んだ。

第二幕・・神戸、舞子、ラーメン小連
ラーメン「小連」は昼をややすぎていた時刻でもあり、客はカウンター席に女が一人座っているだけだった。
「お待ちどう・・熱いですから気をつけてくださいね」
愛想のよい、ラーメン店に置くにはもったいないような、美人の女店主である。
客の女もラーメン屋では場違いなような、きちんとスーツをまとった、すらりとした美人だ。
女は目の前に置かれたラーメンのスープを口に運んだ。美味い!
「えええーうっそーー!」女は一気にラーメンを食ってしまった。
そのとき、店の扉を開けてスーツ姿にサングラスの男が入ってきた。女の横に腰掛ける。女は男に気がつかず、ラーメンの鉢をもって汁を飲み干している。
男があっけに取られてみていると、「何になさいますかぁ」と愛想の良いおかみさんが聞いてきた。
・・あ・・ああ・・じゃ・チャーシュー麺・・そう言うと、「はあい」明るく答えてくれる。
頭の上のメニューを見ると、チャーシュー麺はなく、肉らーめんと書いてあった。
ふう・・男の横にいた女が鉢を置き、ため息をつく。
男にサッと紙片を渡した。写真の裏に書いたメモだった。
「獲物は西北、1303号室、帰宅は4時」
表を向けようとすると、女の美しい手がそれを遮った。・・ここで見てはいけない・・男はそれを了解した。写真をポケットに忍ばせて、煙草をくわえ、火をつけた。一服吸って、灰皿に置く。
いよいよだ・・俺が一流の仕事師になれるときなのだ・・男の胸は高鳴り、汗が出てきた。手が震える。
灰皿に置いた煙草を手に取った。「あっつうううう!」煙草の先をくわえていた。
「熱いですからお気をつけてくださいね」おかみさんが目の前にラーメンを置いてくれた。恥ずかしい、誰かに見られていないか・・頭の中がぐるぐる回る。一気にラーメンを口に運んだ。
「熱!あつあつあつ!」男は猫舌なのを忘れていたのだ。

第三幕・神戸、舞子、サンデンマンション
セトウチデンキの社長、山田二郎の自宅はここだった。今をときめく大企業の社長宅にしては質素にすぎる感があるが、現場出身のサラリーマン社長としては止むを得ないかもしれない。
このマンションはオートロックで、外部の人間は一応、玄関でシャットアウトできる構造にはなっていた。
今、マンションの玄関ホールに、茶髪の高校生、智恵が入ってきた。
オートロックのキーを取り出し、扉を開けようとしたとき「お嬢さん・・」男の声がした。
え・・振り返ると、この暑いのに、きちんとスーツを着てサングラスをかけていた男が立っていた。
「山田智恵さんですね・・」
男は出来る限り、声色を変えて、威圧感を与えるようにした。
「あの・・」
少女は不思議そうに男を見る。
「智恵さんですね」男が念を押す。
クスリと少女が笑う・・「何が可笑しいのだ」
だって・・だって・・少女は大声を上げて笑い出してしまった。
「だから・・何が可笑しいのだ!」
男も大声を上げた。
「ねぎが顔にへばりついてるわよ・・あはははは・・」ようやく、そう言うと、少女はさらに面白そうに笑い転げる。
男は言葉が出なくなってしまった。この上は恐怖心を植え付けるしかない・・「来て貰おうか・・」
何とか格好を取り繕って、そういって、少女が怯えるであろうことを予想した。
「ははは・・どこへ行くの?」・・こいつは馬鹿なのか・・まあどうでもいい・・俺は連れ出すことが仕事なのだ。
「来い!」・・そういって凄んで見せた。
「いいわよ。どこ連れて行ってくれるの?」
そういって少女はまた笑い出した。「ねぎがまだ付いてる・・はははは」男の後ろを少女は笑いながらついてきた。
・・馬鹿な女だ。手間が省けるぜ・・男はそう思いなおして、頬に付いたねぎのかけらを取ろうとした。
「そこじゃないよ・・こっち!」少女は背を伸ばして男の頬からねぎを引っ剥がした。
「ラーメン食べてきたんでしょ・・ばればれーー・・おいしかった?」
マンションの前に止めた車に乗った。そのとき、少女の携帯電話が演歌を流した。
「あ・・パパだ・・」
・・ほう、父親か・・脅迫する手間も省けるじゃあないか・・運が良いのも実力のうちだ・・男がそう実感していたとき、とんでもない会話が聞こえてきた。
「はーーい!今日は駄目よ!今から別のパパとお付き合いなんだぁ」
・・別のパパって・・
「えーーレストラン・・どこ?・・でも今日はもういいわ!面倒くさいもの・・別のお仕事よ!」
・・この娘、何を言ってるのだ?・・
「おじさんはどこへ連れて行ってくれるの?」電話を切った少女は男の顔を見た。
・・え?頭がおかしいのじゃないのか、こいつ?・・男のクルマは走り出していた。
「おじさんも散歩の依頼でしょ・・あ・・勘違いしないでね・・あたしは、お散歩だけの女の子ですから・・ルールは守ってね・・」
・・なんだ・・こいつ?言ってることの意味が分からない・・
「今日はたまたまスケジュールがあいてたのよ・・ホントに運がいいんだから・・今度からは予約してね」
気がつくと、さっきから少女は男の前に指をかざして、勝手に行き先を決めていた。男は反射的にその方向へ、クルマを走らせていた。

第四幕・・大阪、島之内、東郷社会調査相談所
「暑いわね、社長、いい加減にクーラー修理してくれません?」
「おう、おかえり!首尾はどないや・・今度の仕事がうまいこといったら、クーラーの三つや四つ付けたるがな・・」
扇風機からくる生暖かい風を浴びながら、東郷はそう答えた。
「クーラーは一つでいいですわ・・それより私の給料、遅れている分を早く支払ってくださらないと」
入ってきた女は、ため息をつきながら、そうやり返し、「でも、今度の鉄砲玉は男前ですわね」と言って微笑んだ。
「おう、男前やろ・・洋子はんの好みのタイプやなぁ」
・・ふん・・洋子があごの先で返事をしてすぐ、東郷の携帯電話にメールが入った。
「獲物補足、あと頼む」
・・ほう・・東郷はさっそくの朗報に笑みを隠さない。
「なかなかやり手やなぁ・・さっそくかかるか・・」
東郷はメールの返信に「獲物確保しばらく頼む。こっちは交渉開始」そう打ち込んだ。
そのとき、洋子のデスクの電話が鳴った。
「社長・・お電話です。ヨドガワさんですわ」
・・おう!・・すぐに電話を変わって、東郷の口から漏れた言葉は「なんでっか!そないなアホなこと、おますかいな!」だった。
洋子は扇風機に向かって、ブラウスの襟元を広げ、白い肌を出して風を入れていた。

第五幕・・カラオケ「ガキカラ」113号室
「今日のパパ、何歌う?アタシから歌っていいかな?」
・・まだ、本部からの指令は来ない。さっき、しばらく確保せよとの指令があっただけだ。それまではこのカラオケハウスは人目を気にしなくても良い、格好の隠れ家だ・・
男は今日の俺はついていると思っていた。
・・獲物は目の前にいる。こいつを離さなければ、俺は大金を手に出来る・・
「ねえ、今日のパパ、早く何歌うか決めてよ・・あ、そうだ、いつまでも今日のパパじゃいけないわね・・なんてお名前?」
男は心の中を見破られないか気にしてしまった。言葉がとっさに出てこない。
「え・・おれか・・おれはヒロシだ」
「へェ・・ヒロシってんだ・・じゃあ・・ヒロシパパ・・早く決めてね・・」
せかされて、彼はいくつかの曲を分厚い本から探し出した。カラオケ用のリモコンは大丈夫だ・・何度か使ったことがある・・
何とか必死でリモコンを操作して、ナンバーを打ち込んだ。
その間、智恵は電話で食べ物、飲み物を注文している様子だった。
前奏が始まり、曲が流れる・・俺の才能を見せてやろう・・後はここにいるだけで計画は万全だ・・ヒロシはそう信じて、気持ちが楽になってきた。
歌い始める・・「ぁ・・これ知ってるよ!アニメソングじゃん・・」
智恵が手をたたいて喜んでいる・・歌を大声で歌っている時に部屋の扉が開いた。
店のスタッフがお盆に乗せきれないほどのものを持ってきた。ビール、ジュース、から揚げ、ポテト、ソーセージ・・
・・しまった・・こいつに見られてはいけない・・ヒロシはスタッフから顔をそむけるようにして、それでも歌っていた。
歌い終わると智恵が盛んに拍手をくれていた。
え・・ビール?・・俺はアルコールは・・飲めないのだ。
「ビールでいいよね・・パパはみんなビールだから・・」
呑まなければ格好が悪い。仕方がないので一気にジョッキのビールを飲んだ。
「う・う・うううううーー!」
さっきラーメンで火傷した喉が痛み出す。涙をこらえてジョッキを飲み干した。・・なんだ・・ビールくらい飲めるじゃないか・・
そう思ったとたん・・彼の周りが揺れて見えてきた。
智恵はジュースを飲み、から揚げをほおばり、ヒロシには分からない最近の曲を歌っている・・いや踊りだした。
「ヒロシパパ・・カッコいい?」
・・この娘、まじで可愛いなあ・・智恵の顔を改めてじっくり見る。
茶髪、夏の制服、ミニに直したスカート、高校生にしては大きな胸が躍るたびに揺れる・・ヒロシの頭も揺れる・・
「あれえ・・疲れてるの?やっぱ、大人って大変なんだね・・・」
智恵が博の顔を覗き込む。
「ヒロシパパって・・結構・・イケメンね」顔を寄せてきた・・やばい・・キスされるのでは・・ヒロシは、必死に振りほどこうとしたけれど、智恵は博の鼻と自分の鼻がくっつくくらい、近づいて、こういった。
「じゃあね・・癒し系を歌ってあげるわ・・」
そういって、ヒロシも知っている女性ボーカリストの名曲を歌い始めた。
切ない詩が、メロディが彼の心に入り込む。酔った頭で、悲しくなってきた。
「はーい・・ありがとう!」智恵が店のスタッフから何かを受け取っている。
ビアジョッキだ。満々とビールをたたえたビアジョッキだ・・それも大きい。
「もうなくなってたから、注文しといたわよ・・どんどんいってね・・」
やけくそのような気持ちになって、ヒロシはビールを飲み干す。
智恵が続いてバラードを歌う。切なくやるせない歌詞が胸に迫る。
それにしても智恵は可愛い。
「あ、時間よ・・2時間経ったわ・・」
そういって智恵が立ち上がる。
足元のおぼつかないヒロシではあったが、ようやく立ち上がる。
「ここまでの料金・・1万円ね!・・延長する?」
・・高いカラオケだなあ・・そう呟くと、「何言ってるのよ、お散歩料金よ!延長は1時間1万円よ!」
・・お散歩料金??なんだそれ・・わけが分からずにヒロシは財布から2万円を出した。
「へえ・・すごーーい・・じゃあね、サービスで2時間延長一万円でして上げる・・」智恵が何を言っているのかヒロシには意味が分からない。
「お店から出ようか」智恵はそういって、部屋の外に出た。店の料金もヒロシが支払ったのは言うまでもない。
智恵は後姿も可愛い・・

第六幕・・ヒロシのクルマ
よろけていないふりをするのが大変だ。
ヒロシは店の外に出て、智恵とクルマに乗り込んだ。
エンジンをかける・・夏の夕方もようやく暮れてきていた。・・目が回る・・大丈夫かな・・・・・・・・?
「どこへいく?」智恵が楽しそうに聞いてくる・・そうだ、俺は仕事中だったんだ。
ヒロシは携帯電話を取り出した。メールが入っている。
「中止!撤収せよ」
・・なんだこりゃ・・わけがわからない。
「ねえ・・どこ行く?」智恵が繰り返し聞いてくる。「どこでも・・」
そう答えた・・ヒロシの思考回路は完全に停止した。
「じゃ・・右に出て!」智恵のいうとおりにハンドルを切った・・ガリガリガリ・・嫌な音がした。
・え・・窓から外を見ると、車のフェンダーが駐車場のファンスに引っかかって外れていた。
・・あ・・俺のクルマ・・
通行人が見ている、恥ずかしい・・片方のフェンダーが外れたまま車を走らせる。まだ、時折、変な音がする。
「ダイジョウブ?・・なんかかっこ悪い・・」智恵が呟く。
・・かまわないフェンダーくらい・・修理すればいい・・心の中でそう答えるけれど言葉が出ない。
「じゃ、ドライブにしようか・・そこ曲がって・・」智恵の言うとおりに走ろうとするが、うまくハンドルが切れない、ブレーキも遅れてしまう。ヒロシは完全に酔ってしまっていたのだ。
ドン!また大きな音がした。
「クルマ・・大丈夫?」
さすがに智恵も心配になってきたらしい。
「車なんて・・・壊していくらだよ」ヒロシは言葉を投げ捨てる。
「ふーーーん」智恵には合点が行かぬようだ。
バシバシ!また大きな音とショックが伝わる。
「あ!ぶつかったよ!今のクルマと・・」ヒロシは無視して走る。
「ねえ・ヒロシパパ・・怖いよ!・・運転が怖いよ!」
智恵が叫んだ・・しばらく走ったところでクルマを停めた。停車すると車体が斜めになっている気がする。
降りようとするとヒロシの携帯電話が鳴る。
「何してる!早く撤収だ!仕事の意味がなくなったぞ!」
東郷の声がした。
酔った頭に一つだけ浮いていた言葉があった。
「あのう・・俺の報酬は・・」
「後で違約金を届けさせる・・それで勘弁してくれ!」

第七幕・・道端
・・少し酔いがさめてきた。車から降りて煙草を吸おうと思った。
外に出てふと・・ヒロシ自慢の四駆の車体が傾いている気がする。・・え?・・?
フェンダーがない!タイヤがパンクして、ホイールだけになっている。車体の裾に大きな凹みが入っている。
「酔払い運転したからぁーー?サイテーーー」そう言って、あきれた顔をしていた智恵の表情が、ふと変わった。
「ネ・・臭うよ・・ガソリン臭い・・」
・・え・・ヒロシは煙草をくわえて、火をつける。車体の下から液体が漏れ出している。
・・なんだろう・・まだ酔いが醒めきらない・・そう呟き、煙草をくわえて、車体の下を覗き込んだ・・
「あぶない!!」智恵が叫ぶ。・・え・・何が危ないって・・
いきなりクルマが火を噴いた。漏れていたガソリンに引火したのだ。
「熱い!熱い!助けてえ!」ヒロシの髪に火がついて、ヒロシはそこら中を走り回る。
「あつ!あつ!あついよーー!」
走り回るヒロシの腕を智恵がつかんだ。「こっちよ!」
智恵はヒロシを道の脇から下へ突き飛ばした。「わーーー」叫びながらヒロシは道の下のどぶ川に落ちた。
川は浅かったが、ヒロシの髪の火を消すには充分だった。
呆然と川の中でしりもちをつくヒロシ。
川から這い上がると、ヒロシの車が燃えている。人が大勢集まってきた。
智恵がヒロシの手を引いた。
「ちょっとやばいよ・・あたし・・ここから帰るね・・」そっとそう言って、すぐに一人で道の反対側へ道路を横断してしまった。
道を走る車が止まって、野次馬が集まってきた。
止まった車の中に路線バスがあって、智恵は手を上げてバスに乗ってしまった。サイレンが聞こえる。
・・やばい・・ヒロシは人だかりから離れてゆっくりと歩き始めた。
しばらく歩いて、現場の人だかりが遠くなってから、思い切り走った。
連絡をとらなくては・・そう思い、走りながら携帯電話をポケットから取り出すと、もう、濡れて使い物にならなくなっていた。

第八幕・・垂水駅
上着もサングラスも捨てた。何十分も走ったのではないだろうか。息が切れ、もう、これ以上走れないと思ったときに駅前らしき場所に着いた。垂水駅と書いてある。
びしょぬれのズボンのポケットに残っていた小銭で適当に切符を買って駅の中へ入った。垂水駅の便所でようやく鏡を見た。
今朝見たときとは別人のような自分の顔がある。髪はこげてパンク小僧みたいになっている。
水で髪を直し、顔を洗った。
ホームに出ると、夜なのに人が多い。なぜか浴衣を着たカップルがたくさんいる。
新聞の夕刊が落ちていた。何気なく拾って眺めたヒロシは心臓が止まりそうになった。
*ヨドガワデンキ倒産!・・積極経営の破綻*
・・俺は・・何をしていたんだ・・
呆然と立ち尽くすヒロシの前に下りの快速電車が止まった。
大勢の乗客が降りてくる。ヒロシは人にもまれた・・どこにいていいか分からない。
「やっと見つけたわ!何してるの!」
声に気がついてそちらを見ると、電車から降りてきた女がヒロシに向かって叫んでいた。
「連絡は取れないし、クルマは火事を起こして大騒ぎになってるし・・なにしてたの!」
仕事をくれた、あの女だ。
・・きちんと事情を説明しなければならない・・もしかしたら、俺、消されるかもしれない・・
女のほうへ行こうとした時、ドッカーーン!大きな音が響いた。あたりが一瞬、明るくなった。
「あつ・あつい・・あついよーーー!」さっきの恐怖を思い出して、ヒロシはホームを走り出した。
大きな花火が次から次へと打ち上げられている。
女もヒロシを追って走り出した。ホームの乗客たちは歓声を上げて花火を見上げていた。






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2 コメント

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kousanさん> (ペペ)
2006-10-26 01:12:58
kousanさん>
私の会社から投稿します。
すみません。大爆笑してしまいました!
傑作です。ナイスいい感じです。
これすごく好きです。
この様なぷっつんハードボイルドパロディーは
結構、自分のツボなのです。
劇画漫画にしたい位です。
実写版で演じさせたい俳優が沢山いますが、
例えば、
男・・・陣内○則or阿○寛or寺脇○文
女・・・釈由○子
智恵・・・ベ○キー
紳士・・・伊武雅○(カツラと伊達メガネ要)
所長・・・小○薫
ラーメン屋おかみさん・・・室井○
で如何がでしょうか?(まるで浪花金○道?)
しかしヒロシは本当にドジですね。
2ndバージョン是非アップして下さい。
楽しみにしています!
返信する
ぺぺさん> (kousan)
2006-11-06 15:35:25
ぺぺさん>
ありがとうございます。
実は2作目も作ってあるのです。
ところが、どうも自分で読んでも面白くない・・
何でだろうと思いながら、一応、削除はしてないのですよ。。
同じシチュエーションで作るのに無理があるのかなあ・・
目次に入れていませんが、どこかにありますよ。。
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