言の葉綴り

私なりの心に残る言の葉を綴ります。

満州国演義四 炎の回廊

2016-03-01 23:02:05 | 言の葉綴り
言の葉2
満州国演義四 炎の回廊 船戸与一著
新潮文庫 平成28年1月
外務官僚 敷島太郎とジャーナリスト
香月信彦の会話(昭和11年二・二六事件前)より抜粋

その1「国体とは」「八紘一宇とは」
太郎「…北一輝のいう国体って?」
信彦「国体とは何ぞや。神詔を体してこの日本国を肇建し給える神武国祖の御理想、すなわち、君民一体、一君万民、八紘一宇の謂である。…」
太郎「…八紘一宇?…」
信彦「純正日蓮主義を唱える田中智学の言葉なんだよ。『日本書紀』のなかに大和橿原に都を定めときの神武天皇の詔勅があるんだ、六合を兼ね、もって都開き、八紘を掩いて宇となすという一節がね。六合とは国の内を差し、八紘とは天のしただ。宇とは家を意味する。要するに、天下をひとつの家にするということだろうよ。」

その2「天皇とは」
信彦「天皇は日本人が産みだした最高の虚構なんだよ!」
太郎「穏やかじぁありませんね、香月さん」
香月「…、天皇は三つの性格を持っている。まず立憲君主制のなかの君主。次に、兵馬の大権を独占する大元帥。三番目に神事を司る最高の祭司。つまり、法律的最高権威であり軍事的最高権威であり宗教的最高権威なんだ。そのことは現人神という虚構でしか纏められん。」…
信彦「現人神・天皇という虚構は立憲君主国家を目指す伊藤博文と兵営国家を作りあげようとした山県有明の妥協の産物として生まれた。そして、それは最高の虚構として機能した。明治維新からたった六十八年間で日本がこれだけの強国となったのはこの虚構のおかげだ。江戸時代に天皇はどんな役割を持っていた?
室町時代や鎌倉時代は?天皇にできたのは元号を決めるくらいだった。それが現人神という虚構となって日本人を纏めあげ、日本は欧米列強に対峙できるまでになったんだ。国体明徴を唱え天皇機関説を排撃すれば、論理的には天皇とは何かという問題に行き着かなきゃならなくなる。せっかく日本人が創りだした
最高の虚構をあらためて白日のもとに曝すことになるんだよ。馬鹿げてると思わないか?虚構は虚構としてそっとしておかなきゃならない。最高の虚構はなおさらだ。それなのに、天皇機関説排撃を言い立てて政府を追い詰めようとする政友会には腹が立つ。機関説排撃によって青年将校を煽り、その動きに阿り、陸軍内の抗争利用しようとする真崎教育総監らにはもっと 腹が立つ。……」

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