多分、最初だったと思うが病状説明と今後の治療方針について説明を受けた。消化器
系等の絵で癌の部分の説明や5年生存率を示すグラフなど、一般的に使用される資料
だ。また多臓器への浸潤、リンパ節への転移などは確認されていないことから、摘出手
術を考えている、これが今までに分かったことと、これからの大筋道だ。
この時から先生は長期の喫煙と酒によるダメージが食道手術と言う大手術に与える影響
について、しきりに心配されていた。肺は肺気腫になったものが自然治癒し、その痕跡が
CTから見て取れる。肝臓のγ-GTPは50以下の基準に対し2090と論外の値を示していた。
癌が2ヵ所もあり、こんな状態なのに、いつも一人で診察を受けているから先生が
『奥さんはいらっしゃるのですか?』と唐突な質問。
『はい、いますけど・・・何か』
『こんなんですから、奥さんにもきちんと理解して戴かないといけないので、一緒に来てくれ
ませんか?』
『大丈夫ですよ、妻には私が説明しますから』と答えたら、先生は少しムッとした感じで
『そんな問題じゃないでしょう』と、今から思えばあの先生にしてはかなり怒っていたようだ。
この場面後にやっと理解できたのは、大方の人が診察室に二人連れで入って行くことだ。
子供や未成年ならば何の違和感は覚えないが、しっかりとした大人が、殆どが夫婦のよう
に見える。心配だから付いて行くのか、一人では怖いから付いて貰っているのかは分から
ない。だから、それが普通で私のように一人寂しく診察室に入る人は稀なのだ。
明日、病院に行くという日、妻が『一緒に行ってあげようか』と言ったので『一人で大丈夫』
と応えた。自分で癌と診断しその確認と治療に行くのに付添いは考えの中に微塵もなかっ
た。もし、原因が不明で一人で行動するのに危険と判断したら、妻に付き添いをお願いし
たと思う。次の診察日、妻と二人で出かけた。心の中で『先生、これが私の荊妻です』と紹介
する。食道や胃の図画やグラフを見せながら疾患の状況、5年生存率、手術の危険性、治
療方針など沢山のことについて、詳細な説明を受けた。自覚症状が段々と顕著になってお
り、そんな説明より早く治療をして欲しかったので、先生の説明は上の空のように聞いてい
た。憶えているのは、胃と食道の多重癌、他臓器、リンパ節への転移はなく生存率は40%くら
い、手術による食道・胃吻門部の摘出、関門は肝臓が弱っていること、長年の喫煙による肺
のダメージ(肺気腫の跡がある)により、大手術に耐えられるか心配、術後のICUでの治療は
長い場合2週間くらいになる可能性があること。
今回の手術はこの病院でも最大級の手術で約10時間かかる。各検査の結果をみないと手
術の可否が決められないので、指定された日に検査を受けるように指示された。
この時の説明では食道の再建方法などの具体的なことはなかったと思う。