初日はシスプラチンと5FUを同時に投与、以後はシスプラチンのみの投与となる。腎臓
への負担軽減で利尿剤とともに投与されるから、しょっちゅう尿意を催す。15~30分間
隔の時もあり24時間投与だから、夜中でもいつでもトイレ通いをする。その尿は全て貯
めておき一日の量をチェックされる。治療は何ですか?
ハイ、トイレ通いです
点滴車には抗がん剤一式とコントローラーにバッテリー充電器が装備されており、散歩
に出る時はゴロゴロとご一行様の行列となる。たまに散歩の途中でピコピコとバッテリー
低下のお知らせがあると、近くのコンセントに差し込み一時凌ぎの充電をして病室に駆
け戻ることもあった。
副作用はいつ頃から出るのか誰にも分らない。初日はきつい薬を投与するから、この日
さえ乗り切れば楽勝となるのではないらしく、徐々に出てくる人もあるらしい。看護師さん
や先生は日に何度も『気持ちが悪いとか、吐き気がするようなことはありませんか?』と様
子を聞きに来られるが『何も異常はありません』と答えるのみ。
抗がん剤を投与している間、この会話で終わった。自覚症状はなかったものの白血球が
増加したと先生の話、普通は逆に減るらしいのに。投与後、暫くしてから床を見ると髪の
毛が抜け落ちていた。抜けたのが分かるほどのものではないが、メガネをかけて拾ってみ
ると普通よりは多いと思う。
セロテープで拾い集めるのも仕事の一つになり。気が付けばテープでベッドの周りを這
いつくばっていた。毎日、来て貰う掃除のおばさんよりも丁寧に拾い集めるから、部屋の
床はとてもきれいだ。食欲は癌の増殖とは無関係のようであまり落ちることはなし、ゆっく
りと小さく噛んで食べないとゲロの罰を受ける、その頻度は高くなっていた。最大の関心
事、これといった副作用はなく、食事は凸凹はあるが許容範囲にあり、
QOH(Quality of Hospitalize)つまり入院生活の質は確保されており快適だった。
この時は病院生活の様子を知らなかったから、暇つぶしに何をするのか検討したものの、
これはと飛びつくような物はなし、レンタル店で桂枝雀の落語CDを何枚も借りてPCに落と
し込みそれを聞いていた。それも、のべつ幕なしに聞くのではないから、当然のこと暇はつ
ぶさなければならない。ここの病院は自室で食べてもいいし食堂で食べる人もいた。私は
個室だったので配膳される食事を一人黙々と食べなければならなかった。ゆっくりと食べ
ないと詰まることがあり、その場合の最終回避は自分で嘔吐しなければならなかったから、
人前で食事をすることは避けたかったことと、自分のペースを守ることができるのがよかった。