目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

桐島、部活やめるってよ ★★★★★

2012-08-18 21:13:56 | ★★★★★
桐島、部活やめるってよ

上大岡のTOHOシネマズで鑑賞。ネタバレせずに話すのが難しい映画なので興味ある方は早く映画館へ!傑作だと思います。今年観た映画の中でもベスト3に入る出来。興行的には苦戦してるそうですが、この映画はぜひ色んな人に観てほしいと思ってます。


さて、ではネタバレします。

(あらすじ)
早稲田大学在学中に小説家デビューし、第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウの同名小説を、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八監督が映画化した青春群像劇。田舎町の県立高校で映画部に所属する前田涼也は、クラスの中では静かで目立たない、最下層に位置する存在。監督作品がコンクールで表彰されても、クラスメイトには相手にしてもらえなかった。そんなある日、バレー部のキャプテンを務める桐島が突然部活を辞めたことをきっかけに、各部やクラスの人間関係に徐々に歪みが広がりはじめ、それまで存在していた校内のヒエラルキーが崩壊していく。主人公・前田役に神木隆之介が扮するほか、前田があこがれるバトミントン部のカスミを「告白」の橋本愛、前田同様に目立たない存在の吹奏楽部員・亜矢を大後寿々花が演じる。
(以上、映画.comより)

この映画はどちらかと言うと観た人観た人によって、その鑑賞後の印象が大きく変わる映画だと思うんですよね。傑作!と思う人もいれば、なんじゃこりゃ?な人もいっぱいいると思う。色んな人が作中の登場人物に感情移入しながら観てしまうと思うんですよね。私事ですが、私は高校時代、吹奏楽部でして、そういう意味では劇中の吹奏楽部部長に少し感情移入しながら観てたように思います。

「部長が楽器吹いてるところ、見たら、好きになってくれる人たくさんいると思うんですよね。」

という台詞には思わず背筋がゾゾゾっとしました。いや、この映画の恐ろしいところはこういう地雷原になり得る台詞や描写がそこら中に埋め込まれてるし、その描写がとても嘘くさくない、今を切り取った映画に感じるということです。こういう光景は日本中の高校で繰り広げられていて、これこそが実際の高校生活なんですよね。現実はほろ苦いし、大したドラマもないわけです。

でも、そんな鬱屈した退屈で死にそうになるくらい何者にもなれない自分を常に誰かから突き付けられる世界でもなんとか、生きていかなきゃいけないわけでそんな世界を克明に切り取ってるんですよね、この映画。
決して重なりはしない個々の生活、重ならない感情、すれ違うんだけど同じ教室、同じ校舎で繰り広げられるちょっとした事件。

帰宅部には帰宅部の、吹奏楽部には吹奏楽部の、映画部には映画部の、バレー部にはバレー部の悩みやら苦しみやらがあって、それぞれがそれぞれの世界で戦ってる。学校という小さな世界が全ての彼らの中である日、ぽっかりと居なくなるバレー部エースの桐島に翻弄される人間たちと、そんなの関係なく生きていく人達。

この一連の描写が本当にそこでそういうクラスが実在するかのような空気感で迫ってくる。

私は映画部ではなかったのですが、映画部の前田の気持ちも何となくわかるんですよね。そして、前田が味わうかすみの密かな恋を知ることによる絶望感。同じ経験したことある人間からすると、あれはきっつい。自分と同じ共通項を見つけて喜んでたら、あっという間に地獄の底へ。まー、現実ってそんなもんなのですが、こんな経験を克明に描かれちゃうと、危うく生きる気力を根こそぎ持っていかれそうになります。

あと、この映画では鑑賞後に久しぶりにパンフ買ったのですが監督の話とか総合していくと帰宅部の宏樹が自分の人生の軸と言うか中心が色々あるってことに気付くまでの話なんだ、と。
確かに前田のパートでこの話はクライマックスになりますが、実際には宏樹の話が締めに入ります。彼は野球部に再三カムバックを要請されており、辞め部員としては桐島よりも先輩、辞める桐島の気持ちも少し理解できるにせよ、自分が信じて打ち込めるものがある人の輝きと辛さを野球部のキャプテンと映画部の前田との会話を通じて見つけていくわけですね。映画自体はそこで終わりますが野球部の練習の喧騒で終わりを迎えるこの映画はきっと、彼が野球部にカムバックして活躍することを予想させるものですし、帰宅部の彼らは彼らでまた普通の日常が続いていくのでしょう。

吹奏楽部の部長のサックス練習はどんなシーンよりも緊張感とか焦燥感を感じさせました。こんなこと、実際にあるよね!という。音階練習が思わず途中で止まってしまう、観てるこっちも息が詰まりました。その後の合奏シーンからのゾンビシーンや、吹奏楽部部長の場所取りの一連のやり取りにはいちいちやきもきさせられました。あー、そうそう、ちなみに吹奏楽部のコンクールは本当は夏ですから、冬には大きな大会はありません。でも、その他の描写はいちいちリアルでした。あのキーボードを使って合奏前に音の長さや強さ、ピッチを合わせていく様子は本当にやってますし、それなりの吹奏楽部ならどこでもやってる練習風景でしょう。実際に、うちの高校でも色んな場所で練習してましたし。

映画部の部室が剣道部の中にあるっていうのも、あの狭さも少し意地悪な描写かな、とも思いましたが、実際、映画部が高校にあるだけでも凄いと私は思いました。なかなか難しいですよね、映画部自体が。

帰宅部の方たちの生態と言うのも結構リアルなんですよね。何をするわけでもなく、運動部やら文化部の連中にちょっとした負い目を感じながら、でも、イケてるのは俺ら、私らだぜ、という自負は捨てないし、それがアイデンティティ。まー、それも少し誇張かな、とも思うのですが…。

この映画、スクールカースト、上下関係ものではない、という批評を読みましたが私も同意です。これは別に上も下もなくて、ちゃんと平等なんですよね。スパイスとして、映画部の描写がクスリと笑えるようにはなっていましたが、そんな彼らのことも眩しく見えたのが宏樹である、というところからもこの映画がそういう上も下もない映画であることはわかるかな、と。

とにもかくにも色んな角度で色んな話ができる、そんな映画として幅広い世代の感想が聴きたい映画になっていたと思います。


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