目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

君たちはどう生きるか

2023-07-21 08:27:33 | ★★★★
君たちはどう生きるか

新宿TOHOシネマズで鑑賞。
スタジオジブリ、宮崎駿、久石譲、米津玄師、木村拓哉、菅田将暉、柴咲コウ、etc…

これは…こういう映画だろうなあとは思っていたがやはりと言う感じ。
誰かの批評を読む前に自分の考えをまとめる。とはいえ、自分の感想を書く力の衰えを感じざるを得なかった。自分自身が分かりやすいものばかり、選んで観てきて、説明や解釈が無いと理解ができないくらいには文学的な構造から離れてしまっていたようだ。
その事実自体がキツイが、そこにも向き合おうと思う。

今作「君たちはどう生きるか」は宣伝が一切無いという手法で話題になったわけだが、作品がある程度完成したであろう年末時点で、宣伝をしないでおこうとした理由もよくわかった。しかし、この宣伝手法自体は子供のことを思うと、これでよかったのか?とは思うが。

プロデューサーの鈴木敏夫さんはslam dunk方式と言ったそうだが、極限までCGアニメとして作品の質をバスケットボールの生の試合に近づけるべく、高め続けたslam dunkとは全く状況が異なると言っても良い。

それでも私も公開後、日をおかず、確かめるような視点で作品を観に行ってしまったのだから、今回に関しては制作サイドのプロモーション戦略はある程度成功と言って良いのだろう。だが…

私が宣伝担当なら頭を抱える。何をどう宣伝すべきか?どこをどう切り取っても、たぶん、完成した作品の期待値を上げるようなものとなるだろう。
何も知らないで観に行き、おおよその鑑賞者が首を傾げながら、つまりあれこれ考えながら出てくる、がおそらく鈴木敏夫氏がやりたかったことに違いない。(「本人も宣伝が無かった頃の映画鑑賞というのはそういうものだったし、それを体験してもらいたい」とインタビューで述べている。)



ネタバレします。



宣伝や鑑賞後の批評で作品内容に詳しく触れる意味があるのか無いのか?というのもある。
正直、そんなことをする必要も無いのかもしれない。
直近の作品である「崖の上のポニョ」や「風立ちぬ」で後半生に突入している宮崎駿がどういう境地に立って作品作りをしているかは変な話、鑑賞者は理解出来ていたはずで、それ以上の何かを事前に期待することそのものが誤りだったのかもしれない。
そもそも論、すでにある種の境地に立っている宮崎駿監督におさだまりの通常のエンターテイメントを期待するものでもないし、完成した作品に「何らかのメタファー」をひたすらに読み取ろうとすることもまたあまり意味が無いと私は思う。

ひたすらに作家性によるアニメーションのインプロビゼーションを観続けるという感じだろうか。
勿論それぞれのカットや表現自体は非常に高いレベルなのだが、鑑賞後の感想としては「ん、んんんー」という感じだ。

長い夢を観て目が覚めたらあっさりとその内容を忘れる、あの感じだ。(映画の最終盤の青鷺と眞人の会話にもあるが)

観ている時は楽しい場面も色々あるし、あれこれ考えながら観る甲斐もあるのだが、見終わると、殆ど何も残らない。

直接的な表現になりがちなアニメで、様々な表現の積み重ねで、この感覚を与えられるのか?という点においては、驚きではある。

冒頭こそ、すわ、風立ちぬ的な世界観か?とも思ったが、それもあまり物語的には単なる背景で深い意味性は無かった。

時代設定と主人公である眞人の生い立ちは宮崎駿という人の前半生には大きく関わる。
戦前に東京で航空系の製造会社を営む裕福な家に生まれるものの、その後宇都宮に疎開し、小学校3年生まで暮らしたとあることから、主人公の眞人のモデルは宮崎駿では?ということはできよう。(その後、劇中と同じく東京に宮崎駿少年は戻る)

ただ、映画のお話的にはそれそのことにはあまり意味は無い。宮崎駿の生い立ちを知っていても知らなくてもあまり関係はない。

物語の構造としては、異界に行きて帰りし物語という意味では「千と千尋の神隠し」に近い。
あとは、監督も違うが、昔の自分の係累に出会うという意味では「思い出のマーニー」だ。

しかし、お話の構造的な自家引用や表現としてのそれが多く見て取れるということは、言葉にしたくはないが、宮崎駿監督作品としては「ここで終わり」なのかもしれない。

そして、それはそれで仕方ないのではないかと思う。
まさに色々な作品を想起するような表現が多かった。ラピュタ、ハウル、千と千尋、もののけ姫、風立ちぬ、他にもまだまだあるだろう。

思うに、宮崎駿監督は半世紀を超えて様々なアニメーション作品を生み出してきた。彼が40代で手がけたラピュタやナウシカ、トトロや魔女の宅急便のことを思えば、82歳にして、こういう作品を手掛けること自体が驚異的だし、もはや、超人の域と言える。宮崎駿も10-15分の小品を作ることはあったとしても、今後、こうした規模の作品を作ることはかなり難しいだろう。スタジオジブリとしても、今後は細々とジブリグッズなどで食い繋いでいくことになるだろう。
それくらいお話としては、ある種の説教くささも無く、何かのメッセージがあるわけでもなく、描きたいものを描きつけた、という印象。
そこに何かの予定調和は無い。ディズニーアニメの金字塔である「不思議の国のアリス」くらいには様々な不可思議なことが起こる。不可思議な存在や出来事にルールがあるのか無いのかもよく分からない。が、それで良いのだと思う。
異界の出来事なのだから。

近年大ヒットしているアニメ作品というのは新海誠作品にせよ、細田守作品にせよ、漫画原作アニメ映画(鬼滅や呪術、コナンにワンピース)にせよ、とにかく分かりやすく、受け入れられやすい。少しでもスケール感が小さかったり、わかりづらかったりすると、ディスられる。
漫画原作アニメ映画に至っては、殆どの人たちは原作既読であり、キャラ設定はアタマに叩き込まれており、「このキャラクターはきっとこういうことを話すだろう、行動するだろう」と言った予定調和を楽しむくらいの世界でもある。
そんな時代劇や歌舞伎みたいなアニメーションがランキングを賑わせる昨今、ジブリ作品はまだ歴代トップ10に何作品も残るものの、確実に世代交代の波が来ているのは如実にわかるわけです。最近ではグローバルでもヒットしているため、グローバル興行収入としての金額的にはジブリの過去作品を遥かに凌駕する作品が続々と出てきています。
現代日本のヒット作品群や過去の大ヒット宮崎作品とも大きく一線を画しています。なんなら、過去作品の千と千尋の神隠しに物語構造は似てるけど、お話の筋や流れとしては全く似てないし、爽快感らしい爽快感もあんまり無い。
なんなら途中、ホラーなんじゃないか?と思うシーンも複数箇所。主にアオサギの描写やおばあちゃんたちの語り。あとは鳥のフンに何度も汚されるわけですがこれもまた何か意味があるのかしらね。思わずメタファーを探してしまうような映画でした。
しかし、何か見つけてもそれも裏切られそうですが。
で、主人公たちはどこに行ってたのか。というところもはっきりとしない。考えることを観るものに委ねてるという意味では大変に真摯と思う。


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