東京の先輩の所に刀が届いた。
午前中に連絡あり。早い!
昨日中に兵庫県から発送予定との
連絡があり、本日午前中に都内に
到着。
先輩は購入を決めた。
これまた早い(笑)。さすが江戸っ子。
逡巡は無い。
この刀、私が画像で観る限り、かなり
真面目な作だ。
戦国戦乱を乗り切った刀であるので、
満身創痍で痩せてはいるが、造り込み
は意欲的でとても好感が持てる作だ。
鋩子の造りがまず良い。三原のような
長い返しは実用的見地からだろう。
そして、棟には地斑(じふ)のように
海上に島が点在するような棟焼きが
ある。
この棟の焼きは、美術刀剣界では下作
とする斯界独特な高慢ちきな見解が
あるが、実用性などに無知な連中が
勝手に作り上げた的外しの思念でし
かない。
意味がある事しか刀鍛冶はやらない。
そこを見ずして何を見る。
日本刀を見る。それは作者とのやり取り
なのだ。
この棟の焼きというものは、刀が見える
人にしかその存在は見る事ができない。
水田国重のうち山城大掾を受領(ずろう)
した大月伝七郎の作には、棟にまるで
初代虎徹の玉垣刃を焼いたような作がある
が、あそこまで明瞭な焼き入れ処理では
なくとも、軽い棟焼きは実用的な見地
から処理をする刀工はかなりいる。
これは赤がねをかませての反り直しで
生じたものではなく、明らかな作刀上
の工法の処理として棟側にも軽い熱変態
を施していることが看取できる作品は
結構存在する。
しかし、刀が見えない人には、その刀が
どのような状態になっているか、どこが
どうで何がそこにあるのかが一切見え
ない。
いわゆる「刀が見える人」というのは、
刀身に発生している物理的な現象を
つぶさに一つももらさず素直に見て
取ることができる人の事をいう。
この「刀が見える、見えない」という
のは、経験値や学習進度などは一切
関係がない。刀が見える人は最初から
いきなり見える。刀が見えない人は、
一生見えない。どんなに日本刀の事を
書籍で勉強しようと、あるいは多くの
日本刀を実見しようと、刀が見えない
人は一生見えないままだ。
これは最初から「見える人、見えない
人」というのは決まっているのだ。
きっと人間を作り出した神の采配なの
だろう。
そして、いあい道などの日本刀を使う
人たちで刀が見える人は皆無に等しい
という人の世の現実がある。
私が思うに、これは刀を運動用具程度
にしか捉えていない人たちだらけと
いう事が、日本刀が見えないという
現実に拍車をかけているのではと
思えるフシが強い。
要するに、いあい道をやっている人たち
は「日本刀には興味はない」のである。
刀を振っている自分に興味があるだけで。
それでは百年経っても日本刀の真実に
肉迫することなどは不可能だ。
刀が見える、見えない。これは人が
オギャアと生まれた最初の時から
決まっている。
ただ、刀剣の勉強をする事によって、
眠っていた日本刀が見える資質が
開花して、見れば見る程どんどんと
刀が見えて来る、という事はある。
私も小学校中学年まではよく見え
なかった。
ただ、家伝の日本刀や親戚親族の
家に残る日本刀を見るたびに「刀身
上のここにあるこれは何だろう」と
いう疑問が数えきれない程にたくさん
あったので、日本刀を本格的に勉強し
始めた。
書籍による学習開始は小6の時からだ。
それが中1の時に、一気にブワッと刀
が見えるようになった。
ありとあらゆる刀身上の現実をその
ありのままで捉える事ができるよう
になったのは、日本刀を手に取って
真剣に見始めてからたった一年だ。
開花とか開眼とかというのはこれ
なりしや、と中1の時に感じた。
たまたま歴代が日本刀に深く関与する
家筋だった事もラッキーな偶然だった。
刀に触れ合う(触らせてはくれな
かったが)機会が他の家の子よりは
多かったのはこれ幸いだった。
本日、一口の日本刀と出会った先輩が、
幾星霜を駆け抜けて生き残って来た
その刀に接することで力が自らの内部
に湧き出て、来週の手術を乗り切って
くれることを切に願っている。
「力を貰う」「勇気を貰う」などと
いうものは人間界には存在しない。
気力も体力も知力も勇気も夢も希望も、
誰かから貰うものではない。
自分の中から湧き出て来るものだ。
他人や自分以外の事象は、その自発的
な力の発生の触媒の役目をするだけ
なのだ。
「勇気を貰った」「優しさを貰った」
「元気を貰った」e.t.c.
これらは大嘘なのだ。
そんな他力本願の性根でいる限り、
絶対に自分の状態は好転したりは
しない。
自分の力で切り拓くのだ。雄々しく、
逞しく。
少なくとも武士の意気地はそうである。
生まれた時からそのように徹底的に
躾けられる。
独立自尊。己がすべてを決裁する。
それがサムライってものだ。
もちろん、壮絶な生き方をしてきた私の
先輩には無用の論だが、世間一般的には
そこの大切なとこを解かっていない人
が多いようなので、口はばったいが、
あえてここに記しておく。