渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

天然砥石の妙味

2020年06月30日 | open


(本山天然砥石の端材。戸前・あいさ・
並砥・天井・敷き戸前の原石。
あいさは日本刀研磨の地艶に使える)

天然砥石って高価ですよね。
大き目のまともな物は、物にもよります
が1丁8万円~20万円くらいします。豆腐
と同じくらいの大きさの物が。
日本刀研磨用では1丁600万円の砥石も
あったりする。
安い物でもだいたい3万円前後です。

私の場合は、端材の小売り物を仕入れて
います。理由は、質は高級砥石と同じ
だが形が小さかったり豆腐形に取れな
かったりした変形であるために格安に
なっているだけだから。

その端材天然砥石をできるだけ立方体
になるように磨って、板にコーキング
材で貼り付けて使用しています。

崩れやすい種類の砥石のサイドは
カシューで塗り固めて養生して
やっています。

天然砥石について私がまとめてみました。

天然砥石の良質な部分は製品化されて
大きな豆腐形に切り出されているため
に高価なのです。
端材は小さな変形物ゆえ値段が安い。
それを整形すれば質は上物と変わらな
いので、和式刃物等の小物には十分に
使えるのです。

私の研磨。鋼の素顔が見えるように
研ぐのが一つの目標。



刃取りをしている白いところが刃文
ではない。刃文とは焼き刃の頭の事。
これは日本刀なので刃文が見える。


鋼と地鉄(じがね)の合わせ鉄利器材の
包丁などには刃文は無い。地鉄と鋼
の境目はカイサキと呼ぶものであり、
刃文
とはまったく関係のない包丁の
境目文様のことをハモンと思い込んで
勘違いをしている日本人はとても多い。
なお、刃文は焼き刃の頭であるので、
どんなに研ごうが刃文が消えるという
ことは無い。見えにくくなることは
あっても刃文が消える=焼き刃が消失
するということであるので、それは
焼きナマシでもして焼き刃を無くさ
ない限りあり得ない。
だが、これも無知な人が非常に多く、
「刃文が消えた」とか言う人が多す
ぎます。


天然砥石を使って、きちんと研いで
あげれば、肥後守でさえもこのよう
な姿になります。土置きによる刃文
発生はありませんが、刃先から焼き
入れ冷却しているため、刃文状の
直刃風マルテンサイト変態がみられ
る個体になっているのがお判りになる
でしょうか。


刃部は明らかに高硬度になっています。
また、地鉄は複雑な熱変態による肌目
が現出している。
こういう良い部分を引き出してやるのが
本当の「研ぎ」だと私は考えています。
ほんの600円の永尾製の本家肥後守で
さえも、このよう
な鉄の芸術性を鍛冶職
によって付与され
ているのです。
ただ、通常ではグラインダーでガーッと
削っただけなので全く素顔が見えない。
私は研ぎにより本当の姿を見せてあげた
だけです。私の手柄ではない。刃物が
持つ良性部分が隠れていただけ。
私はそれの手を引っ張って、ヨイショと
引き上げてやっただけです。


鍛造打ち刃物が持つこうした鋼の熱
変態による働きを明瞭に見えるよう
に研ぐには、天然砥石でないと絶対
にできません。
人造砥石だと、バフをかけたような
ツルツルピカピカのステンレスメッキ
のようになってしまいます。
天然砥石は、ただ単に刃物を切れる
ように研ぐだけではない大きな能力
を持っているのです。
刃先を尖らせるだけならば天然砥石
ではなくとも、粒度を上げた人造砥石
や乳状ケミカルでも切れ味は得られ
ます。
しかし、鋼の素顔、鍛冶師によって
この世に生まれた刃物が持つ鋼の真の
姿を見ることはできません。

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