渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

好きなタイプ 〜四剣〜

2023年01月31日 | open


四剣が好きだ。
理由などない。
好きだから好き。
異性の好みのようなものだ。
だが、少し掘り下げてみよう。

考えたら、ビリヤードのキューは
四剣ハギかプレーンの物しか持っ
ていない。他にフォアアームに凝
ったインレイのある物は所有して
いない。プレーン=坊主か四剣だ。
プレーンもシンプルで味があるの
だが、ハギの四剣がなんともいい。
剣は四つだが、何というか、最近
の凝り過ぎのインレイデザイン物
からすると、四剣は一輪挿しの美
に通じるような趣きがある。

英語では先の尖った物という意味
のプロングだが、日本語では剣と
呼ぶ。
ハギは元々は曲がり防止の為に考
案されたが、やがてそのハギにベ
ニヤの色のついたタネ板をかませ
て装飾性を増した。20世紀初頭の
事だ。
ハギのキューはアメリカンプール
キューではスタンダードとなった。
1960年代からは、バット部分を
ハギ一体型ではなく、フォアアー
ムとハンドルとリアスリーブに分
けて製作し、ネジでドッキングさ
せる方法が登場した。
それが現代キューにまで続く構造
となっている。
連結構造になってから、ハギは
本来の曲がり防止から装飾性重視
の機能となった。
そのため、心部まで深く噛み合う
本ハギではなくインレイでハギの
形にするような手法も誕生した。
だが、木材の外周に別な硬い素材
で骨を作るので、その部位は硬度
が出る。
それゆえ、インレイハギとて、完
全に装飾性のみの効能があるので
はなく、キューの性質形成の一翼
を担う。

ハギの見た目はとても単純だ。
剣の外側にタネ板が並ぶだけ。
全て直線で構成されている。
インレイハギは剣先が丸まって
いるが本ハギは尖っている。

本ハギの1960年代物とインレイ
ハギの1980年代物。


四剣ハギの魅力は一体何だろうと
考える。
私個人は、簡素で原初的で素朴な
デザイン、実用機能がやがて装飾
性を持つようになった歴史の美的
変遷が面白く思える。
四剣の変遷の位相は、まるで日本
刀の目貫のような感じがする。
日本刀の外装の目貫は大元は太刀
の目釘であり、それがやがて独立
して手の座りをよくさせるハンド
リングのストッパーの役目になっ
た。
だが、刃を上にする打刀が登場し
てからも太刀の位置のままに目釘
を配する現象が生じた。
これはもう完全に実用性は離れて
いる。
しかし、その打刀の逆配置目貫が
本式とされていまい、正規の位置
に配置する事は逆目貫と呼ばれる
ようになってしまった。
本来、目貫は掌のほうに収まる
配置なのだが、指掛けの側に打
ではなってしまったのだ。
新陰流の外装のように、真の実用
性を太刀と同じく追求した目貫の
配置は江戸期には逆目貫と称され
た。本当は新陰流の配置が正規だ。
実用性を離れて、目貫が完全に装
飾性主軸になったのだった。
だが、キューの四剣がインレイと
なっても、物理的には硬度の確保
という実利性を失わないように、
刀の目貫とて実用性をまだ持って
いる。掌の座りではなく、今度は
指掛けとなったからだ。

これは、剣術というものの発生と
密接にある。
太刀のように掌側に目貫があると
ビタリと手が決まって動かない。
だが、細かい操刀をするならば、
掌側が固着し過ぎずに自在に指の
操作ができないとならない。その
為には掌を固める目貫は邪魔にな
るのだ。無いほうがむしろいい。
柄巻きだけのほうが特定位置の握
りの時のみ発生する手への抵抗が
無くなるからだ。
私は表裏の両目貫を中央に置いて
片手打ちや両手掛けの時に掌や指
に目貫が一切干渉しない仕様にし
ている。剣術遣いが好む特殊仕様
だ。
薩摩拵のように目貫無しでもよい
のだが、私は薩藩の末裔ではない
ので、形式上は目貫を柄に配して
いる。武家様式として。
だが、江戸期の武家規範において
も目貫の位置は勝手御免が武家の
法であるから、目貫は好きな位置
に特別仕様として配している。
抜刀術剣術屋の抜き打ち操刀仕様
に差料を拵えている。芸者(=武芸
者)の差料としてのカスタムだ。


刀の目貫は、旧来の戦国初期まで
の実用性からは離れつつも、実は
それは実用性を失わない他の効能
が戦国時代末期、剣術発生期に生
まれている。
これはキューの四剣の立ち位置に
非常に似ている。
そして、私はそこにこそ独特の
日本的な美を感じ取るのだ。
ダイレクトな直截さだけで表現
する西欧感覚ではない、複雑で
重層的な実利の価値観。
私はビリヤードのキューの四剣
の魅力はそこだと感じる。
薄くなっても実利あり。
だが、その薄さは、表層がそう
見えるだけで、実は硬度付与と
いう実用性は例え本ハギではな
いインレイとなってさえも有し
ている。
まるで実在する天の理に沿うか
のように。
自然に生きる姿がそこにある。
それゆえ、私は四剣が好きなの
である。


東西南北の方位。これ万国共通
の天理に沿う姿。
また、玄武白虎青龍朱雀という
東洋の思想にも通じる。
フォープロングは四剣と呼ぶ。
私は剣士として剣を使う。


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