渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

試刀

2022年09月30日 | open


テスト投入したが、かなりタップ
は膨らんだ。いろいろな
多くの事
が感知でき、見えた。


1980年代末期、東京赤坂のプール
ホールのカウンター付き観戦席
で、あるポケットプロとスリー
クッションプロとプライベートで
胸襟を開いてかなり深いところで
キュー談義をした。
ポケットのプロは先角について
象牙こだわりの持論を展開した。
スリーのプロは樹脂の軽い先角
の優位性を述べる。
私は、打感のみは象牙を超える物
はこの先も出てこないだろう、と
言った。耐候性やトビ軽減のため
だけならば開発され切った樹脂が
時代と共に優秀な物が登場するだ
ろう。だが、象牙を超える物は
象牙しかない、と。養殖魚は天然
魚を超えられない、と。
まだダン・ジェーンズが独自の
象牙論
をプレスに述べる前の事だ。
二人のプロは聞き入っていたが、
さらに掘り下げて非常に細かい点
まで多角的にメスを入れる私の
所見について二人は納得同意して
いた。
そして、その時のまとめとしては
「将来的に斯界がどうなるか、
見守って行こう」となった。
一人のプロは大きく流れが蛇行する
現況をその目で見る事なく、年若く
して他界してしまった。

タップについて、当時は牛もしく
は水牛の一枚革タップしか無かった。
一枚以外はファイバーのコンポジッ

ト物だ。
しかも一枚物は今からすると良質
極上の。
安いハウスキューに着け
るような
タップでさえ、2022年の
現在からみる
と極上タップのよう
な質性だ
った。
だが資源が枯渇してきた。
天然木の良質ハードロックメープル
の枯渇により工夫が重ねられて
貼り合わせベニヤシャフトが登場
した。ハイテクシャフトの誕生だ。
そして、同時期、良質の厚革枯渇
から、薄い豚革を何枚も張り合わ
せるベニヤのようなタップが登場
した。
そのタップは当初はなめしと接着
剤が悪く、最低最悪の打感と性能
だった。
しかし、開発が進み、どうにか
使えるタップとなり、さらには
「優れた」タップとなった。
売れた。

目ざとい連中は見逃さない。
二匹目のドジョウを狙って積層
タップを製造した。
良質タップを作ろうとしてでは
ない。暴利が得られる事を見抜
いたからだ。
とんでもない数の製造メーカー
が乱立した。
1990年代以降のビリヤード業界
は、それまでの100年の歴史の
流れとは大きく転換した。
それは、「超儲け主義」が第一義
として台頭して天下の支配者の
ような顔をし始めたのだ。
乱戦の商戦。昨日までの物と同様
の製品が一気に10倍〜30倍の金
額で新商品として戦略販売される
ようになった。狙いは金だ。
それを後押ししたのは大衆である。
そして、ビリヤード業界の新製品
ラッシュは、使い捨て消費経済を
形成するようになった。
「時代遅れ」と過去の良質製品を
捨てる愚行が、あたかも時代の
先進性=全方位的良質性であるか
のように遂行されるようになった。
極めて究極に愚かである。
日本刀は古刀が最良最高である
という定理があるように、現代
工業製品であっても、最新型が
常に純粋な優良性を有する訳で
はない。
だが、商人の販売戦略に多くの
大衆は洗脳されて「ブーム」に
乗って物を買う。良い物だと信じ
て。

かつて、ハイテクシャフトが爆発
的な大ヒットとなった今世紀初頭、
私は従来のソリッドシャフトの
良質性を認知していたので、ベニヤ
新商品にシフトする事はしなかった。
これは出てきた新商品をテストして
みての自分の判断だった。
だが、そうした旧来のソリッド
シャフトは「ノーマルシャフト」
という格下に見る歪んだ価値観が
蔓延し、ビリヤード界からは忌避
されていった。戦略なのだが。
私のように従前と同じ良質ハード
ロックメープルの無垢木シャフト
を使う者は圧倒的少数派になった。
だが、私は知っていた。
世界のトッププロたちはほぼ無垢
を愛用し続けている事を。
ハイテクシャフト大好きになった
のは日本人だ。
これはベニヤ豚革積層タップと
同時進行で景色が描き換えられて
行った。

だが、新商品はあくまで戦略新商品
であり、質性の良性を担保するもの
ではない。
その波及戦略原理としては、次から
次に新商品を登場させて、つい先
頃まで「最高の品質」と謳って販売
していた物品を自ら捨て去る方式
で販売を展開する。
ゴルフの飛ぶクラブ神話捏造と同じ
全くの虚構である。
だが、大衆はその販売戦略にまんま
と乗せられて洗脳され、どんどん
新商品を買う。昨日まで「最高」
だった物を捨て去って。
暗愚である。

ビリヤード業界でドジョウ狙いの
商品はどんどん登場している。
狙われたのは、
・シャフト
・タップ
・チョーク
・ギア(グローブが代表)
等々だが、そのうちウエアや靴や
専用下着まで登場しそうな勢いだ。
気を付けないとならないのは、そう

した風潮を利用して霊感商法の
ビリヤード用品まで登場している。
これは特に厳重注意だ。

グローブなどは、従前はグローブ
など使うのはド素人でグローブ君
とまで揶揄された。
どカッコ悪いのもあったが、実は
それは長靴を履いて短距離走を
しようとするのに近い、深い技法
部分での阻害要因にグローブが
ある事を認知識別していた従前の
技法巧者の共通認識でもあった。
詳細は割愛するが、要はパンツ
履いたまま用は足せない、という
事があるのだ。下着つけたまま
子作り不能、というような。

手袋して鮨は握れない。

しかし、流行大好きな大衆は流行
に乗せられて何でも購入し、それ
がかっこいい事かと妄信する。
暗愚である。
グローブなどは大昔から存在した。
だが、それをプロはじめ多くの
巧者が使用選択しなかったのに
は深い意味がある。

ビゼンタップが今話題らしい。
試した。
これまでの豚の積層とは質性が
異なる従来の牛革一枚物に迫る
性能を有している。素晴らしい。
努力賞ものだ。

だが、スリー用で1個3630円だ。
尋常ではない。1本3万円のオート
バイのタイヤが1本108万円もする、
というのと相似だからだ。
性能はともかく、完全に現行の
「新商品戦略」上にある商品だ。
製品というよりも商品。
そして、性能面を精査すると、
優秀ではあるが、牛の一枚革の
タップを超えていない。

60%程度には本牛革(あるいは
水牛革)一枚タップに迫っては
いるが、良質牛革一枚タップと
比較したら、申し訳ないが遥かに
及ばない。それは打感と反応の
非常に細かい部分において。
及第点には達しているかも知れ

ないが、届かないし超えていない。
金額は論外だ。
そして、観察すると分かるだろう。
そのうちどんどん「新製品」と
してバージョンを変えてくるだろ
う。すでにそれは開始されている。
現行の商業戦略の流れに沿った
「商品」だと判別できる。
現行のあまた存在する流行商品群
の一角を占める物だと類別できる。
決して「革命的」な新製品では
ない。

象牙を超える物は象牙しかない
ように、牛革一枚タップを超え
る物は牛革一枚タップしか無い。
これは現実だ。

なお、タップに関しては厳密には
牛革の資源は枯渇していない。
皮をなめして革にする関連業者、
原材入手業者等が枯渇している
のだ。また、仕事が別な革製品に
集中シフトしたという事もある。
経済背景により、スリム化という
か、採算ベースで効率性を求める
方向、そのルートへの供給に特化
し始めたのだ。
なので牛が減ったのではない。
積層タップはとんでもない常軌を
逸した高額ではあるが、暴利と
なるほどの事をしないと儲けには
ならない状況があるにはあるのだ。
分かりやすく言うと、革業者は
ビリヤードのタップの為に革製品
を作っているのではないからだ。

それにしても、1個4000円近い
タップ。

私は個人的には買わないだろう。
一枚革をすべての点で超えていな
からだ。
また、現行スタンダードかのよう
蔓延している他の積層タップも
私は
使わない。
理由は一つ。
一枚革よりも性能が劣るからだ。
また、着け替えのコスパも割に
合わ
ない。てんで合わない。
毎回1本100万円超えのタイヤなど
使っていられない。
4000円タップや3000円チョーク
などは富豪用かと思ったりする。
気を付けないとならない。
プロたちが使用しているのは、
あれ
はスポンサードを受けて、
無償提供
されているのだ。そこを
見落として
はならない。
プロたちが自腹で4000円タップ
ポンポン着け替えていたり、
3000
円チョークを使い倒したり
してい
るだろうか。皆無だ。
よくよくお考えいただきたい。
業界のカラクリを。

私は素手でソリッドシャフトを
使い、160円のブランズウィック
か100円のマスターチョークを
使い、
120円の米国製のフランス
風味の商品名の牛革一枚タップを
使う。

商業戦略には乗せられない。
商業資本が仕掛ける船頭が多い
泥の船には乗らない。

ビゼンタップを「試してみて」と
くれたTAD遣いの人は言った。
コスパ悪いので自分は一枚革に
戻るだろう、と。私もだ。
テストしてみて、優秀性は認識
しつつも、如何せん金額が法外
過ぎる。
「旧製品」で「時代遅れ」とさ
れた良質性の旧来の製品群。
一つだけ目に見えるものがある。
それは、現行販売品であっても
「値段を変えない」という事。
この不動性は時代を超える不朽性
を有しているが、それは「使い
捨て商品」ではない資質、質性、
立ち位置の違いを鮮明にしている
事の証左でもあるのだ。
古刀、この上無し、なのである。

この先も、私はソリッド・スタン
ダードの無垢木シャフトを使う。
私は今後も一枚革タップを装着し、
素手でキューを操作操縦する。
それは「ノーマルシャフト」で
はない。スタンダードだ。
商業販売戦略に乗っかって心得
違い、勘違いをしてはならない。
ノーマルの対語はアブノーマルだ。
ソリッド・スタンダードをノー
マルシャフトと呼ぶならば、ハイ
テクシャフトなる物はアブノー
マル・シャフトになる。
ソリッド無垢木シャフトはソリ
ッド・スタンダードであり、ノー
マルではない。スペシャルもある
のだから。

ノーマル呼称は、ハイテクシャフト
を売らんがなの今から22年程前
に意図的に創作された呼称だ。
ハイテクシャフトを松竹梅の松
とし、ソリッド無垢木を梅以下
の「並物普及品」と見下す為に
意図的作為的に創作された新
呼称が「ノーマルシャフト」な
のである。真実はソリッド材
こそがビリヤードキューのシャ
フトの本道本筋ど真ん中である
のに。えげつない商戦でハイ
テク呼称を付与したべニア中
空新シャフトを売るために
それまでの優れたソリッドを
見下す虚構の呼称が創作された
のである。
ビリヤードの正しい歴史を知
らない者は、その真実が見え
ずに商業戦略に乗せられて
ステレオ脳判断でノーマル、
ノーマル、ハイテク最高、
などと言動で表す。
モノヅクリや物の良し悪しなど
は識別できない。歴史さえ
知らないのだから。
それが今世紀初頭の業界俯瞰図
だったが、その構造は20年後の
現在も全く一切変化はない。

笑えるのが今世紀初頭には、ソリ
ッドを時代遅れと見下すハイテク
好きたちがドヤ顔しまくっていた
事。ブームに乗っただけなのに、
非常に珍妙でおかしかった。
その後、ハイテクが廃れてカー
ボンが仕掛けられたら今度はそれ
に乗っかる。その次は手袋だ。
そして、ソリッドシャフトと
牛革の見直しプチブームがここ
最近やって来た。
それまで1本1500円程で捨て売り
されていた在庫ソリッドシャフト
は商人たちによって20倍~50倍
の金額で販売されるようになった。
えげつない。
さらに、今、牛革タップが注目
され始めた。

ソリッド再注目も、仕掛けの
ブームであり、飽和状態になっ
た市場の隙間狙いである事は
見え見えだ。
良質性などは1980年代中後期に
スカスカ材が蔓延した時に分って
いた筈だ。
新規で「ノーマルシャフト」や
「牛革」を売りにした商品は、
現行の流れの中にある「他社と
の差別化」を前面に出した商品
販売展開でしかない。
「新しい物を出せば売れる」と
いう時代はまだ日本のビリヤード
界では続くだろう。
温故知新を知らず、「今時云々」
という言い回しと発想が大好きな
層が社会人を構成する時代になっ
たからだ。


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