渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

映画『ギターを持った渡り鳥』

2017年11月03日 | open


『ギターを持った渡り鳥』
(1959年/日活)


最近日活映画にハマっている。
CGも何もない時代の映画が面白い。
そして、この日活無国籍映画、渡り
鳥シリーズがとても気に入っている。

日活は、石原裕次郎がシリアスラブ
ストーリー路線、小林旭がファンタ
ジーの路線なのだが、空想活劇とし
て私は小林旭シリーズが好きなのだ。

裕次郎の作品も非常に心に残る良い
作品だけどね。『銀座の恋の物語』

なんてのは感涙なくして観れない。
いいよ、あの作品。


この『ギターを持った渡り鳥』は、
ちゃんねるギャオの無料動画で観た。

絵が綺麗なので驚く。キャメラも
非常にいい。中だるみせずに一気に
物語が駆け抜けて行く。

作り手の細やかな作り込みが感じ
られ、非常に「映画」になっている。

表現者としてもとても勉強になる
作品だと私は感じる。


ストーリーは元神戸市警(県警では
なく市警というのが良い。ここから
して架空。ベイシティコップか?
みたいな)の刑事だった滝伸次が
流れ者となってギターの流しをやり
ながら函館に着くところからはじま
る。

そして、地元の権力者の悪党に雇わ
れるが、その娘とのロマンスを交え

ながら(清廉なるロマンス)、事件
に巻き込まれて行く、というお決ま
りのパターンだ。西部劇からだいぶ
展開を拝借している。それゆえ、
「日活無国籍映画」とまで言われる
ようになった。

だが、大ヒットした。
観客動員数は裕次郎の作品を上回
ったが、ギャラは石原裕次郎と小
林旭では
天と地だったという。
裕次郎は慶應ボーイ、小林旭は明大
だ。この頃の俳優は殆ど大学進学者
俳優になっている。演技に学歴は
関係ないが、当時の俳優は映画会社
の「正社員」だったのだ。

だから当然労使交渉や労使紛争など
もあり、中村錦之助(のちの萬屋
錦之介)
などは労働組合の委員長
になり、映画会社側の俳優たちへ
の待遇改善で
かなりシビアな労働
運動を展開したりした。


さて、この頃の映画を観る楽しみ
の一つに、当時の日本の風景がそ
のまま
映像に収められているとい
う点がある。


この函館の歓楽街の1959年時点の
雰囲気がたまらない。酒場で酔っ
て流しに絡んでいたアメリカ人を
こてんぱん(死語)にする主人公。



警官隊がやって来たので、逃げる。
こういう路地は東京では新宿ゴール
デン街がまったくそのまま戦後の
姿で残っている。



追う警察官。日本のオイコラ警官は
平成初期まで続いた。

敗戦で生まれ変わったような顔を
しているが、日本の警察は1990年代
初期までは権力を振りかざして市民
を抑圧する国家の暴力装置そのもの
として行動していた。
今でこそ、運転者を止めたら「お急
ぎのところ申し訳ありませんが」と
免許提示を促すが、かつては「こら!
止まれ。免許証!どこから来た?」

と言うようなくちぶりが警察官の常
だった。世の中で誰が偉そうにして
るといったら、それは警察官だった。
オマワリという呼称はそうした警官
の横柄な態度を皮肉った国民の自然
の声だったのである。警察官は決し
て「悪い人を捕まえる人」ではなか
ったのである。



この路地などは、まさに現在の新宿
ゴールデン街そのものだが、かつて
国内では飲み屋街といえばこういう
雰囲気だった。





暴れた店の裏口からママさんに助け
られる滝。そして、豪華なキャバレー
へと連れて行かれる。こうしたホス
テスクラブとキャバレーの合体物の
ような店も昭和時代までは多く残って
いた。ステージではバンドが生演奏
をするのである。

つい数日前、銀座の老舗キャバレー
が閉店したが、国内ではもう殆ど
こうしたグランドキャバレーはない。
(キャバクラというのはキャバレー
でもクラブでもありません。全く
の別物です)



地元の有力者で企業家である暴力団
組長の部屋に案内される主人公。

社長室の横にはビリヤードルームが
ある。ヒット数を数えるカウントさん
と呼ばれる女給さんがいる。どこの
ビリヤード場でも見られた光景だ。



台はこれは日本玉台のテーブルだ。
ボールは象牙の紅白ボールで、種目

は四つ玉である。
日本は明治以降、ヨーロッパ並みに
ビリヤードが盛んになった。日本人
の多くが撞球に親しんだ。平成の
今上陛下もビリヤードがお好きだ
が、皇族はじめ一般庶民までがビ
リヤードを嗜んだ文化が日本には
かつてあった。

町にも撞球場が溢れていた。あち
こちに2台店や3台店といった小規
模の
店舗が存在したのである。


函館の地元を牛耳る有力者から
うちに来ないかと誘われる滝だが、
勝手気ままにどこへでも行くのが
性に合ってるからと滝は断る。

そして、港でギターをつま弾いた
のちにボートの中で野宿をする。



臭すぎる気障でお決まりの展開だが、
映像で見ると非常にカッコいい(笑)



さて、ボートで寝ていて沖に流さ
れた滝は、御令嬢が運転するモー
ターボートに驚いて海に落ちる。
そして、彼女に自宅まで案内され
る。

うちで仕事をみつけてあげようと
いう彼女の魂胆だったが・・・


函館の御屋敷街。1959年の風景だ。


凄いお屋敷に入って行く。


気の強い令嬢役の浅丘ルリ子さんが
とても可愛い。



この屋敷まで車で坂を駆けあがる
シーンはどこから撮影されたのか、

ロケ地をネット地図上で聖地巡礼
してみた。

何もネットでの情報データを見ずに
見つけた。ここである。





撮影場所でキャメラを置いたところは
かなり高い位置から撮り下ろしとなる
アングルの場所だ。


それはここだと判明した。函館山の
ロープウェーの乗り場の上から日暮し
通を斜めに撮り下ろしていたのである。



ただ、作品上では非常に不整合が
あることが判った。



大邸宅の屋敷の場所は現在の「旧
函館区公会堂」であるのだが、こ
の車で坂を走り抜けるシーンの場
所は、その邸宅に向かう道ではな
いのだ。

まったく逆方向に向かっている。
これは他の土地に住む人にはすぐ
には判らないだろうが、函館に住
む人は
映画作品を観て「あれ?」
と思ったことだろう。

東京タワーに向かうシーンで、タ
ワーとは逆方向の慶應大方面へ向
かうような
絵が挿入されていたら
おかしいからだ。

だが、映像作品上はそうした不整合
を感じさせない編集になっている。


函館という都市は、半島の半分か
ら先の南側は現在でも道路が存在
しない。

五島列島の断崖のような地形となっ
ているのである。



現在、この函館山緑地一体は海上
保安庁の敷地となっている。

一般的な一般人の立ち入りはでき
ない。



箱根の登山案内でも、緑地の奥の
断崖部分までの案内はない。

たぶん、緑地は自然動物の宝庫に
なっているのではなかろうか。

(南北逆の図)


御令嬢の「買い物に付き合って」
との言葉に、滝は函館山まで連れ
て来られた。このシーンがまるで
ハリウッド映画のように美しい。



小林旭は若い時から表情での演技
ができる数少ない俳優だ。



同時期の人気スタァに成城大学
在学中に撮影所内でのゴーカー
ト事故で亡くなった赤木圭一郎
がいる。

しかし、赤木は表情に乏しい俳
優だった。
実は裕次郎もだ。
だが、裕次郎が人気が出たのは、
その台詞回しにある。兄石原慎
太郎が内輪贔屓で自作原作の映
画化にあたって弟を推したのだ
が、思わぬところ
で弟石原裕次
郎の才能は見出された。
台詞回しが非常に自然の朴訥さ
出す裕次郎は、これまでにな
い舞台演劇ぽさを見せない「素
顔」のように
大衆には受け容れ
られた。
そして、当時としては裕次郎は
とても脚が長かったのでカッコ
いいとのことで人気が出た。
太陽族は20年程前でいうところ
のチーマーのような湘南海岸の
不良たちだが、裕次郎兄弟のよ
うな太陽族に見られる
「ちょいと
不良」というキャラクタが大流行
したのも、石原裕次郎からだった。

若者は誰もが兄慎太郎の髪型=
慎太郎刈りを真似した。


さて、物語は一気に展開する。
滝伸次は、刑事をやめた理由も
伏せたまま、組長の手下になり、
地上げをやったり、麻薬取引の
船に乗船したりする。

だが、組長が妹の会社を乗っ取ろ
うとしているのを知っていよいよ
組長に叛旗を翻す。



最終的には、かつて刑事時代に
追っていた神戸の暴力団員のジョ
ージ(宍戸錠)と拳銃で決闘をす
る。


コルトを置くジョージ。


なぜか急に出て来た滝愛用の
リボルバー。

実はこれは実銃だ。当時は映画
撮影に実銃がよく使われたし、

警視庁も実銃拳銃を貸出しした
りした。今では考えられない時代
だった。この銃はその後のシリー
ズでもよく出てくる。

発砲は実銃用空砲だろう。


コルト・ディディクティブ・スペ
シャルの戦前モデル、ファースト
イシューである。日本でも実際に
私服刑事用に多用されてきた歴史
がある。
(この画像は実銃)


ビリヤードルームでの早撃ち対決。




これまたお決まりのパターンなの
だが、決闘では主人公が勝つ。

宍戸錠はいつも負ける。
だが、撃ち殺したりはしない。
相手の拳銃を撃ち落とすのだ(笑

そして、大抵は宍戸錠は踏み込ん
だ警察に逮捕されるのである。


神戸市警からジョージを追って
函館まで来て捜査をしていた滝
の元上司の沼田刑事が滝に言う。

「どうだ?神戸に戻ってこないか」
と。
だが、滝は風来坊が似合ってると
上司の誘いを断るのだった。



ラストシーンでも滝と元上司の粋な
やりとりがある。



この時の沼田刑事のかっこいい
こと、かっこいいこと。完全に
小林旭を食っている。食いまく
っている。めちゃくちゃいい男!

沼田刑事は台詞回しも仕草も、
まるでハリウッド映画のようだ。



滝伸次のトレードマークのアメ
リカン・ライディング・レザー・
ジャケットは非常に日本でも若
者の間で流行した。
1969年の歴史的大ヒット劇画の
『ワイルド7』の隊員が着用する
のもこの形の革ジャンパーである。
だが、日本の白バイ隊員はあまり
着用してはいなかった。
日本の白バイ隊員の冬服は何と
自前で揃えなければならないと
いう時代だった。これは高校時
代に私を職務で走行停止させた
時にバイク談義で話しこんだ白
バイ隊員が私に愚痴こぼしとし
て語っていた。
その人はハーフの革コートを着
た白バイ隊員だったが、「冬場
なんて大変なのよぉ。上に着る
のは全部自費なんだよ」と言っ
ていた。彼らの多くは警察官と
いうよりも「仕事でバイクに乗
れる」という理由で白バイ警官
を志したライダーがほぼ全員だっ
た。


とにかく上司の沼田刑事が
カッコいい。
アキラよりもずっとカッコ
いい。役者。


そして、滝伸次は去っていく。
御令嬢を残して。
行先は佐渡だと元上司に告げる。
かつて、ジョージたちヤクザに
殺された彼女の生まれが佐渡だっ
たからだと滝は沼田刑事に呟く
ようにもらすのだった。


ここで、オープニングと同じく、
「赤い夕陽よ~」の歌となって
おきまりのエンディング。

いや~。
映画って、本当にファンタスティ
ック。



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