築地 老舗鰹節屋がざっくり語ります

築地で鰹節屋を営み70余年、現在三代目。築地ネタ、料理ネタ、ざっくり語ります。
店舗:中央区築地6-26-8 尾林商店

江戸っ子は・・・

2014-09-01 18:54:27 | 日記
「江戸っ子は五月の鯉の
吹き流し 口は悪いが腹はない」

このフレーズをそのまま地で
いっているような方が
うちのお得意様に
いらっしゃいました。
(過去形・・)

いつも朝早くいらっしゃるので
最近は滅多にお会いできませんが
たまに会えると
「おう!元気か!」
「しっかりやってるか~!」
と、べらんめぇ調で話かけて
くれます。
以前まったく別の場所で
ばったりお会いした時も
「な~にやってんだよォおい!」
と。まるで落語の熊さん八っつぁん。
ただし、仕事に対しては厳しいですし
何せせっかち。
モタモタしてると「速くしろよオイっ」
と、容赦ないです。
でも私はこの方が大好きでした。
このべらんめぇも。
温室育ちの人はちょっと
びっくりしてしまうかも
しれませんね。

さて一方でうちの兄は
のーんびり。
最近は困ったことに更に
のーーーんびり。
亀を超えてナマケモノのレベルです。
なのでこの二人は
もう落語の「長短」の世界です。

ただし私共とこの方とは
お友達ではなく商売を介した
お仕事の関係です。
なので長短のような
笑い話では済みません。

今までも色々あったのですが
最近とうとう取返しの
つかない事件が起こり
それ以来注文が来なく
なってしまいました。

バイトのH君は自分の削りが
悪かったのでは・・・と
心配しているし
私もなんだかもやもやして
とうとう今日、先方の店に
アポなし突撃してしまいました。

場所すらわからず
携帯片手にうろうろしていると
ありました!!
中をのぞくといつもの
大将が仕込みをしています。

う~ん。。。いきなりだし
うちの対応でノッケから
雷かな・・・と
ちょっと不安でしたが
「こんにちは!」と
入ってしまいました。

かなり不機嫌そうに
「何の用だよ?」と
言われましたが
兄が何やら失礼をしたようで・・
ということと、
私はおじさん(おじさんとよんで
ましたから)の江戸っ子
気質が好きだから取引云々は置いて
とにかくお伺いしたかった、と
いう旨を伝えました。

途中予約の電話が入り
奥に行ってしまったので
店の中をゆっくり見回すと
とても上品なつくり。
かざってあるものも
お花も。
そして焼酎や日本酒が
私好みのラインナップです。
戻ってくると
魚を捌く手を動かしながら
おじさんの胸中を語って
くれました。
かいつまんで書くと・・・

「俺は思ったことは言うし
ためてらんない。
だから言うよ。
アイツが病気なのは仕方ないけど
仕事だからちゃんとしてなきゃ
俺は言う。ちゃんとして
欲しいからこそ言うんだ。
でもアイツは言うと
縮こまっちゃっうんだ。
で、このまま取引したらさぁ
やっぱり俺は言っちゃうし
それでアイツの病気が
余計悪くなるようならさ、
お互いの為になんないと
思ってね。30年以上
付き合ってきたんだし
もういいかなぁってな。」

・・・。
これって優しさじゃないですか?
愛?

最初から取引再開を望んでは
いませんでしたが
これは絶対そんなこと
お願いしたら
おじさんの気持ちを
蔑ろにしたことになります。

「お取引を決めるのは
大将の方だから私は
何も言うつもりはないですが
私は大将が好きだし
今度はぜひお店に寄らせて
いただきたい、それだけです」
と言いました。

もちろんおじさんは
ニッコリとほほ笑んでくれました。

だから思わず帰り際
「また、たまにご挨拶に
寄らせていただきます!」と
言ってしまいました。
取引はないんだけどね・・。
でもあのべらんめぇ調は
たまに恋しくなります。
おじさんも
「おう!」と気持ち良い返事を
くれました。

それに捌いてる魚や
仕込み途中のお料理が
とても美味しそうで!!
絶対お店に行くぞ~!!

今日も人情に感動してしまった
ワタクシでした。
だから尾林を辞められないのです☆

色々ありますが
頑張ります。