気柱共鳴という言葉を知っている音楽愛好者がどれ位いるのか判りませんが、楽器の分類から言えば管楽器奏者であれば知っていて頂きたいように思います。物理現象であり、流体力学という、それ自体が運動の過程では変形しない質点の運動を扱うニュートン力学ではないものの、ベルヌーイやレイノルズ等が定式化した古典物理学の範疇に納まるものではないかと私自身は受け止めています。音楽の場合には古典派音楽、ロマン派音楽に現代音楽というカテゴリー分けがありますが、物理学にも古典物理と近代あるいは現代物理というカテゴリーの分類がありますね。近年の天気予報の的中率はかなり高まっていますが、これは気象現象は基本的な流体力学の状態方程式で記述され、当該状態方程式をスーパーコンピューターでシミュレーションすることで、従来は難しいとされていた台風の進路予想の精度まで飛躍的に向上しているからだとおもいます。
いまやそのような時代なので、管楽器の開口端補正についても十分に理論的に解明され、大手の楽器メーカーではコンピューターシミュレーションを駆使して十分に音程などの調整された楽器が日々開発されていると思っていました。自分でフルートを吹くようになって改めて気柱共鳴の開口端補正について調べなおしています。その結果純理論的にはあまり解明されておらず、実験的に様々なパラメーターがどの様に寄与しているかを検証している段階の様ですね。直感的にも理解しやすいのは、周波数が高くなる=波長が短くなるほど開口端補正の影響は少なくなrということです。管楽器の音程の様々なズレを考える時は、低音側を基準に考えるよりも高音側を基準に考えて低音側に行くほどより低い側に音程がズレやすい特性があると考える方が理にかなっている可能性があります。ただし開口端補正以外にも音程に影響を与える可能性がある要因は他にもある可能性があるので、要は各音程毎に何が最も支配的な要因かを評価する必要があります。
その他”http://www.geocities.jp/waveofsound/”というURLに公開されている「気柱共鳴の物理 」には、管長に比べて管径が小さい=細い管では気柱の粘性が支配的となり開口端補正値は管径に関わらず波長の八分の一となり、太い管では管口での放射が支配的で、開口端補正は管径の0.61になるというデータが存在すると紹介されています。その他、気温や音量には依存しないというデータもあるようですね。従って管楽器の幾何学的形状の最適化によって、まだまだより音程の良い楽器をデザインすることは可能な様に思われます。
何故未だに改良の余地のある楽器しか世の中に存在していないのか、逆に不思議なきもしますが、あえて不完全な楽器を演奏者が補って完全な演奏を奏でることで、演奏者の演奏技術の優劣をより判断しやすい状況に留めておく効果はあるのかなとも思いますね。まあそこまで意地悪な見方をしなくても、全音域に渡って完璧な音程で演奏できる管楽器は簡単には作れない様にも思いますので、やはり演奏者が微調整しながら演奏する必要はありそうですね。これは音響物理の考察とは全く別に、フルートのレッスンの際に先生から教えてもらったことですが、音域が低いほど=有効管長が長いほど、当該有効管長で音程が決まるので吹き方による音程の調整代は少なく、音程が高いほど吹き方で音程を調整する代が大きくなるということで、優れた管楽器奏者、優れた管楽器製作者はこのような様々な知見・知識を経験的に認識し活用していたと思います。ベーム以前のフルート・トラヴェルソの胴部管が逆テーパーだったり、ベーム式フルートの頭部管がテーパー管であることも、経験的にその様にデザインすることで音域の変化による音程の好ましからざる変化を少なくする工夫だったのだろうと思っている段階です。この問題については今後も研究して報告していこうと思っています。