世間一般では少数派のクラシック音楽愛好家の中でも更に少数派のフランス音楽愛好家同士では、フランス音楽が好きと言う人でもドビュッシー、ラヴェル、フォーレ止まりの人が多い、という会話があります。サティ、プーランクぐらいまではその延長上に出てくるかも知れませんが、マスネ、レイナルド・アーン、ましてや私が愛するリリ・ブーランジェはフランスに留学経験のある音楽家であってもあまり認識されていないように思います。
そんな中で、歌曲についていえば著名と言って良いのがアンリ・デュパルクだと思います。とはいえデュパルク自身がその生涯の終盤に自作作品の殆どを再演不能とするために自ら楽譜を破棄して、構成に残るのは「旅への誘い」等の僅かな歌曲に限られている、という状況があります。自らその作品の大半を破棄してまで残した作品だけあって、「旅への誘い」は歌曲集でありながら、その一曲一曲の密度が滅茶苦茶高くて、あたかも交響曲であるかの様に聳え立っています。一聴しただけで私ごときが歌えるものではないと、絶望的な思いすら感じます。
そんな中で誰の作品かを意識せずに聞いていた中で、印象に残ったフランス歌曲がありました。後から作曲者を確認するとアンリ・デュパルクでした。それが「ギャロップ:Le Galop」です。聞いた瞬間に馬が疾走する様子を描いた歌ということが伝わってきました。フランス歌曲における「魔王」かとも思いましたが、”梅ヶ丘歌曲会館”で確認すると「魔王」の様な内容ではなく、正に馬が疾走する様子を描いている歌の様です。”梅ヶ丘歌曲会館”に記された注釈によると、デュパルク自身は気に入らず破棄した中の曲の様ですが、残っていた楽譜が再発見されて今に伝わっているそうです。そういう事情があってかなかってか、”梅ヶ丘歌曲会館”子の評価でも他のデュパルクの作品に比べれば否定的な評価がされている様にも思えます。
デュパルク自身の遺志に添ってか添わずか判りませんが、ペトルッチ(IMSLP)のサイトに楽譜が公開されています。女声よりは男声に合う曲だと思います。いきなり「旅への誘い」に取り組むよりは「ギャロップ」の方がデュパルクの作品に取り組むには敷居が低いと思います。