ライブドアニュースを見ていたら、『マーラー「復活」の自筆譜、6億円で落札 史上最高』という記事が掲載されていました。『史上最高』というのは楽譜としてということですね。ロンドンでのオークションだそうです。落札者が誰かは公表されていないそうです。
ヴァイオリンなどの弦楽器については、イタリアンオールド楽器では数億円、数十億円という値付けが当たり前のようで驚きもしませんが、演奏家が演奏して素晴らしい音楽を奏でるという使用価値、演奏によって聴衆に感動を与えることに対して経済的対価を得るという、新たな価値の創造が伴います。また、何億円とか、何千万円とか、何百万円までいかなくても、手工品の弦楽器の場合はメンテナンスをきちんと行っていることが必要条件ですが、購入時の7ガケ8ガケぐらいで売却することも期待できるので、弾きこなす力量を持ち合わせた所有者にとってはけっして高い買い物ではないとも思います。
私もマーラーは好きな作曲家ですし、マーラーの作品の中でも交響曲第2番「復活」こそが最高傑作だと思っています。新しい所有者がマーラーの自筆楽譜を所有するに値する資質・能力の持ち主であることを期待します。ではどのような人物であれば自筆譜を所有するに値するかといえば、マーラーに限らず、その作品を演奏する指揮者、あるいは楽曲分析や楽譜の考訂を専門とする音楽学者であればと思います。最も望ましいのは個人でなく、マーラーとの関係が深い音楽大学が大学として購入して、広く指揮者や音楽学者に精密なコピーで良いので自筆譜を公開して、様々な観点から自筆譜に記載されていながら今日まで認識されていない情報を探し出すことだと思います。
資産家が金に任せて落札して、個人的に死蔵するというのは好ましくないですね。優れた芸術作品は人類共通の知的資産ですから、出来るだけその価値をあまねく人類全体が享受出来る様にされるべきだと考えます。音楽学の一分野として作曲家の自筆譜を研究・分析して、その作曲家に特有の楽譜の書き方などを解釈する学問が存在するような気がします。音楽大学のカリキュラムの中にはその様な講義はあるのでしょうか?一般的な楽曲分析・アナリーゼではなく、作曲家毎の作業になろうかと思います。例えばシューマンはピアノの2分音符や全音符にクレッシェンド記号を書いているそうですし、グリーグだったか北欧系の作曲家の中には小節線の真上にフェルマータを書いていた人も居るそうですね。歌曲やオペラのアリアなどでは、テヌートのところでフェルマータを掛けるのは当たり前ですし。ベートーヴェンの楽譜に記載された速度記号は早すぎて演奏不能という話も聞きます。悪筆で出版社泣かせだったという作曲家の話は色々聞きますが、自筆譜の時点で非常に綺麗で読み間違い様がないという話は聞かないですね。私が直に見た自筆譜はサティぐらいですが、ト音記号のg線の上下に点を打っていたのが印象に残っています。ピアノ独奏作品だったので、割りと読み安いなと思った記憶があります。
自筆譜が後世に継承されていることは素晴らしいことです。そして自筆譜に記録されている作曲家からの情報はまだ汲み尽くされていないと思います。6億円もの代価を支払う程の人であれば、単に自筆譜を所有しているということではなく、自分が所有している時に自筆譜から新たにこれだけの情報を取り出した、ということにこそ名誉を感じる人であって欲しいと思います。