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生涯を完結させるまでに歌いたい歌、最近始めたヴァイオリンとフルートはどこまで演奏できるようになるか、と時々ワンコ

死は人生の終末ではない。 生涯の完成である。(ルターの言葉)
声楽とヴァイオリン、クラシック音楽、時々ワンコの話。

魂を揺さぶられるような音楽との出会い

2014-07-16 21:08:09 | ワーグナー
高校に進学したところ吹奏楽部がなかった(中学ではトランペットを吹いていた)。その代わりにNHK全国学校音楽コンクール常連の合唱部(その高校では音楽部と呼んでいた)に入部した。1970年代半ば頃の話である。

たしか1977年かその前後の年だと思う。カール・ベーム率いるウィーンフィルの日本公演があったはずである。当時は今のようなインターネットの動画サイトも無ければ(というかインターネット自体がない、またパソコンも誕生していなかったかも)、CDも無かった。安い音源としてはFMラジオが第一で、エアチェックと言ってFM放送をカセットレコーダーや、マニアはオープンリールテープデッキ等に録音して楽しんでいた時代である。

当然NHK-FMでも来日したウィーンフィルのライブ録音等を特集として放送していた。そのプログラムの中の一つだったと思う。大御所ベームのアシスタントとして同行していた当時は若手のクリストフ・フォン・ドホナーニ指揮、そのドホナーニの奥さんのソプラノ歌手アニヤ・シリヤの独唱で流れてきたのが、ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」からの抜粋である「前奏曲と愛の死」。

その頃はトリスタン和音と言う呼び方があることも知らなければ、音楽史的にロマン派の崩壊が始まったとか、調性音楽の終わりの始まりを告げる曲だと言うような、文字どうりの画期をなす曲だとは知らなかった。しかし前奏曲が始まった瞬間から、その和音の崩れそうでぎりぎり崩れない緊張感に、魂を鷲掴みにされた。ただただこの音楽が流れている瞬間が終わらないで欲しい、永遠に続いて欲しいと願った。前奏曲が低弦のピッチカートで消え行くように終わり、つづいてイゾルデの愛の死が mild und weise ・・・と静かに始まり、やがてほとばしる奔流の様に盛り上がり、そして恍惚の中に再び消えてゆく。

TDKというメーカーの90分のカセットテープに録音したこの時の「トリスタンとイゾルデ」の「前奏曲と愛の死」はその後何回繰り返し聞いただろうか。時には1日に2回、3回、4回?、5回???と聞いたこともあった。

これ以上は無いと思われるほど官能美にあふれた曲だと思う。官能的な曲と言うとスクリャービンの「法悦の詩」がよく挙げられるが、トリスタンの前にはかすんでしまう(と私は思っている)。

若い頃には本場ドイツで是非「トリスタンとイゾルデ」の公演を見てみたいと思っていた。それも出来ればバイロイトフェスティバルの時期にバイロイト祝祭劇場でと思っていた。現実問題としてチケット入手は難しいだろうし、ドイツには出張で3回行ったけど一度としてコンサートには行けなかった(プラハにも出張で3回行って、1度だけコンサートに行けました)。

「トリスタンとイゾルデ」公演を見るためにドイツにまでは行けなかったけれど、昨年日本国内で、日本人キャストによる公演を見る事が出来ました。オーケストラもキャストも演奏自体はまあまあ可もなく不可もなくといったところだったかもしれませんが、フィナーレのイゾルデ愛の死の場面では良い年をしたオジサンが臆面もなく涙ボロボロ、感動しました。長丁場の舞台を歌い続け演じ続けてきた最後に見事に愛の死を歌いきったイゾルデにブブブラ~ヴァァァァだし、この作品を書いたワーグナーにブブブラ~ヴォォォォです。

この時はトリスタン役の歌手が体を痛めて本番の舞台にドクターストップがかかりました。通常のオペラなら電話一本で簡単に代役を見つける事ができますが、日本人でトリスタン役を歌える歌手は数人しかいないということで代役が立てられず、体を痛めて動けないものの喉は無傷なので歌う事には問題がない、ということで、トリスタン役の歌手は舞台上に椅子を置いて座って歌い、役者がトリスタンの動きを演ずる、という見ようと思っても見れないハプニングがありました(開演前に主催者から説明がありました)。

「トリスタンとイゾルデ」の中からお奨めの曲を一曲上げろと言われれば、誰しもがフィナーレの「イゾルデの愛の死」を挙げるでしょう。さすがにこの曲を自分で歌おうとは思わないし、私が知らないだけかもしれませんが、カウンターテナーを含めて男声が「イゾルデの愛の死」を歌ったところを聞いたことはありません。しかし同様の旋律でイゾルデとトリスタンの延々と続く「愛の二重唱」もあります。こちらの「愛の二重唱」は相手にも恵まれれば是非にも歌ってみたいとは思いますが、音域的に無理だと思うし、ピアノ伴奏で歌うよりは、聴くだけで満足しているほうが良いと納得しています。

機会があればバイロイトで見てみたいとは思っているし、日本人キャストによる国内公演であっても、見る機会があれば何度でも見てみたい曲です。いきなり全曲を見るなり聞くなりするのはハードルが高いので、抜粋である「前奏曲と愛の死」だけでも是非聴いて欲しいものです。歌無しのオーケストラのみの「前奏曲と愛の死」の方が録音にしろ演奏機会にしろ多いと思いますが、是非歌付きのものを聴いてください。最近はインターネットの動画サイトでちょっと手間をかけるだけで実質ゼロコストで見る事が出来ます、良い時代になったものだとオジサンはつくづく思うのであります。

兎にも角にも35年ぐらい持ち続けてきた、死ぬまでに「トリスタンとイゾルデ」公演を生で見る、という夢をかなえた2013年ではありました。