歌を唄わなくなって一年近くになろうろしています。とは言え携帯音楽プレーヤーに登録している楽曲の90%以上は未だに声楽曲ですね。適当にブラインドで選曲して聴いていますので、現在でも声楽曲を聞くことが多いです。ということでレイナルド・アーンの歌曲アルバムを聴いて見ました。これまでに何度も聞いてはいるのですが、これまで聞いた時にはあまり印象に残らなかったのに、今日は胸の奥に染み透って来た曲がありました。それが「La Chère Blessure」です。インターネットの翻訳ソフトを使えば「親愛なる傷」という様な意味のタイトルです。
イタリア系のアリアや歌曲は曲の中でのメリハリがはっきりしていて、クライマックスに向かって盛り上がって弾けて終曲に向かうという流れがはっきりしている傾向にあると思います。ドイツ歌曲やドイツオペラのアリアにしても、やはりイタリア物とは違うといっても、クライマックスに向かって盛り上がり弾けて終曲に向かうという流れは、例えば機能和声の輪郭の中で十分に予測できるものと思います。
それに対して、アーンの歌曲ですが、アーンの場合はロマン派音楽の範疇からは逸脱することなく、機能和声が開拓した芳醇な土壌を最大限生かして音楽表現を追求したとも言えると思います。それでもその時点よりも以前の時制=過去の音楽と、これから先に現れてくるだろう新しい世界の音楽=現代音楽の予感を感じつつも、過去の音楽の枠組みの中に踏みとどまりつつ、歌詞の言葉を丁寧に重ねていくといつの間にか歌としてのクライマックスに突入して魂を揺さぶられている、そんなイメージを持たざるを得ないのがこの曲の魅力です。
ペトルッチ(IMSLP)に楽譜は公開されています。ところが「梅が丘歌曲会館」にはラインナップされておらず、詩の意味は今のところ不明です。詩の内容を把握したところで改めて紹介しようと思いますが、フランス歌曲あるいはシャンソンが言葉を大切にして歌うというよりも語ることに重きを置いているような印象を持っていますが、そのような正にフランス歌曲の典型とも言うべき語りに重きを置きつつ、気が付くと歌唱のクライマックスに誘われている、という意味では最右翼に位置する曲と思います。インターネット上の動画サイトで検索したところ、音源は見つかりませんでした。ということはアーンの歌曲を収録したCDを購入して聴いていただくしかないのかもしれません。
マイナーなフランス歌曲の世界で、更には作曲家の作品としておあまり人気がない曲ともなると、日本国内のコンサートやリサイタルで演奏される機会はほとんどないのかも知れません。それでも、少しでも多くの方に聞いて見てほしいと思う作品です。