弦楽器に限らず管楽器等でも、楽器が鳴るとか鳴らないとか言いますよね。具体的にはどういうことなのでしょうか?改めて言うまでもなく、楽器は全て何らかの素材から作られています。一本の弦楽器の殆どは木によって作られています。管楽器は一部を除いて一本の楽器の殆どは金属で作られていると言って良いでしょう。
音とは媒体の振動です。空気中での音の伝わる速度は一秒間に約340mということは多くの人が知っているでしょう。此処で注意しておいて頂きたいのは、空気中での音の伝達は媒体である空気の縦波(粗密波)という一つの様式でしか伝わらない、と言うことです。一方楽器を形作っている素材=固体の中では、音は空気中と同じような縦波(粗密波)以外に、素材=媒体が伝達方向と垂直に振動する横波も存在するそうです。更に表面だけを伝わる表面波という伝わり方もあるそうです。何れにしても素材=固体中でも最も早く伝わるのは縦波(粗密波)だそうで、それ以外の振動モードでの音速は縦波(粗密波)の音速の半分以下だそうです。それでも空気中の音速よりはるかに速いそうです。
と言うことは、弦楽器で弓毛が弦を擦って発生した音は、聞き手の耳に届く前に弦や駒を通じてボディに伝わり、楽器全体が音源となっている様に聞き手には聞こえることになります。管楽器の場合はマウスピース(フルートではリッププレートのエッジプレート)で発生した音は、直接音が聞き手に届く前に楽器(固体)中を伝わって楽器全体が振動することに鳴る訳です。ここまでは問題ありません。次に楽器の音量の指向性を考えます。楽器全体は振動しています。そうすると楽器の表面積が広い向きにより音量が大きく聞こえるはずです。弦楽器の場合は概ねこの理解で間違いないと思います。表板の方向に最も音が飛びますので。
管楽器の場合は、マウスピースの反対側に大きく口を開けている、「ベル」と言われる開口部が向いている方向に最も音量が大きいと思います。これは、楽器全体が同時に振動しているとしても音のエネルギーとしては空気の振動として伝わる最も大きいということです。マウスピース部分で「プー」と音が発生した瞬間に、楽器の素材=固体中を経由して「ベル」の先端部まで振動は伝わります。振動しているベルの先端部分の素材=固体の振動も空気を振動させます。従ってマウスピースで「プー」と音を鳴らした瞬間にマウスピース部分からだけでなく、楽器全体から音が鳴る訳です。よろしいでしょうか? 但し楽器の素材=固体が空気に与える振動による音量は小さいため、マウスピースで発生した空気の振動が楽器の管体の中で増幅されて聞き手に届く直接音の方が音量的には大きくなります。
特に金管楽器は、木管楽器に比べて効率が良い(管の広がりが指数関数曲線に近い)ので、音量的に大きくなります。ところが弦楽器での弦の振動が空気に与えられる縦波(粗密波)のエネルギーは小さいため、ボディに伝達して楽器全体から鳴らす必要がある訳です。これがオーケストラで管楽器はパート当たり一人が当たり前なのに、弦楽器は一パートを十数人で弾く必要がある理由です。
ともあれ、管楽器の場合はマウスピースで発生した空気の振動だけが音源ではなく、楽器全体が音源です。そして素材によって固体中を伝わる速度は変わります。だから楽器の素材が変われば何となく音色が変わることも納得できます。横波モードとか表面波という振動伝達モードもあるので、素材だけでなく、メッキやラッカー処理等によっても音色が変わる(気がする)のも納得です。
とまあ、皆さんの期待した内容とは異なったかもしれませんが、楽器の鳴りについて私なりにツラツラ考えた内容です。さて、フルートはどうなんでしょう? フルートの発音原理に関してはいくつかの説がある様ですが、私なりに納得しやすいのはカルマン渦説です。
私の先生はリッププレート部で息が二つに分かれて、50%しか息が活かせないという様な主旨のことを言っている様に私には思えます。どうなんでしょう?常に50%:50%ではなく、ある程度の範囲でリッププレート部から音として前方に飛んでいく息と、管体方向に進む息の配分はコントロールできるような気もするのですが。
いずれにせよリッププレートのエッジプレート部で発生したカルマン渦の周波数が音としてリッププレート前方と管体方向に2分された結果、管体方向に進んだ息がトーンホールの指使いによって波長を制限することで音程を吹き分けています。管体側で作られた音程がリッププレートから前方方向に進む音にも音程を制限している、と言うことはあってもおかしくないと思います。むしろ管体側で制限されている音程とは異なる音程の音がリッププレート前方に飛ぶ方が説明しにくいと思います。
そうすると、おそらく他の楽器に比べるとフルートは楽器の素材=固体がその一本の楽器の音色に影響する度合いは、他の管楽器に比べて半分程度ではないか(半分は管体方向に行かずに直接リッププレートから前に飛んでいく)と思う訳です。これが今回の結論です。洋銀製かそうでないか、は判る気もしますが、銀製以上になると、木製か金属製かを含めて聞き分ける自信はありません。楽器の素材よりも演奏者の技術や嗜好の方が音色に対する影響は大きい様に思います。