迷建築「ノアの箱家」の迷建築ぶりを記録しておくため、9月2日付けの「ノアの箱家」⑭の続きを書いておこう。
何だかんだ言ってるうちに建築確認申請も無事終了。
だが、業者決定段階でまたもやパニックに陥ることになった。考えていた業者の見積もりが一式見積もりのオンパレード、よく内容が分からなかったのだ。
樫田は田舎なので、それが当たり前の地域、見積書さえないこともある。しかもいったん「あんたに頼むわ。」と言ったら、はっきりした金額は施主には分からないまま工事終了することもある。最後に大工から提示された金額をそのまま払うということが慣習的に行われていた。
大工は「この人やったらこれぐらい請求しよか」
施主は「この大工やったら、言うこと聞こか」
これは、相手への値踏みと信用のみで成り立っているという世界としか言いようがない。
大工から提示された金額が果たして工事の内容・質に見合うものなのか、素人にはにわかに判断付きかねることが多いが、時にはぎょっとする事例を見聞きした。
下水道管工事10メートル(塩ビパイプを土に埋める)が75万円。工事関係者と施主で支払いをめぐって大きなもめごとになり、「消費者相談に行くぞ」と文句を言ったら、25万円に値下がり。
アトリエ40万強が文句を言ったら20万強へ。
物置16万円が文句を言ったら7万円に。
これでは最初の提示金額の方がめちゃくちゃだったのではないのかと思えてきてしまうのだが、そういう地域がここ樫田なのである。
おまけに周囲の人間達は「大工に失礼やし、仕事しにくなるから工事監理者は断り。あんたも現場をうろうろして覗きに行ってばっかりしたら嫌がられるで。いったん任せたら何も言わんと任せとき。」
これでは施主は丸裸で運命を大工に委ねる以外ない。博打そのもの。
郷に入りても郷に従えない。
地域の大工から貰った一式見積もりを見てものすごく不安になった。
この大工は、人のいい大工ではある。解体現場へ連れて行ってくれて廃資材ゲットに力を貸してくれてもいた。
だが、果たして本当にこれでいいのか?
私は経済的に追い詰められているので、万が一の場合はもう取り返しが付かなくなってしまう。
そこへ地盤調査結果が出た。
とんでもない土地であった。山を崩して開いた土地で、その南東隅はどうやら盛り土のようであった。
不同沈下の恐れ、軟弱地盤。
地盤改良や補強など、何らかの対応策の必要性が出てきたのである。
しかも、私が考えていた大工は、基礎は出来ても地盤改良には技術的に対応出来ないことが判明。
これについては、他の専門業者に頼むしかないのである。
これでは資金繰りがうまくいかない!!
パニックになった。
眠れぬ夜が何日かあって、はたと思い出したのが兄ちゃん(幼馴染みの大工)のことだった。
こちらの経済事情や地盤の状況を説明したら、うまい具合に基礎専門業者と仕事をしていた。その業者は地盤調査会社もしており、地盤改良も出来る。
兄ちゃんの紹介で、その業者は格安工事を二つ返事で引受けてくれることになった。
この業者選定と見積もりの件でも、イエンゴのO氏はかなり突っ込んだアドバイスを下さった。
これは全くの好意、無料相談である。木造さんからコンテナ様に相手を乗り換えた私は、O氏にとっては空振りクライアントにも関わらず親身になって下さったことには今も感謝している。
素人が欲しがっているのは、家作りや契約の前に無料で気楽に相談できる専門知識を持ったこういった相手である。
クライアントでも何でもない相手に無料で相談にのるということは、時間とエネルギーの消耗でしかないから、親身になってくれる設計士はそうそういるとは思えない。素人にとって設計事務所は高級イメージも先行し、おまけにそこに発注するかどうかもわからない状況ならば、敷居はたいへん高く相談しにくい。
ゆえに一人で苦しみ、ドツボにはまり込んでいってしまうことになりがちだ。
だからこそ、一般に広く窓口を開放している相談所の必要性がある。
ただ、それにも限界があるので、設計士と不動産屋が家族や親しい友人にいるというのが一番だと今も思う。ちなみに沖縄には、イエンゴのような無料相談窓口はないと聞いた。
アトリエ・ノアの本庄さんや玉城さんのアドバイスもO氏と同じような内容だった。
「たとえ幼な馴染みであったとしても事細かな見積もりを取ること。また、値段の安さだけに目を奪われるのではなく、工事の内容・質がどういうものかが肝心である。」
それらの意見は、兄ちゃんに正直に伝えた。
すると、兄ちゃんや兄ちゃんの紹介してくれた電気屋・水道屋は、相当細かいところまで見積もりを出してくれた。基礎屋も含めてこれらの業者達はかなりの安さで仕事を引受けてくれたのが経済的にピンチの私にとっては、幸いだった。
兄ちゃんについては、材料は仕入れ値で提供してくれた。(工務店は半額~7割の値段で仕入れて定価で施主に提供しているのが普通らしい)
どの業者も契約書なし。
これは何かあった場合はこじれる原因になるので、お勧めできないという人も多いだろう。確かにそういう不安はあったが、もう契約書の内容をああだこうだ言って検討し、時間を先延ばしできるような状態ではなかった。
私の場合、税金や借金の信用上、家屋表題登記のタイムリミットが11月と迫っていたのである。
とにかく大急ぎで表題登記できる状態にまで工事をしてしまわなければならなかった。
かくして工事は始まった。
そして、状況はブログの一番最初のページに至るのである。