樫田地区は全戸合併浄化槽に!!
5月に村の自治会回覧板を見て、KOKKOは「苔KOKKO~!!」と鳴き叫んだ。鶏冠は突っ立っていた。
「樫田地区は、平成28年度までに全戸合併浄化槽に移行する。」との市の方針が提示され、樫田の5集落も概ねそれで合意したので、各集落の寄り合いで“年寄り”(自治会役員を樫田では今もそう呼ぶ)から近日中に説明会を持ってもらうとの内容だった。
これは晴天の霹靂だった。
おい、おい、あたしんちは、コンポストトイレだぜよ~!!
う○○は、自然に返してるんだぜよ~!!
どうして使えるものをお金を使ってまで棄てなきゃならないんだぜよ~!!
鶏冠に来てしまって、高知弁で鳴き始める始末だった。
建築確認申請の頃の苦労が蘇って、KOKKOは悔しさで一杯になった。
アトリエNOAの設計士たちは、樫田が合併浄化槽の義務地域でないことに驚き、環境のことを考えて合併浄化槽を私に勧めたが、どうしても納得しきれず、安価で実質上の効果があって、且つ合法的なものを追求し続けた。
建築指導課が認めるかどうか分からないけれど、完了検査でコンポストトイレ(一応、建築基準法上は“汲み取りトイレ”扱い)を見てもらおう、生活排水設備の傾斜土浄化槽「花水土」も見てもらおう、「もしも完了検査にパスしなければ、その時考えましょう」との本庄さんの言葉に励まされて、祈るような気持ちで突き進んできた道だったのに・・・。
晴れて完了検査済証を手にしたときの爽快感と感激、あれは、幻に過ぎなかったのか?
苔KOKKO~!!
苔っ、苔KOKKO~!!
苔っ、苔っ、苔~っKOKKO~!!
村じゅうに響き渡るような甲高い声で、KOKKOはひたすら鳴き続けた。
あれだけの労力とあれだけの時間を(そしてお金も!)かけて創りあげたものが完成してすぐに撤去(合併浄化槽を設置するとしたなら、傾斜土浄化槽は破壊撤去、そこにパイプを通すことになる)しなければならないだけでなく、あれだけの頑丈な基礎(厚さ30cm、外周近辺の厚み50cm)までもぶち壊さなければ簡易水洗トイレは設置できないのだ!! お気に入りの廃材デッキも壊さなければならなくなる!!
KOKKOはひたすら、狂ったように鳴き続けた。
しかし、村のある人が言った。
「強制なんて出来ないはずだ。浄化槽を設置するスペースのない家が出灰地区には数件ある。樫田には、崖っぷちに建っている家もあるわけだし、経済事情から見ても、できない家は出てくるはずだ。」
そうか、そうだったのか。いつだったか市の役人が「排水設備を見せて下さい」と村の家を一軒一軒見て回っていたことがあったっけ。あれは、設置できる家と出来ない家の振り分けをしていたのだろうか・・・。
じゃあ、市としては、「ノアの箱家」をどう判断していたのだろう?
しかし、今さら、何だ!! 何だ、何だ、何だ~!!
「く」と「そ」と「っ」と「た」と「れ」と「が~!」
最初から「合併浄化槽義務化が近づいているので、それで建築して下さい。」と建築確認申請の時に言っとくべきじゃなかったのか!!
土地改良区の人からも実行組合の人からも、そんな話は聞いていなかった。これは理不尽だ!!
私の経済的損失をどうしてくれるんだ!!
私の夢幻をどうしてくれるんだ!!
これって、糠喜びじゃねぇか!! 落とし前付けてもらおうじゃねぇか!!
とうとう、KOKKOはヤクザになった。
14日・15日・16日と三日連続で行政側の説明会が樫田支所であるという。
よっしゃ!! 出席して「苔~っKOKKO~っ!!」と鶏冠振り回して、突付きまくってやる!!
初めはいきり立つKOKKOだったが、ふと「これも神の意思」との声が耳元に聞こえてきた・・・。
「・・・・・。」
KOKKOは、あっさりとにわかクリスチャンになってしまった。
さて、今夜、市の下水道課役人3名(内、1名は知っている顔)が出席した上での説明会があった。
地域集中浄化設備か合併浄化槽かで村人たちは大もめしていた。怒鳴りあうシーンまで見られ、はらはらした。
けれども、ここは因習の深い田舎だ、お上に最後の最後まで強烈に楯突き通すことはないはず、それに横の目を意識するから、集団からは外れない・・・最終的には合併浄化槽で合意するはずだと、KOKKOは冷静に村人たちの意見を聞いていた。
はい、案の定、そうなった。
しかし、このまますんなり決まってしまうのはいけない、別の選択肢があることを村人に明示しておかなければ・・・。
挙手し、意見を言った。
「私は、去年引越ししてきたばかりで、樫田がそんなに古くから合併浄化槽移行を追求し、決まっていたとは知りませんでした。知らずに、バイオトイレを設置しました。
コンテナもバイオトイレも傾斜土浄化槽も高槻市では初めてのケースということで、建築確認申請段階ではいろいろとありました。完了検査にはお偉いさんまで見に来られました。
トイレの糞便は夏場で2~3日で形がなくなります。冬場で10日ほどで土になります。それを花壇に使っています。生活排水は、埼玉県で行政的に導入されている傾斜土浄化槽ですが、私はこれらを廃棄してまで合併浄化槽を設置し、糞便を水に流さなければならないのでしょうか?」
役人が言った。
「その話は聞いています。生活排水もちゃんと浄化されておられるのですね? だったら、そこの家は、この計画には参加しません。」
鶏冠が急速に柔らかくなっていくのが自分でも分かった。
役人の意見を聞いて、村人たちの間に驚きの声が上がった。
「合併浄化槽の設置は、拒否しようと思えばできるのですか? 今まで通り、汲み取りを依頼すれば、してもらえるのですか?」
何しろ、合併浄化槽は各家庭にとって大変な負担となる。
敷地の地形によっては、工事費が150万円にもなってしまうからだ。
それに、月々の受益者負担金額も相当なものである。
管理料7000円+電気代1500円。
合併浄化槽のどこがエコやねん!!
心の中で叫んでいたが、ここは村の新参者。あまり理屈っぽい自論の展開はやめとこう。
何しろ、今後は「あの家だけ何でお金出さんでええねん。ずるいわ。」という目で見られなくもないのだから。
というわけで、村の年寄りには丁重に「お疲れ様です。」と挨拶をして帰宅、これを書いている。
因習の深い樫田というムラで生きることは、時にしんどいものがある。
けれども、私は自分の意思を大切に生きていきたい。
それにしても思う。
「合法的に建築しておいてよかったなぁ」と。
これがたとえ確信的選択であったとしても、違法建築だったなら・・・。
「村八分もんだぜよ。」と竜馬さんも言っている。