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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

言葉の備忘録45  茨木のり子『倚りかからず』

2010年12月27日 | 言葉の備忘録

『茨木のり子の家』(平凡社)は素敵な写真集だ。

タイトル通り、詩人の茨木のり子さんの、今は主をなくした住居が撮影されている。

ページをめくっていくと、自分が訪問客になったようだ。

温かみのある、居心地のよさそうな居間。

夫と共有だったという書斎。

庭のみかんの木。

どこにも、どんなものにも、詩人の存在を思わせる何かがある。

数編の詩が挿入されている。

声に出して読んでみる。

詩人をより近くに感じる。



  倚りかからず

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある

倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

――茨木のり子『倚りかからず』


2010年 テレビは何を映してきたか(12月編)

2010年12月27日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(チョロQコレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”。

いよいよ最終回の12月です。


2010年 テレビは何を映してきたか(12月編)

「坂の上の雲」NHK

 昨夜からNHKで「坂の上の雲」第2部の放送が始まった。日清戦争までを描いていた第1部に続くもので、日英同盟の締結から日露戦争に至るまでが主軸となる。
 これに先立って第1部の再放送が先週末まで行われていた。放送から約1年が経過しているので、視聴者の記憶を呼び覚ますことが必要だったのだ。主人公たちの少年期・青年期に当たる第1回から5回までを見直してみて、あらためてこのドラマの質の高さを実感した。
 たとえば日本にとっての初の近代戦である日清戦争。海軍の秋山真之は巡洋艦の上で壮絶な戦いを体験する。その一方で、従軍記者・正岡子規は戦地での庶民の惨状に衝撃を受けるのだ。国家や組織という面と、市民や個人という面の両方から、この時代を見つめている。つまり“複眼の思想”が備わっているのだ。
 また、役者たちもいい。中でも先日「週刊現代」の特集「決定!日本のいい俳優ベスト20」で堂々の1位に選ばれた香川照之の子規が絶品である。創作への情熱と病み衰える体。その引き裂かれるような思いを、静かな熱狂とでもいうべき演技で表現しているのだ。“何にでもなれる役者”という俳優にとって最高の評価は今、彼のためにある。
 第2部のクライマックスのひとつが、次回放送される正岡子規の死だ。これを香川がどう演じるのか。今から楽しみだ。
(2010.12.06)


「報道ドキュメンタリ宣言」テレビ朝日

 テレビ朝日「報道ドキュメンタリ宣言」が開始されたのは2008年秋。月曜19時というゴールデンタイムの1時間だった。しかし半年で撤退し、現在は土曜17時の30分枠に縮小されている。だが、後退したことで逆に視聴率の呪縛から逃れたともいえる。テーマをきっちり掘り下げることが可能になったはずだが、果たしてどうなのか。
 先週は「緊急取材・天皇陵の真実」。これまで天皇陵といわれてきた古墳と、最近の発見や研究成果が合致しないという話だ。たとえば奈良の牽牛子塚(けんごしづか)古墳は女帝・斉明天皇の墓であることが確実視されている。しかし、宮内庁が指定した斉明天皇陵は別に存在するのだ。
 番組は作家・井沢元彦氏を案内役に古墳を見て回る。仁徳天皇陵とされる有名な前方後円墳も別人のものである可能性が高い。また雄略天皇陵は異なる二つの古墳を土砂でつなぎ合わせたもので、番組は井沢氏に「ねつ造」とまで言わせていた。
 百年以上も前に宮内庁が行った「天皇陵指定」が大きく揺らいでいるのは事実だ。しかしこの番組が「真実」とか「真相」と自ら言うほどの取材とは思えない。自分たちで検証したわけではなく、井沢氏におんぶに抱っこ。いわば井沢史観を拝聴しているに過ぎないからだ。ゴールデンでないことを利用して、もっと突っ込んだ中身にして欲しい。
(2010.12.13)


「医龍3」フジテレビ

 坂口憲二が天才外科医を演じる「医龍3」(フジテレビ)が終了した。連続ドラマの最終回は1本のドラマとしての起承転結はもちろん、物語全体の「結」となるように配慮して作る必要がある。先週の最終回はそれを見事に達成していた。
 ドラマの物語展開で最も重要なのが「葛藤」だ。主人公たちの行く手を阻む敵やトラブルであり、その克服自体が結末ともなる。林宏司(「ハゲタカ」も担当)のオリジナル脚本はまず2つの高難度手術を同時に行うという第1の葛藤を用意する。患者は元臨床工学技士・渡辺いっけいの妻と世界的ピアニスト。すかさず学長である岸部一徳の横やりが入るが、坂口はライバルだった外科医の応援を得て切り抜ける。
 次に渡辺の妻の手術中に、彼の娘が急患として運び込まれる。しかも1台しかない人工心肺を母娘が共有して使うという非常事態だ。これが第2の葛藤。ここでは坂口と対立してきた遠藤憲一が自分の命を縮めながら援助する。また渡辺自身も技士として復活を果たす。
 同時進行で行われた3つの手術は成功。岸部は学長の座を追われ、遠藤は亡くなり、チームの面々は成長を遂げ、そして坂口は再び旅に出る。複数の同時手術というシリーズ最大の見せ場とストーリー全体の決着。「チーム医療」の最前線と医師たちの壮絶な闘いぶりに納得の終幕だった。
(2010.12.20)


2010年を総括する

 今年のテレビ界をひと言で表すなら<NHKの独り勝ち>だ。NHKと民放との<格差拡大>と言ってもいい。
まず、朝ドラ「ゲゲゲの女房」が国民的人気番組となった。女性視聴者の録画率を高めた「セカンドバージン」など話題作にも事欠かない。「坂の上の雲」のような本格的大作もある。またドラマ以外でもキャンペーン報道「無縁社会」や「ハーバード白熱教室」などNHKならではの取り組みが目立った。
 一方の民放。ドラマでは平均視聴率20%どころか15%に届くものも少なかった。特に制作側がターゲットとしてきた20代視聴者のドラマ離れが顕著だ。中には日本テレビ「MOTHER」やテレビ東京「モリのアサガオ」、フジ「フリーター、家を買う」など意欲作もあるが、全体としては元気がなかった。制作費ウンヌンより、制作力の低下がほの見えるのが心配。
 バラエティーは<池上彰の独り勝ち>状態だ。テレビ朝日「そうだったのか!池上彰の学べるニュース」をはじめ、今や日本人はこの人を通じて世の中を知ろうとしているが、ますます自分の頭で考えることから遠ざかるようで怖い。
 今年は「尖閣ビデオ流出」、「米国機密漏えい」などネットの存在が大きくクローズアップされた。テレビも歌舞伎役者のケンカや熟女タレントの不倫騒動なんぞに、いつまでもかまけてばかりいられない。
(2010.12.27)


*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
 文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。

千歳「柳ばし」の嬉しい夕食

2010年12月26日 | 日々雑感

生放送が終わり、札幌から空港へと向かう途中で、千歳の「柳ばし」に寄る。

6年間、千歳の大学に単身赴任していた時の“マイ台所”だ。

ついに最後まで電気釜も持たずに暮らせたのは、このお店があったからこそ。

今日も暖簾をくぐった途端、思わず「ただいま~」と言ってしまった(笑)。



お母さんが用意してくれたのは、帆立とアスパラと椎茸のバターいため、ミネストローネ、そして黒豆ご飯だ。

ヘルシーで美味い。

そうそう。つい先日、創刊されたばかりの雑誌『サレド』に載った、「柳ばし」の紹介記事を見せていただいた。



いいねえ、いい写真だなあ(笑)。

お父さんとお母さんの雰囲気が伝わってくる。

今日も、ごちそうさまでした。

HTB『ほんわかどようび』最終回

2010年12月26日 | テレビ・ラジオ・メディア

25日のHTB『ほんわかどようび』は最終回だった。

4月に、それまで放送していた『スキップ』に代わる形でスタートしてから9ヶ月。

レギュラー番組が終了する場合は、どこの局でも、どんな番組でも、それなりの“大人の事情”があるものだ(笑)。



「いつまでもあると思うな、親とレギュラー」(笑)。

これはプロデューサー時代、自分自身やスタッフに、いつも言ってきたこと。

長寿番組はあっても、永遠に続く番組はない。

とはいえ、たとえ短命であっても、そこには番組としての“春夏秋冬”がある。

つまり、その番組なりの“人生”というか、“生涯”を生きたのだ。

作り手にしてみれば、残念だったり、寂しかったりもするが、何かしら得たものを大事にしながら、前へ進むしかない。

悔しかったら、そう簡単に消えない、いや消されない番組を作るしかない。

それが、この業界の掟だ。


最終回のゲストは、日本ハム・ファイターズの建山選手。



もうすぐアメリカへと渡り、来期は大リーガー、テキサス・レンジャーズの一員となる。

建山選手の挑戦と同じで、テレビもまた何かが終われば、何かが始まるはず。



スタッフ、出演者の皆さん、本当におつかれさまでした!


2010年 テレビは何を映してきたか(11月編)

2010年12月26日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(チョロQコレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”。

今日は11月です。


2010年 テレビは何を映してきたか(11月編)


「霊能力者 小田霧響子の嘘」テレビ朝日

 この春まで、日曜の夜11時半、ニッポン放送で「石原さとみ SAY TOME!」という番組が流れていた。5年も続いていたのに突然終了で残念。何より石原の素のトークが良かった。ほとんど気取らず、いつもケラケラ笑っていたのが印象的だ。
 そんな石原が日曜夜23時「霊能力者 小田霧響子の嘘」(テレビ朝日)に主演している。本当は霊能力なんて無いのに、「オカルトーク」なる番組まで持つ人気霊能力タレントの役だ。ただ、霊能力は嘘だけど観察力や洞察力は人並み以上で、心霊現象がらみの事件を見事に解決してしまう。
 物語自体は実にたわいもないのだが、この秋の新ドラマの中で唯一といっていいコメディである点がミソだ。そう、コメディエンヌとしての石原さとみが全開なのである。あのラジオ番組を彷彿とさせる弾け方をしている。
 毎回、「オカルトーク」でのキメの場面がある。「さあ、皆さん。除霊の時間です!」で始まり、「成仏されました」で締めるのだが、これがもう「水戸黄門」の印籠に匹敵する大見栄なのだ。しかもニセ霊能力者だから必ずズッコケる。このシーンだけでも、見る価値は十分にあるはすだ。
 元々演技力には定評がある石原。シリアス物とコメディを使い分けて支持層を広げる戦略は悪くない。同世代のライバル、綾瀬はるかを猛追するためにも、ね。
(2010.11.01)


「モリのアサガオ」テレビ東京

 「モリのアサガオ」(テレビ東京)はしんどいドラマだ。何しろテーマが死刑囚であり、死刑制度なのだから当然かもしれない。この奇妙な題名も、死刑執行が午前中に済んでしまうため、死刑囚を朝早くから昼までの短い時間に咲き終わるアサガオの花に譬えたのだ。そして、モリは死刑囚舎房を指す。
 主人公の及川直樹(伊藤淳史)は凶悪犯ばかりの死刑囚舎房に配属された新人刑務官。彼がそこで出会う死刑囚たちの最後の日々が印象的だ。たとえば、いじめられて自殺した息子の仇討ちで、3人の中学生を殺害した父親(平田満)。「私は死刑になるほど悪いことをしたんでしょうか」と刑務官に問いかける。また無銭飲食をした上で店主親子を殺した男(大倉孝二)は、ようやく遺族に謝罪する気持ちになった途端、刑が執行される。
 死刑囚の内面を知ることで直樹の心は揺れ動く。その揺れる心は、「死刑制度は必要なのか」という視聴者への問いかけでもある。そう。このドラマは「国家が人間の命を奪うこと」の是非を問うているのだ。見ていてしんどいのは当たり前で、視聴率が4%台というのも仕方ないだろう。 
 しかし、国民総裁判員の時代、避けて通れぬ課題であるのは事実。久しぶりに設けた貴重なドラマ枠で、こうした重いテーマにトライしたテレビ東京を評価したい。
(2010.11.08)


「秘密」テレビ朝日

 テレビ朝日のドラマ「秘密」に期待していた。何しろ主演が芸達者の志田未来である。事故で亡くなった母・直子(石田ひかり)の意識を持つ16歳の娘・藻奈美をどう演じるかが楽しみだった。 期待は半分達成されている。見た目は女子高生でありながら、同級生や教師(本仮屋ユイカ)にとっては、まるで大人の女性のように思える奇妙な存在感がよく出ている。
 ドラマ全体としても、必死で藻奈美として生きようとする直子の苦悩や、直子の夫であり藻奈美の父である平介(佐々木蔵之介)の混乱する様子が丁寧に描かれていて好感がもてる。また、直子が死亡したバス事故の運転手一家の見せ方も手を抜いていない。
 それでも視聴者にとっては2つの不満が残る。一つは、とにかく物語の進行がスローモーなこと。広末涼子が藻奈美を演じた映画版の長さは約2時間。映像化するならそれくらいで十分なストーリーを無理に連ドラ化しているから間延び感は否めず、飽きてくるのだ。
 もう一つは時代性の欠如である。原作は1998年の出版だが、ドラマは2007年の設定で始まり、現在は08年の話だ。しかし時代背景の描写はほとんどない。さらに2010年の今、このドラマを視聴者が見せられている意味もよく分からないままだ。健闘する志田未来のためにも、ぜひ後半で巻き返して欲しい。
(2010.11.15)


「祝女(しゅくじょ)」NHK

 最近のスマッシュヒットを挙げるなら、断然、木曜夜のNHK「祝女」である。「淑女」と書くところを変換ミスしたようなタイトルは、女性のためのガールズ番組やレディース番組を思わせる。だが、これは男性視聴者も必見の<笑える“女ごころ”講座>なのだ。
 中身は「女の本音」をテーマとした、読み切りのショート・コント集。放送が22時55分からということもあり、結構キレがいい。中でも出色なのが「夜11時の女・宇佐美怜」だ。夜の酒場でワケありカップルが話しこんでいる。男は妻と別れることもなく女との関係を引っ張りたいようだ。と、そこに登場する宇佐美怜(ともさかりえ)。何人もの弁護士を従えて、男に「今の言葉、彼らの前で言ってごらん」と迫る。
 YOUが毒舌クラブ歌手を演じるのは「MURMUR LIVE」。ムーディーな伴奏をバックに彼女はゆっくり語り出す。「レストランのレディースデイって、あるじゃない?最近気づいたんだけど、あれって・・」。女たちの日常を、女ならではの針でチクリと刺すのが小気味いい。
 この番組、女性視聴者は「ある、ある」と納得だろうし、男たちは「そうなんだあ」と新発見・再認識の連続のはず。笑いの中に、女性が女性を見つめる客観的な眼、つまり「批評精神」があることもスマッシュヒットの理由である。
(2010.11.22)


「料理の怪人」テレビ東京

 料理バラエティ番組は、これまで料理人に様々な呼称を与えてきた。名人、達人、神様、匠、マエストロ等々。しかし、さすがに“怪人”はいかがなものか。怪人の作った料理を食べたいと思う人は少ないはずだ。先週、テレビ東京「料理の怪人」は、2.4%という驚異的な低視聴率を叩き出した。
 「奇跡のコラボラーメン」と題して登場したのは、塩ラーメンを専門とする店主夫妻だ。しかしラーメン自体には特徴がない。で、コラボの実体とは、夫が派手な湯切りをして、その熱湯を浴びないよう妻がクラシックバレーもどきの動きで逃げ回るというものだった。
 また「バブリーな明石焼」は、泡だてた卵白に卵黄とタコとはんぺんを混ぜ合わせた異色作。普通のサイズ20個分のボリュームは笑えるが、これで「巨大な泡の蛸怪人」と言われても困る。さらに「劇場型やきとり怪人」なる焼鳥屋も出てきたが、これは主人の作業が客から見える構造の店を作ったに過ぎない。いずれも料理の変則技やサイドストーリーであって、料理の本質とは無関係だ。
 唯一感心したのは「撹拌のどごし怪人」として紹介された豆腐屋さん。香り・のどごし・滑らかさへのこだわりは、怪しいどころか、ごく真っ当な職人技なのだ。無理筋の“怪人”より、当たり前のことを当たり前以上に大切にする料理人と、その料理が見たい。
(2010.11.29)

年内ラストの「トークDE北海道」&「イチオシ!」

2010年12月25日 | テレビ・ラジオ・メディア

24日午前中、UHB「のりゆきのトークDE北海道」に生出演した。

特集は「コレを言わなきゃ年越せない!Xmas」。

ゲストは泉アキさんでした。



視聴者から何本もの電話が入り、夫や義父への痛烈な「コレ」を暴露。

リポーター陣が選んだ豪華賞品をゲットしておりました。


午後はHTB「イチオシ!」で同じくコメンテーター。

こちらの特集は「Xmasを満喫しながら学べる!年間ニュース」だ。

私のお隣には、金融ジャーナリストの川口一晃さん。



私がニュースの中から選んだのは「尖閣ビデオのネット流出」だった。

これの舞台が「ユーチューブ」で、小沢一郎は「ニコニコ動画」で所信表明を行い、「ウイキリークス」が機密文書を次々と公開していった。

ネットが社会を揺り動かすような“働き”を見せたという意味で、尖閣ビデオの件はやはり画期的だったと思うのだ。

また、「来年、注目の人物」としては、女優の満島ひかりさんを推した。

あのエネルギーの塊みたいな演技は、久々の逸材だと思う。



2つの生番組の後、夜は忘年会。

25日(土)は昼12時からHTB「ほんわかどようび」に出演です。


2010年 テレビは何を映してきたか(10月編)

2010年12月25日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(チョロQコレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”を実施中です。

今日は、10月。


2010年 テレビは何を映してきたか(10月編)


「てっぱん」NHK

 NHK朝ドラ「てっぱん」が始まって1週間が過ぎた。半年間の長丁場を「起承転結」で考えるとまさに起の先っぽ。観客を物語に引っ張り込む大事な導入部分だが、今のところ順調だ。
 その理由は3つ。まず尾道のロケーションが効いている。小津安二郎の「東京物語」から大林宣彦監督の尾道三部作までを連想させる渡船、坂道、山上の寺。海と山に挟まれた町の表情が豊かだ。
 次にヒロインの瀧本美織。「出生の秘密」にもあまり動じないヒロインの〝不自然すぎるほどの一直線ぶり〟を自然に演じているのがすごい。一点だけ余計だったのは大阪駅前の人波を見て「お祭りの日に来てしまったんだねえ」なんて言わせてしまったこと。そんな風に言う高3女子は今どきいない。地方の女子高生をバカにしてはいけません。
 また秀逸なのが中村玉緒のナレーションだ。関西弁のとぼけた味はもちろん、登場人物たちの台詞や動きを大事にして語り過ぎないのがいい。新人・瀧本を囲む富司純子や遠藤憲一、安田成美の3人に〝隠し玉〟みたいな中村玉緒が加わって守りは万全だ。
 とはいえ、関西発朝ドラの正念場は少し先。ヒロインが故郷の町を出てお決まりの大阪にやって来てからが問題だ。爽やかな地方ロケの映像もなく、スタジオセットの家と職場で話が展開するようになった時、いかに失速させないか。脚本家チームの腕の見せ所だ。
(2010.10.04)


秋の連続ドラマ

 この秋の連続ドラマにはいくつかの特色がある。まずは警察ドラマのバリエーションともいうべき「お役所モノ」の乱立だ。舞台として、東京地検、京都地検、国税局、会計検査院から刑務所までが並ぶ。善と悪、白と黒の対立構造が明快で、決着感も得やすいのだ。
 2番目は30代女優の競演である。フジ「ギルティ悪魔と契約した女」の菅野美穂33歳。テレ朝「ナサケの女」米倉涼子と、同じくテレ朝「検事鬼島平八郎」の内田有紀が35歳。
日テレ「黄金の豚」篠原涼子37歳。そしてフジ「パーフェクトリポート」の松雪泰子と、同局「医龍3」稲森いずみが堂々の38歳だ。秋はしっとり“大人の季節”というわけではない。彼女たちは視聴率という実績を持っているのだ。
 3番目の注目点は、日曜21時「日曜劇場」と木曜21時「渡る世間は鬼ばかり」、TBSが誇る2つのドラマ枠が狙い撃ちにされたということ。不動産屋としてはともかく、テレビ局としての力にヘタリが見えるTBSを、松雪泰子のフジと、米倉涼子のテレ朝が叩こうというわけだ。
 攻められるTBSは、特に日曜の「獣医ドリトル」が心配。主演の小栗旬は、前述の30代女優たちと違って、主演のヒット作を持っていないからだ。秋は夏場に比べて在宅率が高い。視聴者は居るはずであり、言い訳のきかない戦いが展開される。
(2010.10.18)


「報道特集」TBS

 この秋、TBS「報道特集」の“顔”が、美里美寿々から金平茂紀キャスターへと変わった。その経歴は華々しく、「ニュースコープ」副編集長、ワシントン支局長、「ニュース23」編集長などを歴任。報道局長やアメリカ総局長も務めた。現在は執行役員だから、報道部門だけでなく会社全体の“顔”でもある。
 そんな金平キャスターだが、番組で生かし切っているとは言えないのが現状だ。先日の放送では「チリ落盤事故・救出劇の裏側」と「ジャピーノ問題」を扱っていた。チリ編は救出された炭鉱夫たちへの会社による口止め、つまり情報統制などを取材しており、見応えがあった。
 ただ、伝えたい全てのことをVTRの中で処理しているため、スタジオで金平キャスターが語る余地はほとんどない。また、日本人男性とフィリピン女性の間に生まれた子供(ジャピーノ)の救済活動をしている人物のことは、以前別の番組でも見たことがある。
 逃げた男性を探し出し、子供の認知を促す様子には頭が下がるが、なぜ今、これを報道するのかが不明確だ。金平キャスターも男たちの「不誠実」を嘆くしか言いようがない。単なる進行役なら誰でも同じだ。せっかく起用した自前の大物キャスターをなぜ活用しないのか。十分な時間を与えず、意味のある発言をさせないのはもったいない。
(2010.10.25)


*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
 文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。



年内最後の札幌へ

2010年12月24日 | テレビ・ラジオ・メディア
(羽田空港から見た富士山)


月に一度、札幌での番組出演も、早いもので年内最後だ。

羽田空港のラウンジからは富士山がよく見えた。

新千歳空港の除雪待ちで20分遅れの出発となる。

東京は晴天だったが、札幌は小雨。

気温は零度だ。

今日24日は、午前9時54分からUHB「のりゆきのトークDE北海道」。

午後3時45分からはHTB「イチオシ!」。

それぞれ、生放送のコメンテーターです。

北海道エリアの皆さん、よろしくお願いします。


2010年 テレビは何を映してきたか(9月編)

2010年12月24日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(チョロQコレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”を実施中。

今日は、9月です。


2010年 テレビは何を映してきたか(9月編)


「クイズ☆タレント名鑑」TBS

 日本人ほど“クイズ好き”な民族はいない。基本的に真面目。旺盛な知識欲。どんな問題にも、つい答えようとしてしまう律義さ。正解を知るとちょっと得した気分になるが、元々クイズに限らず、何かを知ることは喜びでもあるのだ。
 しかし、最近は出演タレントに合わせて問題のレベルが低下している。「ネプリーグ」(フジ)などがいい例で、普通の人なら「知っていて当たり前」なことばかりだ。そして、ついに問題自体がほとんど意味のない、答えを考える価値もないクイズが登場した。それがTBS「クイズ☆タレント名鑑」である。
 「タレント名鑑」とは業界御用達の出版物。俳優・タレントの所属事務所、生年月日、代表作の他、身長や靴のサイズなども載っている。彼らが使う衣装や小道具の準備に必要な数字だからだ。
 さて、「クイズ☆タレント名鑑」の出題である。猫ひろしは身長160㌢を超えているか。篠原涼子は「笑っていいとも」にレギュラー出演していたか。つぶやきシローの年齢は41歳から43歳の間か。さらに、品川ヒロシの著書「ドロップ」は百万部以上売れたか。
 はっきり言って、どーでもいい問題であり、視聴者が答えを知りたい内容だとも思えない。作り手にとっては手間と予算の節約かもしれないが、何でもクイズにすればいいってもんじゃない。
(2010.09.06)


「なんでも実況ショー3!衝撃!オンナの裏側SP」テレビ東京

 先週のテレビ東京「火曜エンタテイメント」は「なんでも実況ショー3!衝撃!オンナの裏側SP」。これに愕然とした。
 メイク編は沢田亜矢子などが化粧する姿、化けるプロセスを実況。またエステ編では熊田曜子のへそエステ、芦川よしみのラップエステが実況された。しかし、正直言って美しい光景ではない。むしろ、何か見てはならないものを見せられたような、イヤな気分だった。
 さらに今回の目玉は何と出産である。インリン・オブ・ジョイトイが自分の初産を撮影させたのだ。実況とはいえ、録画だからあくまでも編集された映像であり、また無痛分娩だったため静かな出産風景となった。
 しかし、夜7時半という夕食時の放送だ。分娩室で汗まみれになっている産婦や、取り上げられてまだ血のついたままの新生児を見せる必要があるのか。お目出度いはずの出産なのに、祝福したいと思わせないような不快感。もちろん「出産もM字開脚」などと笑えもしない。やはりショーとしての出産、見世物としての出産に無理があるのだ。
 生命の誕生という厳粛な“現場”に興味本位でカメラを入れ、実況という名の見世物にするなら、死もまたいずれ見世物にしそうで怖い。まさか死刑の実況はやらないだろうな、と心配させるに十分な実況ショーだった。本当に何が望みなんだ?テレビ東京。
(2010.09.13)


「新週刊フジテレビ批評」フジテレビ

 先日、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」が、精神科医・和田秀樹氏の近著「テレビの大罪」(新潮新書)を取り上げていた。
 この本はタイトル通り、徹頭徹尾テレビ批判で成り立っている。「細身女性を賛美するテレビが拒食症を増やす」「過度な医療過誤報道は医療を潰す」「自殺報道が自殺をつくる」等々、厳しい指摘が並ぶ。
 スタジオには和田氏が登場し、「テレビは若い人向けの番組ばかり編成する。大人向けの番組を流した方が良いのに、分かりやすさだけを求めて作っている」などと生批判。番組司会の局アナもコメンテーターも“御拝聴”といった様子だった。
 しかし、ちょっと待ってほしい。テレビが医療過誤を犯罪として報道することで、産婦人科など訴えられるリスクの大きな科の医療崩壊を招いていると和田氏は言うが、そんな単純な話だろうか。また、「いじめ自殺」報道が他の子どもの自殺を誘発するという理由で、事件を伝えないままにしていいのだろうか。
 和田氏の批判は真摯に受け止めるべき点も多いが、複雑な要素で構成されている社会問題を全てテレビ報道の責任に帰するかのような論調には違和感が残る。さらに、マスメディアとしてのテレビが高齢者向けだけにシフトできるものでもない。せっかくの著者生出演。スタジオでは、ぜひその辺りを聞くべきだった。
(2010.09.27)


*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
 文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。


TBS『Nスタ』に、インタビュー出演

2010年12月23日 | テレビ・ラジオ・メディア

22日放送のTBS『Nスタ』。

大学の「留学」事情についてインタビューを受けた。

現在、日本の各大学で、中国からの留学生が増えている。

(大学院での私の授業。2人の院生も中国人留学生)


その理由としては経済発展だけでなく、ドラマなどを通じての日本への親近感・興味といったものがある。

加えて、多くの中国人留学生たちが、できれば日本で就職したいと考えている。

また、逆に「日本から海外へ留学する学生」は、本学は違うが、全国的にはかなりの減少傾向だ。

これは、就職活動の早期化で、留学で日本にいないことが不利になること。

また、採用を絞って即戦力を求める企業側にとっては、留学経験がそれほど重要な採用ポイントになっていないことなどがある。


・・・といった話をさせていただきました。


『週刊現代』で、鈴木京香さんについてコメント

2010年12月23日 | メディアでのコメント・論評

『週刊現代』最新号の記事「すごすぎるよ、鈴木京香」でコメントをしている。

NHKのドラマ『セカンドバージン』が、最終回で視聴率11.5%をマークして終わった。

記事では、ドラマのシーンを文章で再現し、鈴木京香さんの「体を張った演技」を紹介している。

「すごすぎるよ」ってわけです(笑)。

映画評論家・秋本鉄次さん、コラムニスト・亀和田武さん、演出家・鴨下信一さんといった方々のご意見が並ぶ。

そして、「家族と一緒に見るのが躊躇われるほどの色気を放つ」鈴木京香さんゆえ、NHKオンデマンドで大人気であることが紹介され、実際の視聴率以上にハマっている男女が多いという。

で、私のコメントです・・・・


その理由を元制作会社プロデューサーで、上智大学文学部新聞学科教授の碓井広義氏はこう語る。

「NHKで放映されたことがハードルを下げてくれましたね。NHKだからこそ、『そんな不倫ドラマを見ているの』と他人に言われない。

ラブシーンは最小限の露出でありながら、体温や香りが伝わってきました。それは作り手の力であり、鈴木京香さんの表現力なのでしょう。

エロティックではあるけど、下品ではない。まさにそれが彼女の魅力。

私生活があまり見えない女優なので、役柄とのギャップを感じないで済むということも貴重だと思います」


(週刊現代 2011.1.1・8号)


・・・・ともあれ、鈴木京香さんと相手役の長谷川博己さんにとっては、まるで冬のボーナスみたいな(笑)「セカンドバージン現象」でありました。

2010年 テレビは何を映してきたか(8月編)

2010年12月23日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(チョロQコレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”です。

今日は、8月。


2010年 テレビは何を映してきたか(8月編)

「土俵ガール!」TBS

 すごいな、「土俵ガール!」(TBS系)。「土俵」と「ガール」の合体にインパクトがあるし、そもそも「元ちびっ子横綱の高校相撲部コーチ」を佐々木希に演じさせる、という大胆な発想がアッパレである。
 いや、そんなことより、大相撲がこれだけ「世間をお騒がせして、すみません」というネガティブな時期に、「相撲ドラマ」を予定通りオンエアした、その度胸に感心する。
 さらに、つい先日、不問に付されたとはいえ、暴力団関係者との会食が問題になった貴乃花親方が、このドラマの「相撲監修」をしていることもビックリだ。しかも先週は、ライバル校の校長先生役で出演さえしていた。もしも相撲協会が「貴乃花親方に非あり」として処分でもしていたら、どうするつもりだったんだろう。休場ですか?
 とはいえ、このドラマ自体は、意外や爽やかな“青春スポ根”物になっているのだ。廃部寸前の相撲部が、佐々木希の指導の下、部員集めから始めて立て直しを図ろうとする。映画「シコふんじゃった」を彷彿とさせるが、柄本明コーチと佐々木希コーチ、この違いは笑えるくらい大きい。
 後は、佐々木希が楽しく演じきることを祈るばかりだ。迫真の演技とか絶妙な表現とかは一切目指さなくていい。視聴者は「どこまでも佐々木希のままの佐々木希」こそが見たいのだから。
(2010.08.02)


「報道の魂 引き裂かれた家族~フィリピン残留日本人の戦後」TBS

 日曜の深夜、TBSは隔週で「報道の魂」をオンエアしている。地方局が制作したドキュメンタリーを多くの人に見てもらう貴重な機会だが、あまり知られていない。先日の放送は「引き裂かれた家族~フィリピン残留日本人の戦後」。制作は福岡のRKB毎日だった。
 戦前、多くの日本人がフィリピンへと移住した。船で使うロープの材料・マニラ麻の生産者になるなどして、現地での生活と移民社会を築いていった。その運命を変えたのは太平洋戦争である。
 男たちは日本軍に徴用され戦場に立った。昨日までの隣人が敵となったのだ。しかも戦後は、生き残った者の多くが日本に強制送還される。残された妻や子の苦労は想像を絶するものだった
 番組では何組かの「残留日本人二世」を取材していた。今や高齢となった彼らだが、これまで日本政府からの援助は一切ない。“国策”が原因で生まれた中国残留孤児とは異なる扱いなのだ。中には国籍さえ持てない二世もいる。「就籍」という国籍を求める活動も、この番組で初めて知った。民間の支援に頼るだけでいい問題なのかと思う。
 わずか30分の長さだが、ドキュメンタリーとしての密度は濃い。声高な主張ではなく、淡々と、しかし明確に映像で語っていたのが印象的だ。こういう番組枠が長く続くことを願う。月2回の放送なので、次回は15日だ。
(2010.08.09)


「熱海の捜査官」テレビ朝日 

 テレビ朝日「熱海の捜査官」が、じわじわと面白さを増殖させている。主演のオダギリ・ジョーは「FBIのようなもの」だという広域捜査官。3年前に熱海で起きた女子高生失踪事件を追っている。舞台が池袋でも木更津でも東京スカイツリーの押上でもなく、往年の観光地・熱海というのがすでに笑える。
 オダギリ・ジョーと三木聡監督のコンビといえば、やはり「時効警察」シリーズ。「時警」ファンは、この新作を「なんか違う」と言うだろうが、気にしなくていい。「時警」の続編を避け、また一話完結ではなく続き物にしたことも、警察ドラマの新たな“遊び方”に挑戦している証拠だ。
 このドラマを見ていて思い浮かぶのは「ツイン・ピークス」である。限定された舞台。怪しい登場人物たち。複雑な人間関係。オダギリ・ジョーはFBI特別捜査官クーパーで、警察署長の松重豊は保安官トルーマンだ。
 また「ダブルRダイナー」みたいな店には小島聖のウエイトレスもいる。そして消えた4人の女子高生がローラ・パーマーだ。その中の1人が突然生還したことで、寛一・お宮の熱海は、アメリカ北西部の田舎町ツイン・ピークスと化してしまった。
 そう、事件は解決なんかしなくていい。増えるばかりの謎と深まる一方の混迷の中、オダギリ・ジョーにはひたすら熱海を漂い続けてほしいのだ。
(2010.08.16)


「お天気バラエティー 気象転結」NHK

 「番組たまご」はNHKの新商品開発の場、試作品の見本市だ。見込みのある企画を実際に制作して放送し、出来上がりと評判によってはレギュラー化していく。「ブラタモリ」や「笑・神・降・臨」もそうだった。
 先週もトライアル番組がいくつか流された。中には映画「おくりびと」の脚本家・小山薫堂のショートストーリーを映像化した「恋する日本語」もあった。しかし定時番組(NHKではレギュラー番組をこう呼ぶ)という意味では、「お天気バラエティー 気象転結」に最も可能性を感じた。
 今ほど気象情報が大量に流され、お天気キャスターが人気を集めている時代はない。視聴者にとっては身近なテーマであり、暮らしに役立つ知識でもある。スタジオには森田正光、石原良純、半井小絵という3人の気象予報士と、土田晃之やMEGUMIなどの“気象素人”が並び、うんちくトークが展開された。
 今回、番組で取り上げていたのは雷だ。尾形光琳の雷神図から最近の絵本まで、描かれた雷に見るイメージの変遷。「桶狭間の戦い」を例に歴史上の出来事と雷の関係。雷を農業で活用する研究(半井小絵の初ロケ)など話題は豊富だった。
 それでも毎週となるとネタが心配なので、季節ごと年4回か、隔月での放送なら十分アリではないか。ただし、石原良純の進行役は今回限りでいいかもしれません。
(2010.08.23)


「借りぐらしのアリエッティを支えた職人たち」日本テレビ

 すでに600万人を動員し、興行収入も70億円を超えたという映画「借りぐらしのアリエッティ」。先週、日本テレビはNEWS ZERO特別版「借りぐらしのアリエッティを支えた職人たち」を放送した。密着120日が売り文句だ。
 番組には宮崎駿監督や今回抜擢された米林宏昌監督はもちろん、作画監督、美術監督、音響監督などが登場する。彼らはジブリ作品をジブリ作品たらしめる原動力だが、取材が総花的で中途半端なのが残念。たとえば45人のアニメーターを束ねる作画監督の仕事内容など、もっと分かるように見せて欲しかった。
 また、この番組が「NEWS ZERO」の番外編とはいえ、ジブリの仕事場を見学するだけの鈴江奈々アナとか、作曲者に形ばかりの質問をする宮本笑里とかは不要。その分の時間を、“背景画の天才”と呼ばれる美術監督や、登場人物の心情を表す音を“手作り”する音響監督の作業にもっと回すべきだろう。
 今月10日、NHKで「ジブリ 創作のヒミツ~宮崎駿と新人監督 葛藤の400日」という秀作ドキュメンタリーが流された。悩みながら作品と向き合う米林監督。じっと見守る宮崎監督。400日の長期取材は日テレの120日を大きく上回るが、単に日数の問題ではない。「何を見せたいのか」が明確かどうかで、質は違ってくるのだ。
(2010.08.30)


*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
 文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。



ラッパ屋の舞台『YMO~やっとモテたオヤジ』が面白い

2010年12月22日 | 舞台・音楽・アート

新宿紀伊国屋ホールへ。

お待ちかねのラッパ屋『YMO~やっとモテたオヤジ』だ。

紀伊国屋ホール、ちょっと久しぶり。

隣の席に女優の松金よね子さん。

以前、松本伊代ちゃん主演のドラマでお世話になりました。

黒のセーター、素敵です。

斜め後ろの席には、熊谷真実ちゃん。

真実ちゃん(何歳になろうと、私はそう呼んでいます)のことを、今は亡き渡辺文雄さんは「金魚」にたとえていました。

私を見つけて、笑顔で手をひらひらさせる真実ちゃんは、まさにキレイな金魚でした(笑)。


そんなこんなで、開演です。

56歳のサラリーマン、バツイチ、頭髪薄め、加齢臭ありのオヤジが恋をする。

相手は41歳。立派な年の差恋愛だ。

しかし、そこはラッパ屋。そう簡単に恋は成就しないぞ(笑)。

社内の派閥争い、出世競争、別れた女房の再婚、娘の恋愛・・・・

まあ、いろいろあるよ、この年齢になれば。

でも、とにかくオヤジの恋だ。

がんばれオヤジ、負けるなオヤジ(笑)。

サラリーマンを描かせたら、鈴木聡さんの脚本・演出は、もはや円熟の域に達しており、この作品はその集大成、一つの頂点を示すものかもしれない。

いや、それくらい面白いのだ。

近年のラッパ屋の中で、ワタクシ的には最高です。

俵木藤太(たわらぎ・とうた)さん、初の主演。いい味、出てます。

紀伊國屋ホールで12月26日まで。

その後は2011年1月8・9日 北九州芸術劇場・小劇場。



年末特別企画『2010年 テレビは何を映してきたか』7月編

2010年12月22日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(トトロの指人形コレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”を連日展開して
います。

今日は、その7月編。


2010年 テレビは何を映してきたか(7月編)


「毒トマト殺人事件」テレビ朝日

 面白いことを思いついたものだ。演じる側は自分が出ていることさえ知らないままに、1本のドラマが制作されていたなんて。しかも主演は、あのSMAP。先週放送されたテレビ朝日「毒トマト殺人事件」である。
 仕掛けはこうだ。今年の正月にSMAPのバラエティー番組が流された。その収録の際、同時並行でドラマの撮影も行っていたのだ。SMAPに気づかれないよう、同じ画面の中でドラマ用の俳優たち(平泉成、温水洋一など)が芝居をする。後はジグソーパズルのような編集作業だ。
 そして完成したドラマ。テレ朝の大下容子アナが毒入りトマトで殺害される。しかも密室殺人。犯人はSMAPメンバーの誰か、という話だ。まず、バラバラの素材が、よくぞこれだけ繋がったものだと感心する。
 もちろんストーリーも映像も無理矢理な面があって、出来自体は“ドラマもどき”だったかもしれない。しかし、そんなことは想定内だろう。それより「史上初のドッキリドラマ」に挑戦した、作り手側のチャレンジ精神と遊び心を評価すべきなのだ。
 放送は、このドラマを後半に置いたスペシャル番組の形をとったが、前半で流したメイキング部分がすこぶる面白かった。それは「テレビってこんなことも可能だよ」というドキュメントになっていたからだ。テレビも、まだ捨てたもんじゃない。
(2010.07.05)


警察ドラマの同時多発

 夏のドラマシーズンに突入した。テレビ欄を眺めて気づくのは春クール以上に刑事ドラマ、いや警察ドラマが多いことだ。
 TBS「うぬぼれ刑事」。フジテレビ「ジョーカー知られざる捜査官」。そしてテレビ朝日は何と5本を投入する。「ハンチョウ~神南署安積班」、「新・警視庁捜査一課9係」、「科捜研の女」、などのシリーズ物に加え、オダギリジョー「熱海の捜査官」や木村佳乃「警視庁継続捜査班」もある。
 では、なぜこれほどの数の警察ドラマが投入されるのか。もちろん視聴者にウケるからだが、そこには「太陽にほえろ!」など往年の刑事ドラマと比べて、いくつかの特徴がある。
 まず、単なる犯人追跡やアクションだけではないこと。追う側、追われる側、それぞれの人間ドラマになっている。また、警察という組織や内部を描く職場ドラマでもある。個性的なキャラクターと起伏に富んだストーリーのおかげで、大人の男も楽しめるのだ。
 さらに、「太陽にほえろ!」や「西部警察」などとの細かい違いが3点。現在の警察ドラマは「撃たない、吸わない、壊さない」のだ。派手な銃撃戦がない。刑事たちが煙草を吸わない。カークラッシュや爆発といった大掛りな破壊シーンもない。実は結構地味なのだ。
 様々な規制や経費削減にも負けず、今夜も刑事たちは難事件に挑む。
(2010.07.12)


「夏の恋は虹色に輝く」フジテレビ

 確かにドラマはフィクションだ。想像の産物であり、嘘話であり、絵空事だ。どんな登場人物が、どんな行動をしようと作り手の勝手かもしれない。「しかし、度合いってもんがあるだろ」とツッコミたくなったのは、フジテレビの月9「夏の恋は虹色に輝く」の初回だ。
 主人公は売れない二世俳優(松本潤)。趣味としては“異色”のスカイダイビングで憂さ晴らしだ。ある日、パラシュートの“トラブル”で風に流される。着地予定の場所か外れ、“どことも知れない”森に降下。枝に引っかかって宙づりに。
 しかし、その木の下は“ちょうど”道になっており、一人の女性(竹内結子)が“たまたま”通りかかる。彼女は“なぜか” ハサミを持っていて、パラシュートのひもを切って助けてくれるのだ。
 この20分間に及ぶオープニングを、「運命の出会い」「劇的なめぐり逢い」として納得・感激・拍手できる者だけが、このドラマを見続ける資格を持つ。何しろこの後も、“名前も知らない”女性との“再会”を期待したマツジュンが海辺の町を訪ねれば、あら不思議、通行人の姿さえ見えない寂しい道路を竹内結子が“偶然”自転車でやって来るではないか。まさに運命の恋?なーんてね。
 このドラマ、「有り得ねえ~」と叫ばせる頻度で月9の歴史に残ると見た。いや、怒ってはいません。呆れてはいるけど。
(2010.07.26)


*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
 文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。


年末特別企画『2010年 テレビは何を映してきたか』6月編

2010年12月21日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(トトロの指人形コレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”。

今日は6月です。


2010年 テレビは何を映してきたか(6月編)


「ETV特集 死刑囚永山則夫~獄中28年間の対話」NHK

 先週、テレビ界の大きな「賞」の一つ、ギャラクシー賞(放送批評懇談会)の贈賞式が行われた。この賞はラジオ、報道活動、CMなど部門別の表彰だが、やはり注目はトリを飾るテレビ部門「大賞」である。
 47回ギャラクシー賞「テレビ部門」大賞は、NHKのETV特集「死刑囚 永山則夫~獄中28年間の対話」だった。ディレクターを務めたのはフリーの堀川惠子さん。撮影は制作会社ドキュメンタリージャパン所属の山崎裕カメラマンだ。
 連続射殺魔と呼ばれた永山は1969年に逮捕され、97年に死刑が執行された。その間に外部と交わした膨大な数の手紙や貴重な「肉声」、獄中結婚した元妻の証言などで構成されたのがこの番組だ。母親との関係にまで踏み込んだ取材は、犯罪者というより一人の人間としての永山則夫を現出させていた。この10年くらいに放送されたドキュメンタリーの中でも傑出している。拍手です。
 今回は他にもドキュメンタリーの秀作が多かった。静岡放送「日本兵サカイタイゾーの真実~写真の裏に残した言葉」、テレビ熊本「土に生きる~ダム水没予定地・ある農民の手記」、南海放送「ひだまり~今治大浜1丁目・6年の記録」等々。
 ややもすればNHKの独壇場となるドキュメンタリーだが、民放の力作にも、もっとスポットが当たって欲しいと思う。
(2010.06.07)


「Mother」日本テレビ

 日本テレビのドラマ「Mother」が佳境に入っている。家庭内で虐待されていた少女(芦田愛菜)と、彼女を救おうと連れ出した女教師(松雪泰子)の逃亡劇だ。
 先週、松雪がついに逮捕され、二人は離れ離れとなってしまった。刑事たちに退路を断たれた松雪はその場に崩れ落ち、本当の我が子のように少女の名を絶叫。少女のほうも泣きながら警察の車に追いすがる。あらためてタイトルを思い出させる愁嘆場であり、大きな見せ場だった。
 このドラマ全体は児童虐待だ、二人の母だという話だから、もちろん暗い。そして重い。視聴率も平均12.3%と決して高くはない。しかし、なぜか目が離せないのだ。それは坂元裕二のシナリオが、一見いわゆる社会派ドラマのようでいて、そこに収まらないものを含んでいるからだ。
 ここには実に多くの「母」が登場する。少女の虐待母(尾野真千子、好演)、松雪の実母(田中裕子、巧演)、育ての母(高畑淳子)、妊娠した妹(酒井若菜)、そして疑似母としての松雪本人。それぞれの“母なる証明”が見どころだ。いわば、“母であること”をテコにして自分自身を発見していく女たちの物語なのである。
 加えて、マザー軍団にたった一人で立ち向かう芦田愛菜の演技が凄い。その天才子役ぶりが見られるのも、あと2回だ。
(2010.06.14)


「こだわり人物伝 赤塚不二夫篇」NHK教育

 気がつけば、最近のNHK教育はかなり熱い。「ハーバード白熱教室」「“スコラ”坂本龍一 音楽の学校」など、余所では見られそうもない好企画が続いているからだ。よもや教育テレビでYMOの演奏が聴けるとは。
 同時に既存番組も意欲的で、現在「こだわり人物伝」では赤塚不二夫にスポットを当てている。“語り手”は演出・脚本家の松尾スズキ。幼稚園以来の赤塚漫画体験をベースに、松尾流の独断と偏見による解釈(それでいいのだ)が続いて、今週水曜で最終回となる。
 前回など赤塚の寿命を縮めた「酒」にも言及。「漫画を破壊する快楽に追いつくために必要だった」としながら、「まじめ過ぎた」赤塚の素顔に迫っていた。さらに破天荒な私生活、写真やテレビでの露出も、「自分自身をマンガのキャラ化した」結果と見る。
 松尾もまた赤塚と同じく「ずっとふざけ続けていたい」願望の持ち主だ。だからこそ、「マンガで得た評価を蕩尽」するかのような赤塚の行動に当惑しながらも、愛さずにはいられないのだ。そんな「バカバカしいことを 本気でやる精神」は松尾にも受け継がれている。
 実は市販の番組本も笑える。何と太宰治とコラボさせているのだ。太宰は顎に手を添えたポーズが有名だが、赤塚もこれをマネして、太宰のポーズ写真とともに表紙を飾っている。女性関係では太宰にも負けないという意味だ。赤塚の面目躍如である。
(2010.06.21)


「ハガネの女」テレビ朝日

 それまで脇役だった役者がついに主演を務める。晴れ舞台であると同時に試金石でもある1本。女優・吉瀬美智子にとって、テレビ朝日「ハガネの女」はそんなドラマだ。役柄は小学校の臨時教師、「ハガネ」こと芳賀稲子。勉強が苦手な生徒には根気強く教える。いじめも見過ごさず、子どもたちに正邪を分からせる。そんなプチ熱血教師。
 しかし、涙と笑いの単純な学園ドラマではない。ハガネはシンプルだが、子どもたちが複雑なのだ。彼らは自分を守るために、また誰かを守るために嘘をつく。優等生の女の子が心に闇を抱えている。いじめっ子と思われた少年が、いじめられっ子を庇っていたりする。
 親たちのモンスターぶりもまた千差万別だ。良妻賢母が子どもの本当の姿を見ていない。妻と子どもを陰で暴力的に支配する父親がいる。ハガネはそんな親たちとも正面から向き合う。そう、これって、堂々の「社会派ドラマ」なのだ。
 そして、主演の吉瀬。確かに頑張ってはいる。当初、吉瀬と教師がミスマッチに見えたが、回を重ねるうちにハガネは成長し、吉瀬もまた成長してきた。だが、どうしても影が薄い。「ライアーゲーム」の時のような強烈な存在感がないのだ。
 もしかしたら吉瀬は、“気になって仕方ない女優”として、脇で輝き続けたほうがいいのではないか。そんな気がする。
(2010.06.28)


*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
 文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。