(チョロQコレクション)
この1年、テレビは何を映してきたのか。
『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”を実施中です。
今日は、10月。
2010年 テレビは何を映してきたか(10月編)
「てっぱん」NHK
NHK朝ドラ「てっぱん」が始まって1週間が過ぎた。半年間の長丁場を「起承転結」で考えるとまさに起の先っぽ。観客を物語に引っ張り込む大事な導入部分だが、今のところ順調だ。
その理由は3つ。まず尾道のロケーションが効いている。小津安二郎の「東京物語」から大林宣彦監督の尾道三部作までを連想させる渡船、坂道、山上の寺。海と山に挟まれた町の表情が豊かだ。
次にヒロインの瀧本美織。「出生の秘密」にもあまり動じないヒロインの〝不自然すぎるほどの一直線ぶり〟を自然に演じているのがすごい。一点だけ余計だったのは大阪駅前の人波を見て「お祭りの日に来てしまったんだねえ」なんて言わせてしまったこと。そんな風に言う高3女子は今どきいない。地方の女子高生をバカにしてはいけません。
また秀逸なのが中村玉緒のナレーションだ。関西弁のとぼけた味はもちろん、登場人物たちの台詞や動きを大事にして語り過ぎないのがいい。新人・瀧本を囲む富司純子や遠藤憲一、安田成美の3人に〝隠し玉〟みたいな中村玉緒が加わって守りは万全だ。
とはいえ、関西発朝ドラの正念場は少し先。ヒロインが故郷の町を出てお決まりの大阪にやって来てからが問題だ。爽やかな地方ロケの映像もなく、スタジオセットの家と職場で話が展開するようになった時、いかに失速させないか。脚本家チームの腕の見せ所だ。
(2010.10.04)
秋の連続ドラマ
この秋の連続ドラマにはいくつかの特色がある。まずは警察ドラマのバリエーションともいうべき「お役所モノ」の乱立だ。舞台として、東京地検、京都地検、国税局、会計検査院から刑務所までが並ぶ。善と悪、白と黒の対立構造が明快で、決着感も得やすいのだ。
2番目は30代女優の競演である。フジ「ギルティ悪魔と契約した女」の菅野美穂33歳。テレ朝「ナサケの女」米倉涼子と、同じくテレ朝「検事鬼島平八郎」の内田有紀が35歳。
日テレ「黄金の豚」篠原涼子37歳。そしてフジ「パーフェクトリポート」の松雪泰子と、同局「医龍3」稲森いずみが堂々の38歳だ。秋はしっとり“大人の季節”というわけではない。彼女たちは視聴率という実績を持っているのだ。
3番目の注目点は、日曜21時「日曜劇場」と木曜21時「渡る世間は鬼ばかり」、TBSが誇る2つのドラマ枠が狙い撃ちにされたということ。不動産屋としてはともかく、テレビ局としての力にヘタリが見えるTBSを、松雪泰子のフジと、米倉涼子のテレ朝が叩こうというわけだ。
攻められるTBSは、特に日曜の「獣医ドリトル」が心配。主演の小栗旬は、前述の30代女優たちと違って、主演のヒット作を持っていないからだ。秋は夏場に比べて在宅率が高い。視聴者は居るはずであり、言い訳のきかない戦いが展開される。
(2010.10.18)
「報道特集」TBS
この秋、TBS「報道特集」の“顔”が、美里美寿々から金平茂紀キャスターへと変わった。その経歴は華々しく、「ニュースコープ」副編集長、ワシントン支局長、「ニュース23」編集長などを歴任。報道局長やアメリカ総局長も務めた。現在は執行役員だから、報道部門だけでなく会社全体の“顔”でもある。
そんな金平キャスターだが、番組で生かし切っているとは言えないのが現状だ。先日の放送では「チリ落盤事故・救出劇の裏側」と「ジャピーノ問題」を扱っていた。チリ編は救出された炭鉱夫たちへの会社による口止め、つまり情報統制などを取材しており、見応えがあった。
ただ、伝えたい全てのことをVTRの中で処理しているため、スタジオで金平キャスターが語る余地はほとんどない。また、日本人男性とフィリピン女性の間に生まれた子供(ジャピーノ)の救済活動をしている人物のことは、以前別の番組でも見たことがある。
逃げた男性を探し出し、子供の認知を促す様子には頭が下がるが、なぜ今、これを報道するのかが不明確だ。金平キャスターも男たちの「不誠実」を嘆くしか言いようがない。単なる進行役なら誰でも同じだ。せっかく起用した自前の大物キャスターをなぜ活用しないのか。十分な時間を与えず、意味のある発言をさせないのはもったいない。
(2010.10.25)
*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。