「週刊新潮」に寄稿した書評です。
山平重樹『東映任侠映画とその時代』
清談社 2420円
学園紛争の嵐が吹き荒れた1960年代後半。それは東映任侠映画の黄金時代でもあった。鶴田浩二の『博徒』、高倉健を看板スターにした『日本侠客伝』などによって、東映は時代劇からの大転換に成功する。その立役者が「任侠映画のドン」俊藤浩滋プロデューサーだ。本書は俊藤を軸に描く、任侠浪漫と俳優たちの物語である。異形の「情念劇」はなぜ大衆の支持を得たのか。時代の深層が見えてくる。(2023.12.08発行)
谷崎潤一郎ほか『あまカラ食い道楽』
河出書房新社 1760円
雑誌『あまカラ』は、食べ物や飲み物をテーマに昭和26年から43年まで発行されていた、関西の伝説的月刊誌だ。谷崎潤一郎は、炒った大豆などに酢をかけた料理「すむつかり」を語っている。また佐藤春夫は好物の鮨に関する、とっておきの蘊蓄を披露。さらに「玉子焼」について、東京と大阪の違いを綴るのは宇野浩二だ。「美味いもの」に関する文豪たちの文章は、いずれも柔らかく温かい。(2023.11.30発行)
谷川俊太郎、ブレイディみかこ:著、奥村門土:絵
『その世とこの世』
岩波書店 1760円
異色の往復書簡集である。本書にあるのは散文と詩の交歓だ。意外なテーマが、予想を超えた展開を見せる。好きな音楽の数小節が、その世とこの世のあわい(間)に連れて行ってくれること。時間的座標軸として、歴史の中の自分を見つけること。さらに、幽霊の話が人間のデータ化とつながっていくのも興味深い。2人の交信の感度を増幅しているのは、「モンドくん」こと奥村の独創的な挿画だ。(2023.11.22発行)
【週刊新潮 2024.01.25号】