2023.03.19
【新刊書評2022】
週刊新潮に寄稿した
2022年11月前期の書評から
NHK取材班:著『ホンダF1 復活した最速のDNA』
幻冬舎 1760円
今年1月にNHKのBS1で放送された『30年ぶりの栄冠!ホンダF1最後の戦い』の書籍化だ。F1への参戦と撤退を繰り返してきたホンダ。最後のシーズンで劇的な逆転優勝を遂げた。「できない理由はいらない。どうやったらできるかを考える」の技術者魂が光るノンフィクションだ。撤退後も技術開発は続き、10月の日本GPで優勝したマシンには、ホンダのパワーユニットが搭載されていた。(2022.10.05発行)
山田風太郎:著、有本倶子:編
『故郷へ、友へ、恩師へ、 風の便り 山田風太郎書簡集』
講談社 2310円
作家・山田風太郎の生誕100年を記念する書簡集。編者は「山田風太郎の会」を結成し、記念館を建設した伝記作家である。多作の山田は手紙もまめだった。最も多いのが親友への便りだ。我が子の命名の由来を語り、友に結婚を勧めている。また高木彬光とは合作の相談で盛り上がる。2人でやる以上、「世界ベスト・テン級!のものでなくては」と鼻息が荒い。どの文面にも手紙ならではの素顔が覗く。(2022.10.24発行)
村上陽一郎:編『「専門家」とは誰か』
晶文社 1980円
さまざまな「専門家」の出現と、それぞれの「専門知」の氾濫。それは新型コロナウイルス禍で多くの人が体験した、奇妙な困惑の一つだ。本書は専門家たち自身が「専門家とは何か」を問い直す、ユニークな一冊である。専門知と社会とのズレ。輿論形成と専門家の関係性。ジャーナリストと専門家が協働する道。さらに「特殊な素人」としての専門家が持つ価値と課題についても論じられていく。(2022.10.25発行)
自由国民社:編『現代用語の基礎知識2023』
自由国民社 1760円
「時代の言葉」を収集・解説し、世相を記録する本書は創刊75周年を迎えた。かつては『イミダス』や『知恵蔵』など同系の本が刊行されていたが、現在は本書の単独行だ。今回も政治、経済から科学や流行まで、多様なジャンルの注目語や新語が並ぶ。さらに「ロシアによるウクライナ侵攻とこれからの世界」「岐路に立つ政治と宗教」といった現在進行形の事象を解読する特集も読み応え十分だ。(2022.11.05発売)
林 朋彦『トコヤ・ロード2』
風人社 1650円
前作から4年。著者が全国のトコヤ(理髪店)にレンズを向けた写真集としては3冊目となる。関東を中心に、静岡、四国、九州とトコヤ行脚が行われ、40数軒がコレクションされた。町の一角に潜むような店構え。入り口の脇に立つ、三色の「ねじりん棒」。使い込まれた「バーバーチェア」。人はほとんど写っていないのに、店主や客の声や温もりが伝わる。懐かしくて、ちょっと切ない風景だ。(2022.11.01発行)
五木寛之『人生のレシピ 人生百年時代の歩き方』
NHK出版 953円
今年9月に90歳となった著者。本書は、現在も旺盛な執筆活動を続けるレジェンドが語る、〈生きるヒント2022〉である。人間の一生に、価値があったとか無意味だったとかの物差しは不要。「大切なのは、幸せの期待値を低くしておくこと」であり、「今日一日を大切に生きる。それだけでもう十分」だと言う。なぜなら「人生の目的は、生き抜くこと」だから。読後、静かな元気が湧いてくる。(2022.11.15発行)