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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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ラッパ屋『コメンテーターズ』は、 「現在進行形」のスリリングな芝居!

2021年07月23日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

ラッパ屋『コメンテーターズ』は、

「現在進行形」のスリリングな芝居!

 

新宿の紀伊國屋ホールで、劇団ラッパ屋の新作『コメンテーターズ』が上演されています。
 
物語の舞台はテレビのワイドショー。「現在進行形」のスリリングな芝居です。
 
元々は、昨年4月に行われるはずだったのですが、コロナ禍によって「上演中止」となった作品です。
 
しかし、脚本・演出の鈴木聡さんに直接聞いたところによれば、題名は同じでも、昨年4月に用意していた内容とは、ほぼ別物になったそうです。
 
おやじ系ユーチューバーの冒険
 
主人公は、定年後の再就職もままならない中、ふとしたきっかけでユーチューバーになっちゃった64歳のおっさん、横沢広志(おかやまはじめ)です。
 
おやじギャグと、おっさんの本音みたいなものがウケて、再生回数はうなぎ登り。
 
それに目をつけたのが、朝のワイドショー「おはコメ」こと「おはよう!コメンテーターズ」の女性プロデューサー(岩橋道子)でした。
 
彼女の上司であるワイドショー担当役員(俵木藤汰)のOKも出て、広志の出演が決まります。
 
「おはコメ」の生放送のスタジオには、タイトル通り、何人ものコメンテーターが並んでいます。
 
政権寄りの政治評論家(木村靖司)、反権力のジャーナリスト(宇納佑)、弁護士の経済評論家(谷川清美)など。
 
他に、歌手(北村岳子)やダンサー(黒須洋嗣)、さらに町のパン屋さん(伊藤直樹)まで、ズラリです。
 
そこに、フツーのおっさん、横沢広志が加わった。
 
「現在進行形」の芝居
 
物語の時間軸は、今年の5月下旬から7月初旬という設定。
 
つまり、今回の「緊急事態宣言」発出や、オリンピックの「無観客」開催などが決定される前まで。
 
ワイドショー「おはコメ」では、ほぼリアルタイムな感じで、「コロナ」と「オリンピック」の話題が展開されるわけです。
 
これは、かなりスリリングです。
 
それまで、「プロのコメンテーター」集団が、一定の調和を保ってきた番組に、新人の「素人コメンテーター」が投入されたため、全体のバランスが崩れていきます。
 
また、「コロナ」や「オリンピック」についても、予期せぬ「論」が飛び出すことになります。
 
そして、舞台の上とはいえ、いや、舞台だからこそ、「ワイドショー」なるものの本質や、「コメンテーター」なる人々の正体や、「メディアと社会」の危うい関係性が、どんどん明らかになっていく。
 
でも、そこはラッパ屋です。どんな重いテーマでも、明るさとユーモアを忘れません。
 
観客は、大いに笑って、そして少しほろっとしながら、ちゃんと<大事なもの>に触れていく。気づかされるのです。
 
1993年の『アロハ颱風』以来、約30年間、すべての舞台を観てきましたが、それはいつも変わりませんでした。
 
そのうえで、今回、一番の特色と言えるのは、ここまで世の中の「現実」を、ストレートに取り込んだ作品はなかったということです。
 
鈴木聡さんの言葉を借りれば、まさに「ジャスト・ナウ」。
 
「現在進行形」の芝居であり、観客と「いま」を共有したいという強い意志でしょうか。
 
現実のコロナも、オリンピックも、「なし崩し感」いっぱいであり、「わからないこと」だらけであり、厭世的になりそうな人も少なくないと思います。
 
そんな時だから、ラッパ屋の「喜劇」が、ラッパ屋的「人間喜劇」が、私たちには必要なのかもしれません。
 
ありがたいことに、その舞台を観終わったあと、小さな希望を持ち帰るというか、ちょっとだけ元気になっている。
 
演劇は「不要不急」か!?
 
思えば、スマホやSNSによって、生身の人間関係が希薄になってきたのは確かです。
 
しかし、「つながり孤独」という言葉が象徴するように、私たちには、どこかで生身の人間を感じたいという欲求があります。
 
コロナ禍の中で、演劇は「不要不急」のものとして扱われてきました。
 
ですが、劇場で見る演劇は、身近に現実の人間の存在を感じる、貴重な機会であることもまた確かなのです。
 
年に1度の「ラッパ屋」を観て、あらためて、そんなことを思いました。
 
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ラッパ屋 第46回公演「コメンテーターズ」
2021年7月18日(日)~25日(日)
東京・新宿 紀伊國屋ホール
 
 
脚本・演出の鈴木聡さんと(紀伊國屋ホールにて)