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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

<2019年9月の書評>

2019年09月30日 | 書評した本たち

 

 

<2019年9月の書評>

 

宮脇孝雄『洋書天国へようこそ~深読みモダンクラシックス』

アルク 1728円

海外文学、特に英語の作品を原書で読んでみたい。そんな願望を持つ人は少なくないはずだ。著者は熟練の翻訳家であり、翻訳教室も開講中。チャンドラーやクリスティなどの作品と原文の解説は自由闊達で、洋書に対する心のハードルを少しだけ下げてくれる。(2019.07.26発行)

 

宮入恭平

『ライブカルチャ―の教科書~音楽から読み解く現代社会』

青弓社 2160円

テレビの音楽番組は激減し、CD市場も低迷の一途だ。しかし、主なコンサート会場やライブハウスは満員観客を集めている。音楽との接し方が変わったのだ。気鋭の研究者がアイドルフェスをはじめ、法律や教育など多角的な視点からライブの本質に迫る。(2019.07.29発行)

 

土屋時子・八木良広:編

『ヒロシマの河~劇作家・土屋清の青春群像劇』

藤原書店 3456円

「原爆詩人」として知られる峠三吉とその仲間の平和運動を描いた創作劇が『河』だ。作者の土屋清は広島生まれ。戦後は労組活動や反戦運動に携わってきた。本書は土屋の評伝と『河』に関する資料などで構成されている。何より収録の「上演台本」が貴重だ。(2019.08.06発行)

 

渥美 清『新装版 渥美清わがフーテン人生』

毎日新聞出版 1512円

映画『男はつらいよ』の公開から50年。唯一の「聞き書き本」の復刊だ。昭和51年、シリーズ第17作『寅次郎夕焼け小焼け』の公開を前にした回想だった。終戦直後の上野、闘病時代、アフリカ旅行、そして車寅次郎のこと。口調が寅さんのままという大サービスだ。(2019.08.05発行)

 

磯前順一『昭和・平成精神史』

講談社選書メチエ 1944円

気鋭の研究者による戦後論。何より視点がユニークだ。太宰治を通して敗戦と復興を捉え直し、ゴジラと力道山を梃子に戦争と植民地支配を検証していく。また歌手の沢田研二に注目して戦後社会の超克の端緒とする。浮かび上がるのは「終わらない戦後」の意味と実相だ。(2019.08.08発行)

 

山田敏弘『CIAスパイ養成官~キヨ・ヤマダの対日工作』

新潮社 1566円

こんな女性が存在したことに驚く。戦後に渡米し、アメリカ人と結婚。CIA中央情報局)で、スパイに日本語や日本文化を教えていたのがキヨ・ヤマダだ。しかも教官の域を超え、実際の工作任務にも携わっていた。綿密な取材で謎の半生が明らかになっていく。(2019.08.20発行)

 

はらだみずき『銀座の紙ひこうき』

中央公論新社 1836円

神井航樹は50代半ばだ。息子の就職活動をきっかけに、自身の新人時代を振り返る。紙を専門に扱う「銀栄紙商事」に入社したのは1987年。仕入部に配属され、走りながら仕事を覚える悪戦苦闘の日々が続く。働くこと。秘めた夢。そして恋。銀座が舞台の青春譚だ。(2019.08.25発行)

 

鈴木信行『同窓会に行けない症候群』

日経BP 1512円

同窓会に参加しない人が増えた背景に、「平成の30間の経済環境の変化」があると著者は言う。会社での出世が難しい時代。自分の仕事に納得できない人が多い。また起業も成功するとは限らない。一体どうすれば同窓会に出られるのか。その処方箋も提示される。(2019.08.26発行)

 

今森光彦『光の田園物語~環境農家への道』

クレヴィス 2700円

写真集『里山物語』などで知られる著者が、荒れた農地を里山として再生する「環境農家」になった。本はその取り組みをめぐる、写真と文章による記録であり報告だ。開墾に始まり、農地作り、植物の移植などが続いた。人と自然の美しい共生が形になっていく。(2019.08.29発行)

 

梶村啓二『ボッティチェッリの裏庭』

筑摩書房 1944円

ルネサンスの巨匠による一枚の真筆画。謎の未発見作品をめぐって展開される、時空を超えた美術サスペンスだ。時間は1510年、1945年、201X年と移動し、場所もフィレンツェやベルリンから日本までが舞台となる。「本物とは何か」を問う野心作だ。(2019.08.30発行)

 

小川隆夫『改訂版 ブルーノートの真実』

東京キララ社 2700円

創立80周年となる、世界的なジャズ・レーベル「ブルーノート」。創立者アルフレッド・ライオンへの直接インタビューを軸にまとめた貴重な「真の歴史」だ。当初「ブルース・ノート」だったレーベル名の変更。第1回作品の初版が50枚という秘話も泣かせる。(2019.08.30発行)

 

山口 孝『赤塚不二夫伝 天才バカボンと三人の母』

内外出版社 1836円

赤塚不二夫が亡くなって11年。本書は初の本格評伝だ。キーワードは「かあちゃん」。実母のりよ、最初の結婚相手だった登茂子、そして最期を看取った妻の真知子だ。本書では漫画家としての軌跡と、この天才を支えた3人の女性の姿が鮮やかに描かれている。(2019.09.14発行)