
「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
砂川浩慶 『安倍官邸とテレビ』
集英社新書 778円
今年3月、報道番組の看板キャスターが相次いで降板した。NHK「クローズアップ現代」国谷裕子さん、TBS「NEWS23」岸井成格(しげただ)さん、 そしてテレビ朝日「報道ステーション」の古館伊知郎さんである。
それぞれ政治的なテーマについても言うべきことは言う、そんな気概を持つ人たちだった。何か圧力があったわけではないと報じられたが、“3人同時降板”は尋常なことではない。
立教大教授である著者は、ここに至るまでの安倍政権とテレビの関係を徹底検証していく。狡猾ともいえるメディアコントロールの手法、揺さぶりと介入の具体的な動き、さらにテレビ自身が抱える問題点や危うさにも迫っている。
思えば、安倍首相のテレビに対する警戒心と支配欲は昨日今日のものではない。15年前に起きた、「戦時性暴力」をテーマとしたNHK教育テレビの番組改変問題にも直接かかわっている。第一次安倍政権ではテレビ局への「行政指導」を乱発したが、現在はより直接的、より露骨なメディアコントロールが行われている。
選挙報道に対する「お願い」という形の恫喝。個別番組の件でテレビ局の経営幹部を呼びつける。加えて、前代未聞の総務大臣「電波停止」発言である。こうした状況は報道現場の萎縮や自己規制を生むが、政権の狙いもそこにある。
報道内容の是非を判断するのは視聴者だ。本書は貴重な判断材料となる。
安東能明 『ソウル行最終便』
祥伝社 1,836円
大手家電メーカーのフロンテが、4Kテレビの次世代技術を開発した。その最新技術を手に入れようとするのは韓国企業のチムサンだ。しかし、データを記録したSDカードは思わぬ人物に奪われてしまう。日韓の産業スパイ、警視庁公安部、外事課の暗闘が始まる。
土橋 正 『仕事文具』
東洋経済新報社 1,620円
文具コンサルタントである著者が、自ら使用する中から厳選した235点が並ぶ。いずれも便利かつ機能的で美しく、しかも愛嬌がある。書く、整理するなど日常の仕事が楽しくなりそうだ。中でも「万年筆のすすめ」は必読。大人の男にとって永遠の桃源郷である。
(週刊新潮 2016年6月2日号)