放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC(ぎゃらく)」。
最新7月号の特集は「決定!第49回ギャラクシー賞」だ。
この中で、「報道活動部門」の総評を書いています。
問い続ける
「今、誰のために、何を伝えるべきか」
「今、誰のために、何を伝えるべきか」
放送における「報道活動」が、一つの番組として完結することは稀だ。むしろ番組枠を越えて継続的に報じた内容や、ある番組のコーナーでの報道が、社会に対して重要な問題提起になるといったケースが多い。
ギャラクシー賞報道活動部門の狙いは、そうした単一の番組では完結しない、収まりきらない取り組みを評価することにある。対象となるのは同じ番組内での連続報道、複数の番組にまたがる調査報道、系列の枠を超えた連携報道、イベント等とも連動したキャンペーン報道などだ。
大賞はIBC岩手放送の絆いわて「ふるさとは負けない!」キャンペーンだ。地震発生と同時に緊急自家発電に切り替え、テレビとラジオの放送を継続。そんな中から生まれた「ふるさとは負けない!」というメッセージは岩手県内にとどまらず、被災地の方々にとって大きな力となった。その取り組みを支えたのは「今、誰のために、何を伝えるべきか」という真摯な問い掛けである。
優秀賞は伊万里ケーブルテレビジョンの「市営散弾銃射撃場鉛汚染問題における一連の報道」。地元の射撃場の銃弾がもたらした鉛害。農作物を獣害から守るための猟銃使用。一方的な議論やおざなりな両論併記ではなく、「同じ地域に暮らす私たちの問題」として丹念に取材を重ね、伝えている。その取り組みからは、メディアを通して環境や政治を考えることの可能性が強く感じられた。
同じく優秀賞に選ばれたのは、TBSのオムニバス・ドキュメンタリー「3・11大震災 記者たちの眼差し」Ⅰ~Ⅳである。JNN系列各局の記者たちが現地に立ち、自分の目で見て、肌で感じたものを自らの言葉で伝え続けた。そこには「伝える者」としての迷いも含まれている。報道における一人称報告の意味を問う、地道な取り組みでもあった。
そして三本の選奨のうち一本目は東海テレビ放送「キャンペーン“司法シリーズ”開かれた司法へ」だ。「名張毒ぶどう酒事件」の再検証から始まるシリーズは、裁判所、検察庁、弁護士、死刑制度のあり方を問うだけでなく、犯罪被害者・遺族の思いにもスポットを当てている。
次の選奨は日本放送協会「子どもを守れ!キャンペーン」。子どもを取り巻く環境と、その改善を目指す事例を多角的に伝えた。またホームページ開設やドラマ制作を通して、視聴者とともに解決策を探り続けた報道姿勢も高く評価したい。
日本テレビ放送網のNNNドキュメント’11~’12「3.11大震災シリーズ」における計31本の番組制作と一連の報道活動が、三本目の選奨だ。系列各局による計31本の取り組みは、質量共に民放の震災ドキュメンタリー分野をリードするものとなった。また映像記録集成としても大きな実績を残した。
また奨励賞となった朝日放送「古文書が語る巨大津波」シリーズは、過去の記録をひも解くことで、想定外を無くすための地震対策を探っている。伝聞や誇張が含まれるものが多い古文書だが、場合によっては「わからない」「疑わしい」と言い添える姿勢が好ましい。
同じ奨励賞の福岡放送「STOP!飲酒運転」キャンペーンは、飲酒事故による高校生の死をきっかけに展開された。期間中、飲酒運転撲滅のための条例が制定されるなど、社会的な変化を見ることもできた。
今年度の応募総数は二十二本。昨年三月十一日に発生した東日本大震災やその後の原発事故に関連した複数の報道活動はもちろん、全体として実に充実した内容だった。
SNSをはじめとする新たなメディアとの関係も含め、放送メディアを通じた報道活動はどうあるべきか。そんな課題に対する模索も各地で行われている。非常時はもちろん、平時においても信頼され、必要とされるメディアであろうとする時、報道活動の役割は一層大きくなる。
(GALAC 2012年7月号)
