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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

本の世界は海のように奥が深く、海の家より間口が広い

2008年09月16日 | 本・新聞・雑誌・活字

普通の書店さんの棚は、当然ながら、そのときどきの新刊を中心に並べてあるので、どうしても似通ってしまう。

しかし、古本屋さんは違う。どんな本を、どう並べようと、店主の自由なのだ。おかげで個性的な棚になる。いや、店構えも、店内の風景にも個性が出る。

古本好きのイラストレーター、池谷伊佐夫さんの新刊『古本蟲がゆく~神保町からチャリング・クロス街まで』(文藝春秋)の面白さ、楽しさは、写真ではなく手描きのイラストであることで、1軒1軒の店の「個性」が際立っている点だ。

九州屈指の古書店「葦書房」から、日本最北端・稚内の「はまなす書房」まで、国内はもちろんロンドンにも遠征している。そうやって描かれた店内の俯瞰の細密画には、古本そのものに通じる温もりがある。

池谷さんの「俯瞰細密画」は、全体を見て、部分を見て、また全体に戻るの繰り返しで、飽きることがない。店の中を浮遊している気分だ。

この、上から見る、俯瞰ってのがいいんだなあ。俯瞰とは「鳥の目線」であり、オーバーにいえば「神様の目線」だ。普通、人間が持ち得ない目線なのだ。

また、池谷さんが書く各店の魅力を伝える文章と、池谷さんが目にした古書・入手した古本を紹介する「今回の収穫」コーナーも熟読に値する。これまた、一冊ずつの表紙が写真で並んでいても、その本についてのコメントを、こんなに力を入れて読んだりしないだろう。

古本の総本山みたいな神保町についての文章の中で、こんな言葉を見つけた。

   本の世界は海のように奥が深く、海の家より間口が広い

これまでに出版された池谷流イラストレポ『東京古書店グラフィティ』『神保町の虫―新東京古書店グラフィティ』も、古本&古本屋さん愛好者には堪らない。

古本蟲がゆく―神保町からチャリング・クロス街まで
池谷 伊佐夫
文芸春秋

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神保町の虫―新東京古書店グラフィティ
池谷 伊佐夫
東京書籍

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東京古書店グラフィティ
池谷 伊佐夫
東京書籍

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