ジョン・ウー監督が「三国志」を完全映画化したという最新作『レッドクリフ』を楽しみにしている。だが、公開は11月。まだまだ先だ。
そこで、その代わりというのも変だが、北方謙三さんの新刊『史記 武帝(一)』(角川春樹事務所)を読む。
これは、「三国志」「水滸伝」に続く、北方版“中国歴史小説”の最新シリーズだ。
「史記」といえば、すぐ思い浮かぶのが、始皇帝や項羽と劉邦の逸話の数々。しかし、北方さんが最初に選んだのは、前漢の武帝・劉徹とその時代である。
物語は、劉徹によって選ばれた二人の男を軸に展開される。
一人は奴僕同然に育ちながら、軍人として生きる衛青だ。執拗に国境を脅かす匈奴に対して「俺の戦に守りというものはない」と言い切り、自ら鍛えた騎馬隊を率いて、果敢に戦いを挑んでいく。描かれる戦闘場面が、壮絶にして美しい。
そして、もう一人の男は、劉徹の意を受けて、遥か大月氏国を目指す張騫である。張騫の名前は、高校時代の歴史の授業を思い出させるなあ。
張騫は旅の途中で匈奴に捕らえられ、彼らと共に暮らして6年。それでも西へ向かう旅を諦めたりはしない。大月氏国と同盟を結び、匈奴を挟み撃ちにするという目的があるからだ。
さらに4年が過ぎ、ついに匈奴の元から脱出した張騫一行は、過酷な砂漠越えに挑んでいく。この執念が凄い。
漢の七代皇帝としての地位を固めていく劉徹。大胆かつ細心の用兵で武才を発揮する衛青。強烈な使命感によって地獄の旅を続ける張騫。男たちの命がけの戦いが同時進行する、壮大な物語の第1章である。
久しぶりの中国歴史大河ロマンだったが、予想以上に楽しめた。これを読んでいる自分と、場所も時代もまったく違うこの物語は、いわば、もう一つの「スター・ウオーズ」なのかもしれない。
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