芝山幹郎さんの新著『アメリカ映画風雲録』(朝日新聞出版)が出た。
「映画評論」というほど硬くはないので、勝手に「シネマエッセイ」と呼ばせていただくが、この本、映画好きには、たまらない一冊だと思う。
豊富な資料で映画の製作過程を語るシネマエッセイ集。
コッポラが『ゴッドファーザー』で見せた説得の天才ぶり。キューブリックとピーター・セラーズが生んだ『ロリータ』の悪夢性。そしてイーストウッド監督誕生秘話など、製作者たちの強烈な個性と映画への執念に圧倒される。
読んでいくと、芝山さんは、クリント・イーストウッドが特にゴヒイキなのではないかと推察される。
まず、セルジオ・レオーネ監督とのマカロニ・ウエスタン三部作(『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、そして『続・夕陽のガンマン』)の中では、『続・夕陽のガンマン』でのイーストウッドの「引きの芝居」を高く評価している。
また、ドン・シーゲル監督とのコンビによる『白い肌の恐怖』から『ダーティハリー』への流れにも言及。シーゲルと映画会社との”戦い”の内幕も面白い。
そうそう、映画会社との熱戦や冷戦では、この本で紹介されるコッポラも凄まじい。
そして、いよいよ監督としてのイーストウッドだ。こちらは『ミリオンダラー・ベイビー』の分析が登場する。原作の映画化を決意する際、「気の滅入る話だ。でも、ゴージャスじゃないか」と語ったというエピソードなど、嬉しくなってしまう。
この本の巻末には、参考文献として、かなりの数の洋書が並んでいる。芝山さんのシネマエッセイは、こうした第一次資料の読み込みから生まれる。だから、繰り出されるエピソードが生き生きしているのだ。
ところで、この芝山さん。詩人であり、スティーブン・キングなどの翻訳家であり、スポーツにも造詣の深い評論家であり、なおかつ秀逸な映画エッセイをお書きになる・・・と、実に不思議な方なのだ。
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