『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・社員教育の果てに(上)

2010年04月28日 18時30分16秒 | ■世事抄論
 

 以下は、『ラーメンどんぶりとコイン』から半年ほど経過した頃の話。したがって、ほぼ20年前ということになる。関西のある不動産会社から研修講師の依頼を受けた。地元では名の通った会社であり、大阪エリアに3、4店舗を展開していた。典型的な同族経営の会社として、三人の兄弟が会長、社長、そして専務を占めていた。

 三兄弟のうち、取引先との折衝があるという会長と専務は翌日のみの参加となり、研修には社長だけが参加していた。だがその社長も、夕食時には他への会合参加のために退席してしまった。三兄弟は、いずれも50代半ばから60代半ばではなかったろうか。

 筆者を講師にと依頼したのは、常務のS氏であり、氏は銀行から“出向”の取締役だった。後に判ったことだが、メインバンクから“お目付け役”として送り込まれた方のようだ。S常務は筆者主催の講演会(大阪)に社員数人と参加された後、講師をお願いしたいとのお手紙をくださった。

 宿泊研修は朝10時から始まり、次の日の午後3時までとなっていた。研修の多くは会社の役員や幹部が講師を務め、ゲスト講師の筆者は、売買・賃貸の営業担当者(20数名。女性5,6人)に「不動産仲介のこころえ」を2時間ほど語った。翌日は朝9時から12時半まで「売買仲介の実務実践」を話すことになっていた。
 
 その日の夕食は、みんな結構アルコールが入ったようだ。翌日も研修があるため、控えるようにとの“お達し”はあったものの、社員はどこまで真剣に聞いていただろうか。そのため男子社員の舌は次第に滑らかになり、典型的な関西人の“ノリ(乗り)”による賑やかしい雰囲気に包まれていった。

 あちこちで今日の感想や日常業務に関する討論が活発に始まり、上司や先輩が部下や後輩を叱咤激励する場面も見られた。だが明らかに励ましの域を超えたものもあり、次第に声が大きくなって来たように感じられた。

 秘かに懸念していたことが現実となった。課長や係長クラスの二、三人が、「特定幹部」の批判を始めたのだ。複数社員の勢いは相剰的に増し、興味本位の社員がいつの間にか一人、二人と話の中に加わっていた。特定幹部の批判は、やがて役員三兄弟の緩やかな批判へと続き、さらに他業者や取引先その他へと際限もなく広がっていった。

 三兄弟がいない今、S常務が最高責任者であり、このままではまずいと思った常務と筆者は、彼等の中に割って入った。ところが、一人の社員が、私の研修内容に苦言を呈し始めた。彼の言い分とは……。

 ……“仲介のこころえ”の話はごく当たり前の内容であり、当社の社員であれば誰もがそのレベルに達していると思う。また先生の持論の「優しい上品な営業マン」では、とてもこの関西の激戦区を勝ち抜くことはできない。それに九州と関西とでは、市場規模も商慣習もかなり異なるため、営業マンの“こころえ”もそれなりに異ならざるをえないのでは……。

 『言ってくれるじゃないの……』。まだ青臭さが残っていた筆者は、そのとき正直言ってカチンと来た。こうまで言われたのは、後にも先にもこのときが初めてだった。だがこのときのS常務とM課長の対応は、“人間関係の処し方”として奥深いものがあった。

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