『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・『愛と青春の旅立ち』-8/“行くところがない?!”ザック

2012年06月03日 15時22分14秒 | ◆映画を読み解く
 
 【14】 「しごき」はフォーリー教官の「戯れ」?!
 
 フォーリー教官による「夕暮れの砂浜」での“特別な意味を持った個人的特訓”。もちろんそれは、すでにお判りのように、ザックに「DOR」(自主退学願い)を迫るための「虐(いじ)めに」近いものです。
 
 次の「シーン」は翌日の「虐め」の続きですが、みなさんはもうお気づきでしょう。確かに同教官はザックを「しごいて」はいます。しかし、その表情やザックに投げかける言葉のどこかに、「ザックと戯れている」ようなニュアンスが感じられませんか? すなわち「本気で退学させようとは想っていない」……そんな気がしませんか?
 
 もし、彼が本気でザックを「退学」をさせるつもりであれば、彼はいつでも指導教官としての「実権」を行使できるのです。憶い出してください。訓練校入校日の集合整列の際に、彼はこう言っていました。
 
 ――ときには汚い手段を使ってでも、貴様らの無能を暴く。パイロットとして不適格な奴らだ。わかったか?
 
 「ときには汚い手段」――。実際には「こういう言い方」はしないと思いますが、映画の「伏線」として不可欠だったのでしょう。ザックとフォーリー教官との関係を考える上でも、「この一節」は重要な意味を持っています。
 
 つまりフォーリー教官は、ザックを「試している」のです。「パイロットになりたい」という気持が「どこまで本当なのか」、その真意を測ろうとしているのです。
 彼の本音は、『虐めにも似たシゴキに耐えられるようであれば、(学校に)残してやろう』。そういう意図があるのでしょう。もし「耐え切れないのであれば、所詮は「それだけの訓練生」でしかなく、「不適格者」として今度こそ“確実にDOR”をさせるだけのことです。
 
 と言っても、早合点しないでください。フォーリー教官は、ザックの「生立ち」や父親バイロン、そして母親の自殺等を“気遣って”そう考えているのではありません。あくまでも、米国海軍の「戦闘パイロット」に相応しい「人材」かどうかを“見極め”ようとしているにすぎないのです。
 
 訓練中の掛け声などにも出て来ましたね。『女子供の頭の上にナパーム弾を投下できるか』であり、そのようなMISSIONに沈着冷静に対処できるか否かということです。少なくとも、「この時点」でのフォーリー教官の真意はそうだったのでしょう。
 
 
  
 【15】 “行く所がない?!”
 
 二人の「会話」は、重大な局面に差し掛かってきます。そこで映画の進行をそのままを再現してみましょう。
 
 ――どうだ、メイヨ。馬鹿なことはやめてビールでも飲まないか。どうせ士官になれっこないんだ。
 
 ――私は士官になってみせます。
 
 ――お前のような利己主義の奴がなれると思うか? 戦場で誰がお前に命を預ける? 
    最新鋭機に乗るが早いか敵に売り渡す奴だ。
 
 ――私は祖国を愛しています。
 
 ――デタラメは空軍に言え。
 
       ☆
 
 
 ――なぜだ。なぜお前みたいな奴がシゴキに耐える?
 
 ――ジェットを……
 
 ――それだけか?
 
 ――子供の頃からの夢です。
 
 ――その性格じゃ望みない。
 
 ――私は変わりました。……本当です。
 
 ――ネコをかぶっているだけだ。申請するのだ。DORを。……申請しろ。
 
 お判りのように、ザックの返事は「当たり障りのない常識的なもの」です。無論、そのような「月並みな返事」を許すようなフォーリー教官ではありません。
 
       ☆
 
 ――言ってみろ。D・O・R。ここを出て、親父と女を買いに行け。
 
 ――ノー、サー。
 
 ――DOR!
 
 ――いやです。
 
 ――そうか、たたき出してやる。
 
 ザックはその言葉に猛然と反発して起き上がり、激しい抵抗の表情を見せます。
 その怒りは頂点に達し、
 
 ――そんなことはさせないぞ!
 
 その言葉のあまりの強さに、思わずフォーリー教官も振り返ります。
 
       ☆
 
 
 ――行く所がない。行く所がんないんだ。
 
 半べそをかいたザック。でもどこか吹っ切れた表情でフォーリー教官を見つめています。
 フォーリーはフォーリーで、“予想もしなかった”ザックの言葉を聞いたという驚きの表情です。
 
 ザックはフォーリー教官を大きな息をしながら睨み付け、
 
 ――僕には……。
 
 そう言って、ザックはひと呼吸おいて頭を抱えます。
 
 ――……何もない。
 
 フォーリーが求めていた“ザックの本心”であり、ザックが初めてフォーリに“心を開いた瞬間”です。
 
 ――判った、メイヨ。立て。
 
 立ち上がるメイヨ。その様子を見守るフォーリー教官。相互不信と緊張から解き放たれた二人が、深い絆で結ばれたように歩き始めます。
 
       ☆
 
 「場面」が変わり、海が大きく広がっています。水平線を画面上部に取り込んだため、晴天の「空の青」の下の「紺碧の海」が、いいですね。
 まさに「映画」でしかなしえない表現です。
 
 ――兵舎に帰ろう。
 
 フォーリー教官の「眼差し」には、「鬼軍曹」の面影はありません。そこには、“どのようなことがあっても息子を受け止めて行こう”とする、寛いそして深い“父親の愛”のようなものが感じられます。
 その直後、シド、ポーラ、リネットの三人が、ザックとフォーリー教官に呼びかけるように「お尻」を出したままボートで走り去って行きます。
 
 ――友達か?
 
 ――イエス、サー。
 
 樹にかかった大きな「入道雲」が、とてもよく“効いて”いますね。(続く
 
 

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