『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・雨の日に傘を差してトイレへ行く家(安藤忠雄/住吉の長屋:上)

2010年10月23日 18時04分14秒 | ■芸術・建築の巨匠たち

 

 「TADAO ANDO」として世界的に知られている「安藤忠雄」氏。日本でもっともポピュラーな建築家であり、講演会は無論、テレビでも“超”がつくほどの“人気”を集めています。私も何度か同氏の講演会に行きましたが、建築関係ではない一般の方が多いのが特徴でしょうか。

 氏の設計による住宅に、『住吉の長屋』(大阪の住吉)という“小さな家”があります。おそらく日本で一番有名な「個人住宅」と言っても過言ではありません。建築好きの方であれば、ご存じのはずです。鉄筋コンクリート「打ち放し」の2階建てであり、昔からあった「木造長屋」の一部に「建て替えられた」ようです。

 この住宅ほど、建築界にインパクトを与えた住宅もないと思います。大げさかもしれませんが、“住まいとは……、建築とは……”と言う根源的な問いを投げかけています。“プロ好み”の「住宅」であり「建築物」と言えるでしょう。事実、この住宅は「建築賞」を受賞し、今も建築学習者の教材にされたり、卒論のテーマに選ばれたりしているようです。

 私見ですが、「RC一般住宅」の“古典”の地位を築きつつあるような気がします。『住吉の長屋』と検索するだけで相当数のサイトやブログがあり、写真(動画も)や感想が山ほど出て来ます。いかに多くの方が、この住宅に愛着や関心を持っているかが判ります。ぜひ一度、検索してみてください。

 敷地(狭小地)いっぱいに建てられたこの建物の「建築面積」は、3.3m×1.41m=46.53㎡。約14.07坪(約28畳分)でしょうか。家の中に「中庭」があります。「中庭」という以上、もちろんその上部には「屋根」も「天井」もありません。そのため、雨の日にトイレ(1階)に行く場合、“傘をさす”必要があります。「家」のど真ん中に「外部空間」があるわけですから、必然そうなるでしょう。

 つまり、“トイレに行く”ということは、「部屋」→「中庭(=室外)」→「トイレ」、そして「トイレ」→「中庭(=室外)」→「部屋」と“移動する”ことを意味しています。当然そのたびに、“冬は寒い冷気に、夏は暑い熱気に晒される”わけです。“それだけ”を採りあげるとき、まことに理不尽な家に違いありません。
事実、この住宅が発表された当時は、賞賛の声とともに、非難も相当あったようです。……“建築家の傲慢さの表れ”“住宅なるものの基本中の基本を逸脱している”“そこまでして、自然を採り入れる意味があったのだろうか”云々。

 ではなぜそこまでしたのかということです。その理由は、第一に「狭小地」を最大限に活かしたいとの思いがあったのでしょう。第二に、プライバシーを守りながら“自然の光と気配”をできるだけ保ちたい……。前述の“建物の全部を天井や屋根で覆うことができなかった”というのは、「建ペイ率」や「容積率」という法規をクリアするためですが、同時に“自然の光と気配を保つ”ためでもあったのは事実です。

 ……と言えば、“だからと言って、トイレに行くのに傘をさすなど……。それを回避したプランもできたはずでは……”と叱られそうです。確かにごもっとも。しかし、建築家も施主も、なぜかそちらを選択したのです。

       ★   ★   ★

 ――傘を差してトイレへ行く家。だから、あっしもかみさんに、『星を見ながら、ションベンに行くってえのも、風流だねえ』って言ったんです。そしたらかみさん、すかさず、『あなたの“風流”は、例え何歳になっても、また身体がどんな状態になっても、独りでおトイレに行けるってことでしょ?』って、念を押されちまいましてね……。


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