“Less is more.”
建築を勉強した人なら、一度は耳にした“言葉”ではないだろうか。フランク・ロイド・ライトやル・コルヴィジェとともに、建築界における《世界的な三大巨匠》と称されたルードヴィッヒ・ミース・ファンデル・ローエによる有名な一節。
“少ないほど豊か”と訳される。一語一語の響きも、各語の繋がりも申し分ない。何度も舌の上に転がしてみるとよくわかる。ふだん英語を口にしなくとも、言葉が一気に流れていく。“レス・イズ・モア”ではなく、“レシスモゥ”と。
しかし、職人上がりの寡黙なミースであれば、“レシスモゥ”とは言わなかったのかもしれない。国籍こそアメリカ人だが、ミースはドイツ生まれのドイツ育ち。
しかも哲学をこよなく愛したという。そうであれば、やはりここは一語一語区切るように、“レス・イズ・モア”と発音した方が似合いそうだ。彼自身のデザインになる例の「バルセロナ・チェア」に身体を預け、紫煙をくゆらせながら、ゆっくりと諭すような感じがいいのかもしれない。
本来、この言葉は建築において、『もっとも単純な手法で最大の効果を得る』という趣旨で使われたという。「鉄」と「ガラス」という、今でこそ何でもない素材をふんだんに使い、材料面、構造面、そして空間構成面において、まさしく《近代建築の巨匠》となりえたミース。広い開口部のガラスの窓を多用した「ファンズワース邸」は、素材数や形において、これ以上のものは考えられないほどシンプルであり、“ミース美学”の一つの到達を示している。
つまり、“Less is more.”とは、「シンプリシティ(簡素、純真)」の究極を、文字通りシンプルに言い切った表現とみることもできるだろう。
“Less is more.”……“少ないほど豊か”。
日本語に置き換えてみても、この“言い回し”は完璧といえるほどまとまっている。そのため、ついさまざまな場面で使いたくなる。
『……さあさあ、机の上は何もないほどすっきり片付いている方がいいですね。ほらほら、余計なものはさっさと片付けて……。 Less is more!』
『ああ、部長。朝からそんな説教めいた話なんて、どうせ誰も……でしょうから、ぐ~んと短く……。ほんとにひとことですよ……。less is more!』
『あっ! 奥様! そんなに大量の装身具はいかがなものかと。少ないほどかえって引き立つということも。ほら、ご覧なさい! あそこのご婦人を。いいですね。さりげない小さなイヤリング一つだけというのも……。 Less is more!』
『 MONEY? Less is …ah……more…? OH! NO! Less is POOR!』