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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

よくわからないけど、あきらかにすごい人

2024-06-05 18:57:11 | 穂村弘
穂村弘 2023年 毎日文庫
これは5月くらいに買った、わりと新しめの文庫、すぐに読んでみた。
穂村弘さんによる対談集なんだけど、2019年に『あの人に会いに 穂村弘対談集』ってタイトルで単行本が出てたんだそうだ、まちがって古本で単行本買ったりしないようにしないとね。
ややこしいことに、『辞書のほん』(PR誌?)に掲載してたときは『穂村弘の、よくわからないけど、あきらかにすごい人』ってタイトルだったらしい、単行本にしたあと文庫にするとき元に戻したってことか、まあ、このほうがたしかにいいタイトルなんぢゃないかとは思う。
対談相手は穂村さんのいわば憧れの人ってことになる、創作活動をするいろんなひとに、どうしたらそんな素晴らしいもの作ることできるんですかってあたりを聞きにいく、っていう楽しそうな企画。
私のよく知らないひとが多いんだけど、まあスゴイものを作るひとの話なんだから、読んでておもしろい、一回あたりの分量がちょっと少ないように思えてそこが物足りないくらい。
写真家・荒木経惟さんの回とか、とにかくおもしろい、なんせ自分のこと天才と自認してっから、その発言がちょっとふつうぢゃない。
自分の才能を確信してても、そのこと証明できない人いっぱいいるけど、ほかの人となにが違うのかと問われて、
>生まれつき、としか言えないかもね。(p.76)
とか、カッコいいっす、続けて、
>ダメなやつがいくら撮ってもダメなんだよ。撮る人の人間性を写真がバラしちゃうんだ。(p.77)
とか言い切るのも、うらっかえせば自分はスゲエって言ってるってことだよね。
撮影のときに被写体とどう向き合うか問われると、
>愛しい気持ちをぶつけてくんだよ。(p.78)
って答えるまでは、ふつうの写真家でも言いそうだけど、更問として、ぢゃあ建物とかに対して自分のなかの愛情ってどう見つけるのかって訊かれて、
>そこにアタシの才能が溢れ出ちゃってるんだよ(笑)。(p.79)
って答えちゃうんだから、天才なんだからしょうがないというか。
でも、1972年に電通を辞めたころについて触れたときに、
>あのころはまだ、心の中が舗装されてない時代だったよ。(p.84)
って、さらっと言ってるあたりに、なにかのヒントがありそうな気がする。
谷川俊太郎さんのインスピレーションに関する話も興味深いものあった。
インスピレーションって、空から降ってくるとかって(雷に打たれるとか?)イメージのほうが一般的っぽいんだけど、谷川さんは「下から来る」んだという。
どういう体感なのかと問われて、
>植物が土のなかに根をはりめぐらせ、養分を吸い上げるイメージです。日本語という土壌に根を下ろしているという感覚が、ぼくには常にあります。日本語はすごく豊かですよね。長い歴史もある。その土壌に根を下ろして、そこから言葉を吸い上げて、ある種のフィルターによって言葉を選ぶ。そして葉っぱができたり花が咲いたりするように詩作品ができてくる。(p.17)
って答える、すごくいい表現です、下から来るものは尽きることがないから信頼できる、とも言われると、そっかー地に足つけて生きてかなきゃって気にさせられる。
ちなみに、別の人との回で穂村さんは、
>たとえば、将棋って二人でやるゲームですけど、自分と相手だけじゃなくて、その対局を見ている神様がいるっていう感覚があると思うんです。(略)
>それと同じようなことが、短歌にもある。五七五七七という枠にはまる究極の一首があるはずだっていう感覚です。その一首を書けたときに拍手の音が聞こえてきて空が割れて「ついにその歌を書いたんだね」って神様が降りてくるようなイメージですよね。(p.132)
みたいなこと言ってるんで、やっぱどっか上から降りてくるイメージもってるのかなって思わされた。
あと、高野文子さんのマンガって、私にとって読むの難しいかもって気がしてたんだけど、穂村さんが本書の対談で、通常のマンガの暗黙のルールとちがうものあって、「なんだか作品から攻撃されているような」というと、
>攻撃してたんですよ。マンガは、攻撃しなきゃだめだと思ってやってたんです。(略)
>よし、どこから斬りつけてやろうか、って考えて描いてたんですから(笑)。(p.142)
って作者ご本人が答えてるんで、あー、そうだったのね、と思った。ふむふむ。
コンテンツは以下のとおり。
谷川俊太郎 詩人
 言葉の土壌に根を下ろす
宇野亞喜良 イラストレーター
 謎と悦楽と
横尾忠則 美術家
 インスピレーションの大海
荒木経惟 写真家
 カメラの詩人
萩尾望都 漫画家
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佐藤雅彦 映像作家
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