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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

特別料理

2024-01-11 19:19:24 | 読んだ本
スタンリイ・エリン/田中融二訳 二〇一五年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
これは前に読んだ『くじ』と同じように、『厭な小説』の巻末解説に、
>(略)厭な話好きな方は読んでおくべき作品。これのヴァリエーションとなる作品もあるので、基礎教養としても読まねばならない。(略)料理ミステリの古典としても有名な、厭な話である。
と読書案内されていたので、去年10月ころだったか買い求めた古本の文庫。(私は特に厭な話好きではないのだが。)
原題「MYSTERY STORIES」って短篇集は1956年発行らしいが、なんでも一年にひとつくらいしか短篇を書かないのでデビューから10年くらいかかったとか。
全部で10篇が収録されてるが、どれもなかなかおもしろい、あんまり厭だって感じはしないし。

「特別料理」 The Specialty of the House
ひとけのない街路の地下にあるレストランは、メニューもなく出された料理を食べるほかなく、テーブルの上には塩などの調味料なし、アルコール類も出さない。
しかし、そこの料理はまちがいなくうまく、常連に言わせれば芸術的とか人類の文化の頂点ってことになる。
ところが、そんなふだんの献立にもまして、ほんの稀にしか出ない特別料理の味ときたら、もう比べるもののないくらいすごいんで、
>(略)実際、わたしはただあれのことを考えるだけで気が狂いそうだ。脂がのったチョップでもなし、固すぎる脚肉でもない。そうじゃなくて、世にも珍しい種類の羊の一番いいところの肉なんだよ――原産地の名前をとってアミルスタン羊っていう(p.34-35)
というんだが、ここまで読んで私は思い出した、大昔に読んだ星新一の『進化した猿たち』のなかに、なんだかの肉はアミルスタンの羊のごとくうまいのだそうだ、とか書いてあったことを。そうかこの話だったのかとひとりで合点。

「お先棒かつぎ」 The Cat's-Paw
求人広告に応募したクラブトリー氏は、比較的簡単な事務仕事でいい給料をもらえる仕事についたが、ある日雇い主の男がオフィスにやってきて、与えられた役割を勤勉に果たしたいなら、ひとを一人殺してくれと言い出した。

「クリスマス・イヴの凶事」 Death on Christmas Eve
クリスマス・イヴのたそがれに顧問弁護士の男がベーラム邸を訪ねてチャーリーに面会する、チャーリーの妻ジェシーは以前に邸の階段から転げ落ちて死んだのだが、チャーリーは自分の姉セリアが突き落としたのだと疑っているが、死因審問では犯罪ではないと結論されていた。

「アプルビー氏の乱れなき世界」 The Orderly World of Mr. Appleby
アプルビー氏は美術骨董品店を営んでいて、食が細く、物があるべき場所にないと神経にさわるような男だったが、結婚しては事故で妻を亡くし遺産を受け取るということをもう六度も繰り返していた。

「好敵手」 Fool's Mate
五十の坂を越えようというジョージはさらに年配の人からチェスのセットをもらったが、妻のルイーズは興味を示さず相手になろうとしない、しかたなくジョージは一人で黒と白を交互に手を並べていく日々が続く。

「君にそっくり」 The Best of Everything
何度か職を変えてホートン社につとめているアーサーは家柄と出身校が一流ぢゃないことにコンプレックスをもっていたが、あるとき以前ホートン社につとめていたというチャーリー・プリンスという好青年と出会う、チャーリー・プリンスはいいとこの出なのだが家から追い出された身で仕送りのカネが届くまで現在は宿無しだという、アーサーは自分と同居するようにすすめて彼の所作を自分のものにしようとした。

「壁をへだてた目撃者」 The Betrayers
ロバートのアパートの壁は薄いので隣の部屋の音もふだんからよく聞こえた、彼は隣室の女性の声を聞いては愛らしい女性だと想像していたが、彼女の夫が乱暴者らしい様子もうかがえた、そしてある日隣室の男女の間で口論が起き格闘のうえ柔らかいものがどさりと床に倒れる音が聞こえた。

「パーティーの夜」 The House Party
俳優のマイルスは自宅の外で気を失っているところを見つけられて運びこまれて気がついた、自宅ではパーティーを開いていたのだが彼はそういう集まりに嫌気がさしていた、好評といわれている今の舞台もやめてしまいたいと思ったが、興行主は途中降板は認めないという契約書があるといって口論になる。

「専用列車」 Broker's Special
株式仲買人コーネリウスはめずらしく決まった列車ではない便で早く帰宅したところ、駅から家までの道で妻と誰か一人の男が同乗している車とすれちがった、妻の浮気相手に殺意をもったコーネリウスは自宅で拳銃を手にとったが、そのとき以前老判事に「完全な凶器はたったひとつ自動車だ、微罪で済む」という話を聞かされたことを思い出す。
どうでもいいけど、本文中に「(略)他の連中の様子に、そこはかとなくみだりがわしいものがつきまとっているように(略)」って箇所があって、「みだりがわしい」って語は知らなかったんで辞書ひいたら「猥りがわしい」ってちゃんとあった、いいトシして新しいボキャブラリーに翻訳もので出会うとは不思議なものだ。

「決断の時」 The Moment of Decision
語り手の「私」の義兄ヒュー・ロジャーは徹底的な自信家で伝統ある館に住んでいたが、あるとき敷地の隣にあたる館にかつての奇術王レイモンドが住むようになったのが非常におもしろくなかった、衝突した二人を仲直りさせようとヒューの妻は晩餐にレイモンドを招くが、さらにいさかいは激化することになりヒューはレイモンドへある賭けをもちかける。
一読したなかでは私はこの作品のラストあたりがいちばん好きだな。

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